仕事を辞める前に整える技術|Give and Takeだと思っていた私が30年かけてわかったこと
ずっと、
仕事も人間関係も、基本は
「Give and Take」だと思っていました。
何かをしてもらったら、何かを返す。
こちらが価値を出したら、相手からも何かが返ってくる。
助けてもらったら、今度はこちらが助ける。
それはそれで、とても大事な考え方だと思います。
一方的に奪う関係は続かないし、
どちらかだけが我慢する関係も、いつか苦しくなる。
だから若い頃の私は、
人との関係も、仕事も、ビジネスも、
どこかで「Give and Take」だと思っていました。
でも、30年前のある日、
その考え方を少し揺さぶられる言葉をもらいました。
大学のゼミで、私がゼミ長をしていた頃のことです。
ゼミ長という立場ではありましたが、
当時の私はまだ、人をまとめることの意味も、
信頼を積み重ねることの重さも、
今ほどわかっていなかったと思います。
そんなとき、
ゼミのOBで、会社を経営されている方から、
こんなことを言われました。
「森屋くん、Give and Give and Give やで」
正直、そのときの私は、
「はぁ……」
という感じでした。
意味がまったくわからなかったわけではありません。
でも、腹落ちはしていませんでした。
当時の私はまだ若くて、
頑張ったら認められたい。
やった分は返ってきてほしい。
自分ばかり損をするのは嫌だ。
そんな気持ちも、どこかにありました。
だから、
「与え続けるって、損することじゃないのか」
「それって、都合よく使われるだけじゃないのか」
「Giveしたら、Takeもあって当然じゃないのか」
そんなふうにも感じていたと思います。
今振り返ると、
その感覚も決して悪いものではありません。
若い頃は、
自分の存在を認めてほしいし、
頑張ったことを見てほしいし、
努力した分だけ評価されたい。
それは自然なことです。
私もそうでした。
ただ、今なら少しわかります。
あのとき言われた
「Give and Give and Give」は、
自分を犠牲にしなさいという意味ではなかったのだと思います。
我慢しなさい。
損をしなさい。
相手に尽くし続けなさい。
そういう話ではない。
たぶん、もっと大事なことを言ってくれていたのだと思います。
まず、自分から価値を出す。
まず、自分から信頼を積む。
まず、自分から相手の役に立とうとする。
その姿勢が、
人との関係や仕事の土台になる。
今は、そんなふうに感じています。
もちろん、Give and Takeが悪いわけではありません。
仕事には対価が必要です。
契約も大事です。
自分を安売りしないことも大事です。
何でも無料でやればいいわけではないし、
自分をすり減らしてまで与え続ける必要もありません。
ここを間違えると、
「Give 」は、ただの自己犠牲になってしまいます。
私が今感じているGive は、
自分を削ることではありません。
自分にあるものを、
自分にできる形で、
必要としている人に差し出すことです。
知識でもいい。
経験でもいい。
言葉でもいい。
気づきでもいい。
話をちゃんと聴くことでもいい。
大きなことをしなくても、
人は誰かに何かを渡すことができます。
これは、現役SEとして仕事をしてきた中でも、
何度も感じてきたことです。
システム開発の現場では、
自分の担当だけ終わればいい、
という働き方もできるかもしれません。
でも、それだけでは、
本当の信頼はなかなか積み上がりません。
困っている人に少し声をかける。
後工程の人が困らないように、資料を残す。
トラブルになりそうなことを、先に共有しておく。
新人や若手が迷っていたら、少しだけ道筋を伝える。
相手が理解しやすい言葉に置き換えて説明する。
そういう小さなGive が、
現場を支えているのだと思います。
もちろん、それが毎回わかりやすく評価されるわけではありません。
むしろ、
誰かのために先回りしておいたことほど、
表には出ないこともあります。
トラブルを未然に防いだことは、
「何も起きなかったこと」として流れていく。
後工程の人が困らないように整えておいた資料も、
当たり前のように使われて終わる。
でも、そういう見えにくいGive の積み重ねが、
「あの人に任せると安心だ」
「あの人はちゃんと考えてくれている」
という信頼につながっていくのだと思います。
コーチングや相談の場でも同じです。
人は、すぐに答えを押しつけられると身構えます。
すぐに売り込まれると距離を取りたくなります。
正論だけをぶつけられると、心を閉じてしまうこともあります。
でも、
本当に自分のことを考えてくれている人には、
少しずつ心を開いていきます。
この人は、ちゃんと聴いてくれている。
この人は、急かさずに待ってくれている。
この人は、奪おうとしていない。
この人は、必要な言葉を渡してくれる。
そう感じたときに、
信頼は少しずつ積み上がっていくのだと思います。
若い頃の私は、
どこかで「返ってくるかどうか」を見ていたのかもしれません。
これだけやったのだから、認めてほしい。
これだけ頑張ったのだから、評価してほしい。
これだけ渡したのだから、何か返してほしい。
それは、とても人間らしい感情です。
私もそうでした。
でも、今は少しだけ違います。
まず、渡す。
まず、役に立つ。
まず、信頼を積む。
その積み重ねが、
すぐではなくても、
別の形で返ってくることがある。
お金として返ってくることもある。
ご縁として返ってくることもある。
信頼として返ってくることもある。
必要なタイミングで、誰かが助けてくれることもある。
しかも、返ってくる相手が、
自分がGive した相手とは限りません。
返ってくるタイミングも、
今日や明日とは限りません。
何年も経ってから、
「あのときの姿勢が、今につながっていたのかもしれない」
と気づくこともあります。
人生は、短期的な損得だけでは測れない。
そう感じるようになりました。
ただし、ここで大事なのは、
Giveには順番があるということです。
自分がボロボロのまま、
無理をして与え続ける必要はありません。
疲れ切っているのに、
誰かの期待に応えようとし続けることが、
必ずしも優しさとは限りません。
自分を壊してまで与えることは、
Giveではなく、消耗です。
本当に大切なのは、
まず自分を整えること。
自分の状態を知る。
無理をしていることに気づく。
守るものと、変えるものを分ける。
今すぐ決めることと、整えてから決めることを分ける。
そのうえで、
自分にできる形で誰かに差し出す。
それでいいのだと思います。
Giveは、立派なことをすることではありません。
目の前の人に、
自分ができることを、
少しだけ丁寧に渡すこと。
それは、仕事でも同じです。
すぐに辞めるか、続けるかを決める前に、
今の自分が何に疲れているのか。
何を守りたいのか。
何を変えたいのか。
どんな働き方なら、自分を壊さずに人の役に立てるのか。
そこを整えることが、
本当の意味でのGive にもつながっていくのだと思います。
無理をして与えるのではなく、
自分を整えたうえで、自然に渡せるものを渡す。
それが、
長く信頼される働き方であり、
自分を捨てない生き方でもあるのだと思います。
30年以上前に言われた言葉を、
当時の私は受け取れていませんでした。
でも、本当に大事な言葉は、
時間が経ってから効いてくることがあります。
仕事をして、
失敗して、
人間関係に悩んで、
独立も経験して、
また現場に戻って、
人の相談を聴くようになって。
そうやって時間を重ねた今、
ようやくあの言葉の意味が少しわかるようになりました。
Give and Give and Give。
それは、
「損をしなさい」という意味ではなく、
「信頼される人として生きなさい」
ということだったのかもしれません。
そして、もうひとつ。
Give and Takeで考えていた頃の私は、
どこかで返ってくることを待っていました。
でも今は、
まず自分から信頼の流れをつくること。
その大切さを感じています。
すぐに返ってこなくてもいい。
同じ相手から返ってこなくてもいい。
形が違って返ってきてもいい。
ずっと先の未来でつながってもいい。
自分から信頼の流れを止めない。
それが、30年以上かけて、
私がようやくわかってきたことです。
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