【マンガレビュー】魔法学園という名の魔宮――『七つの魔剣が支配する』が示した本格ファンタジーの真髄
近年のラノベ、マンガ&アニメ界において、異世界や魔法を題材とした作品は枚挙に暇がありません。
しかし、その多くがいわゆる転生による全能感やシステム化された成長物語に傾倒、要するに読者が簡単にカタルシス(俺ツエー感)を得られるストーリーテリングとなる中で、これほどまでに重厚で、血の通った「剣と魔法の物語」に出会えることは稀です。
今回ご紹介するコミカライズ版『七つの魔剣が支配する』は、まさに大人が読むに堪える、知性と情熱が凝縮された一作でした。
本作の舞台は、名門キンバリー魔法学校。満開の桜と魔法生物による華やかなパレードに彩られた入学式から物語は始まります。
しかし、その華やかさはあくまで表層に過ぎません。一歩足を踏み入れれば、そこは生徒の命すら保障されない、生きた魔宮。
このあまりにも殺伐とした世界観を、原作の空気感を損なうことなく、かつ漫画として完璧なバランスで描き切ったのが、「未来日記」などでおなじみのえすのサカエさんです。
えすのさんといえば、緻密なストーリーテリングと、読者の視線を釘付けにする画面構成に定評があります。
本作においても、その手腕は遺憾なく発揮されていました。
魔法学園ものというジャンルは、往々にして設定が複雑になりがちです。
いくらでもファンタジー的な要素を盛り込めるからです。
魔術の理論、亜人種を取り巻く社会情勢、そして作品の根幹を成す魔剣という概念。
これらを読者に負担を感じさせることなく、物語の奔流の中に組み込んでいく構成力には、ただただ脱帽するほかありません。
特に印象的なのは、学園内の空気感の演出です。
かつて世界を熱狂させたハリー・ポッターシリーズを彷彿とさせつつも、その内情はより過酷で、鋭利な刃物のような緊張感に満ちています。
地下迷宮には遭遇しただけで命を落としかねない上級生(モンスターじゃなくて学生の先輩なのです)が跋扈し、教職に就く者たちですら、必ずしも生徒の味方ではありません。
そんな地獄のような環境でありながら、生徒たちが互いをミスター、ミズと呼び合うなど礼節を保とうとする姿には、魔法使いとしての矜持と、どこか退廃的な美しさが漂っています。
キャラクター造形の深さも、本作が単なる娯楽作に留まらない理由の一つです。
主人公のオリバーを中心とした六人の仲間たちは、それぞれが拭い去れない背景を背負っています。
東の国から来たサムライガール・ナナオの純粋ゆえの危うさ、亜人種の人権獲得に奔走するカティの理想と現実のギャップ、さらには性別が不安定なピートという複雑な存在。
彼らが単なる記号的な役割に陥らず、一つの目的のために友情を育んでいく過程は、大人の読者の胸を熱くさせるものがあります。
しかし、これほどまでの完成度を誇りながら、物語が第8巻で幕を閉じてしまった事実は、一人の読者として痛恨の極みと言わざるを得ません。
原作小説において語られるはずの、他の魔剣の全貌や、主人公オリバーが胸に秘めた壮絶な復讐劇の行方。
それらがえすのさんの画で見られなくなるという喪失感は、言葉に尽くしがたいものがありました。
特に、オリバーという主人公の描き方については、もう少しその勇姿を拝みたかったというのが本音です。
初期の表紙では、近年のトレンドを反映してか、ヒロインたちが前面に押し出される構成が目立ちましたが、物語が佳境に入る第7巻、第8巻で見せたオリバーの凛とした立ち姿、そして彼が背負う闇を体現したような格好良さは格別でした。
このまま彼が母の仇である教師たちと対峙し、いかにしてその宿願を果たすのか。
六つの魔剣に加え、新たに現れた七つ目の魔剣。
その存在が世界をどう揺るがしていくのか。
そのドラマを、えすのさんの構成力でもっと長く、深く味わいたかった……。
それらの片鱗を見せたところで物語が終わってしまったことは、確かに残念です。
しかし、この全8巻に凝縮された密度は、他の長編作品にも引けを取らない輝きを放っています。
安易なカタルシスに逃げず、魔法という力の残酷さと美しさを正面から描き切った本作は、本格ファンタジーを愛するすべての人に、今こそ手に取っていただきたい傑作だと私は思います。
たとえ連載は終了しても、オリバーたちの戦いは私たちの想像力の中で、そして未読ですが多分原作の中で、続いていきます。
復讐の果てに彼らが何を見るのか。
その答えを追い求める旅は、ここから始まるです。

