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【短編小説】夏の白光

※時系列は薄藍のファインダーの数ヶ月後


 窓の外は光に包まれていた。夏の日差しはキラキラと光り輝いて誰のことも見ていない。その傍若無人さが私にはむしろ都合が良かった。暑さ以外は。連日の茹だるような暑さに耐えかねてこの部屋もエアコンを何時間も効かせている。
「何やろうかな。」
別に暇でもない。机に置いている薄っぺらいテキストの束は半分ぐらいは手付かずとなっている。でも、これはやらないといけないこと。そういうものは今は1回捨てたいのだ。この暑さなら、エアコンの効いている所が良いけれど……。ショッピングモールなら姉たちの付き合いで何度も行っている。今月で何回目だろう?買い物付き合いのついでに自分が欲しい物や食べたい物も奢ってくれるけれど、さすがに飽きてきている。しかも、今日は姉たちはそれぞれ用事でいない。かと言って、都会のほうはやっぱり人が多い。人が多いのは好きじゃない。前からも横からもやってくる人の波を切り抜けるだけでも疲れる。自然を見たいという気持ちはあるが……。外を見ればこの通り、光と影のコントラストがこれでもかとくっきり浮かび上がっていた。木々の葉はその緑色を眩しいぐらいに輝かせていた。どう考えても外に出るのには向かない猛暑だ。歩いている人もハンカチで額から落ちる汗を拭きながら歩いている。しかし、私は外に出たかった。どうしても中にいることができなかった。ベッドから起き上がって鞄置き場から白いショルダーバッグを取ってくる。レースがたっぷり使われているのにくどい感じがしない素朴な可愛らしさのある鞄。最近はもっぱらこればかり使っている。青をそのまま薄めたような部屋着を脱いで、クローゼットを開けて真っ先に目に飛び込んできた小花柄のワンピースを着る。これもまた白色がベースだ。その上に小さな桃色とラベンダー色が乱舞している。白、白、真っ白。光ばかりに囚われているからこうなったのだろう。ふと、水色のデジカメを思い出した。春に見つけたあのカメラだ。クローゼットの奥にそのままあったっけ。それとも机の引き出し?比較的整理整頓されているとはいえ、物を把握できていない。色々探し回ったが、結局デジカメは机の引き出しにあった。いつからここにあったのだろう?でもそんなことを考えている暇はない。わりと時間を食ってしまった。近くのバス停から頂上にある公園に行くつもりだったのに、これでは遅れてしまう。急いで階段を降りて、玄関の扉を開いた。暑さと眩しさで目が眩む。それでも通りを出て、バスにどうにか間に合った。
 公園までは2つの停留所を通り過ぎれば着く。わりと近い。しかし、私の家から公園までの道のりはかなりの急勾配の坂道が待っている。普段でもきついのに、このような暑さの時は地獄を見ることになる。やはりそれを分かっている人が多いのかバスは満員だった。人が多い所が嫌だと思ったのに、バスがこのような状態だということをなぜか私は忘れていた。スマホを見ながらふと車窓を見る。普段は歩いている道を車道から見るのは少し不思議な気分になる。カフェもコンビニも何もかもが見慣れているはずなのに見慣れていない。バスは最後の通過の停留所を過ぎると、急勾配の坂を上っていく。相変わらず凄い道だ。しかし、住宅地を抜けて緑が徐々に増えていく様は非日常へ招待されるような気がして少し面白みを感じる。
 公園の停留所に着き、満員のバスから解放されると、私は皆が進む大通りから分かれた小道に入った。大通りをそのまま進むとイベント広場があるが、今日はそんな気分ではない。小道をひたすら進んでいく。まっすぐと立った木が整然と並び、公園内でも一際静かな場所だ。足元を見れば花がちらほらと咲いている。人は疎らで時々すれ違う人がいる。楽器の練習をしているのか、金管楽器の音色が木々の間から聞こえてくる。自由な場所だ。私はここで読書することもある。でも今日はせっかくカメラを持ってきているのだから、撮ってみようと思った。水色のデジカメは太陽の強い光に照らされると想像以上に薄い色だった。反射のせいだろうか。充電できているかどうか確認をし忘れたのでひやひやとしたが、ちゃんと動いてくれた。自分の今見ている視界をこのカメラを通すとどのように見えるのだろう。そう思いながら、シャッターを切った。相変わらずだいぶ画素が粗い。そのおかげなのか、太陽の白い光がそのまま写しとれた。眩しい。眩しい。穏やかさを内包した絢爛さ。麻酔のような恍惚。ノスタルジー。こんなに鮮やかに私は物を見ていない。今度は日陰に置いているショルダーバッグへシャッターを切った。白いショルダーバッグがぼんやりと中心に写っている。誰かの忘れ物みたいに現実離れした存在感。真昼に現れた幽霊のような。私は良い物を手に入れたようだ。満たされていく。楽しくなってきてふと1人で笑い出してしまった。誰も通りかからなくて良かった。このカメラには自分の目では捉えきれない何かがある気がした。
 時間がかなり経ったような気がする。いや、一瞬だったかもしれない。私は相当夢中になっていたようだ。前は夜の自室で1枚だけ撮っただけだった。あの時もこのカメラが写す空気感にただただ浸っていた。ふと、お腹が空いていることに気がつき、帰ることにした。入り組んだ小道を抜けて、大通りへと出る。そこは変わらず賑やかだった。子供連れの家族、友人同士なのか仲が良さそうな人たち、老夫婦。今日はわりと大きなイベントだったようだ。その往来を切り抜けて、私は停留所へと向かって行く。広場の賑やかな楽しみよりも密やかな楽しみを見つけたのだ。これ以上嬉しいことなんてない。

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