人生初・エステの体験に行ってみた

気づけばもう六月である。陽ざしが暴力的になってきた。晴れた日は暑い。

暑い → 長い髪がじゃま → 短く切りたい → デブにショートは似合わない → せめてこのマスクに隠された二重顎をなんとか…、という気持ちからダイエットを決意した。

毎年夏が近づくと、同じことを決意している気がする。しかし、今回は本気だ。なぜなら、もう髪をベリーショートにしてしまったからだ。後頭部はじょりじょりに刈り上がっている。先に切ってしまえば、やらない言い訳もできまいと、背水の陣を敷いたのである。

髪を切った日、帰宅した夫は私を見るなり

「首の太いわかめちゃんがいる」

と言った。あまりに適切な比喩だったので、うまいこと言うなあと笑ってしまったが、笑っている場合ではない。
自分では後姿が見えないが、首の太いわかめちゃんとは、つまりこういうことではないか。

boketeからお借りしました

いやいやいや。この方だって、一時期より、激やせしたと言われている。今はもう、この「後ろの口」も消えて無くなっているにちがいない。もしかすると、私の方がすごいのかも。私は「金」以上なのか? オリンピックだって「金」より上は無いというのに。

焦る。
もう切っちゃったんだもの、とにかく、早く痩せないと。そこで私は、日々の生活に運動を取り入れることにした。体験に行ったその足で「カーブス」に入会したのである。

ところが、これが物足りない。運動した気がしない。1回30分ではきっと痩せられない。てことは、あれをやるしかない。あそこには、これまで1度は行ってみたいと思いつつ、勧誘を断れる自信が無くて、行ったことがなかった。きっと来ている人たちも、無駄にキラキラした有閑マダムが多くて、控室が香水の香りでくさいに違いない。(✳︎偏見です)世界が違いすぎて、私にとっては、足を踏み入れてはいけない気すらする場所だ。あれとは、そう、エステだ。エステの体験に赴く時が来たのだ。

いざゆかんと思ったが、情報が無さすぎる。うーん、どうしよう、どこのお店がいいんだろう、どこなら、お値段それなりで、しつこい勧誘がなくて、ゴッドハンドが優しく肩こりもほぐしてくれて、爆痩せできるんだろう? 悩んでいると、すごいタイミングで、ポストに入っていた街のフリーペーパーに、エステのチラシが挟んであった。

「体験90分 2780円!」

え? 思わず二度見する。エステって、もっと馬鹿高いものじゃないの? こんな、主婦の贅沢ランチ1回分くらいのお値段で行けちゃっていいの? そんなはずがない。しかし、何度見てもやっぱり値段は変わらない。
ならば、と、即行で予約用QRコードを読み取り、予約希望日を第3希望まででいいところ、第5希望まで記入してしまった。

ただし「喜び勇んで」ではない。何しろ、つい先日、ダイエットでは痛い目に合っている。他人のコンプレックスで食べている業界には猜疑心多めで臨むことが、何より大事だと学んだところだ。顔には出さないけれど、お店にとっては、かなり嫌な客になるつもりでいた。

そして、ついに今日、エステに初潜入し、その体験コースを味わってきたのである。

エステの体験はこんなコースだった

最初のブラフ

受付には、やさしそうなお姉さんが座っていた。この方、さすがプロである。私が席に座る前から体を観察していらっしゃったようで、

「左足を軽く引きずる癖があるようですが、今、痛みますか? お体にゆがみがあると、痩せにくいんですよ」

などと言ってくる。
今は全く痛くないのだが、一時期、左の股関節を痛めていたので、かばって歩く癖がついているようだ。「本人も忘れているようなことを、よくぞ見破った、あっぱれ」と私が思うかというと、そんなことは全然なく。

売れている占い師は、よくこういうテクニックを使うらしい。初見で「こいつやるな」と思わせるネタを一発投入し、信頼できそうだと思わせて、心と財布を開かせるのだ。

かつて年収数千万の占い師をやっていた友人がいるのだが、彼女によれば、占いにくる若い女の悩みの9割は恋愛だという。
だから、入ってきた時の顔が暗ければ

「やめときなさい、その男は、あなたを幸せにしてくれないよ」

明るければ

「いい相手に巡り合ったね、その人は運命の相手よ」

と最初に言っておけばいいらしい。あとは

「なんでわかるんですか?!」

と、勝手に崇め奉ってくれて、なんでも向こうから話し出すので、そこから先は単なる人生相談になるのだという。耳さえひらけば、変化球より直球の方が伝わるものらしく、真っ当なアドバイスがビシバシ決まる。その結果、年収がついてきたのだ、と彼女は言っていた。

事前知識って大事。本当に痩せるエビデンスを見つけるまで、絶対、耳も財布も開く気がない私は

「さすがですね、見ただけでわかるんですか!」

と驚いたふりでこれをかわしたのだった。

カウンセリング

席に着き、ダイエット効果があるというハーブティを頂きながら、これまでの生活についてのアンケートを記入する。

・太ったのはいつからですか?
・一番痩せていた時期と、その時の体重を教えてください。
・普段の食事についておしえてください。
・お酒を飲まれる方、飲酒量はどれくらいですか?
・定期的に運動はされていますか?
・甘いもの、脂っこいものは好きですか?
・間食によく食べるものは?

これらの質問に正直に答えても、あまり意味があるとは思えない。
特に最初の二つなんて、物心ついたら太っていたし、痩せていた時なんてなかったので、何も書けない。
普段の食事も、おなかがすくまで食べないので、基本、二食しか食べない。『16時間断食ダイエット』が流行るずっと前から、そんな感じだった。でも痩せない。
お酒はふだん飲まないが、飲まないのに太る。
運動は嫌いだけど、エレベーターのない社宅の4階に住んでいるので、日常的に無理やり運動させられている実感はある。
甘いのも脂っこいのも大好き。でも、どちらも無くても耐えられる。
間食は、ナッツか、チーズか、ヨーグルト。

なんで太るのか、わからなくないか?
私には、強烈な遺伝子の仕業か、あるいは何かの呪い以外考えにくい。

プロは、このアンケートから、どんな「太った理由」を見つけてくるのかと期待したのだが、

「お客様の場合は加齢によるホルモンバランスの乱れですね。女性はだいたい30歳過ぎたら、みんな太るんです」

と言われた。

そうか、みんな太るのか。
でも、私、みんなよりずっと太ったんだけど、みんなよりずっとホルモンバランスが乱れてたってことなのかしら?
そしてそれは、あのアンケートを見ただけでわかるものなのか、さすがプロは違う。
あと、私、物心ついてからずっと太ってるんだけど、物心ついた時には、もう肉体年齢が30歳過ぎてたってこと?
……などと思いながらニコニコ頷く。

身体測定

一通りのカウンセリングが終わると、事前の計測だ。
荷物をロッカーに預け、お店が用意してくれた紙パンツに履き替えて、身長、体重、体脂肪、バスト、ウエスト、ヒップ、二の腕、太ももの周囲を計測される。

普段そんなところまで測らないので、それが若いころからどれくらい増えたのかわからないが、相当ビッグになったことだけはわかる。
ずいぶんと育った。立派になった。感無量である。

それにしても、紙パンツが、何だかプレイのようで恥ずかしい。
いっそ全裸の方がまだ恥ずかしくないのに、と思う。

ゲルマニウム温浴

ひじ掛け部分が、細長い金属の浴槽になった椅子に座り、手と足をお湯につけて、このまま15分待つよう指示される。
なんでも、脂肪の揉みだしの前に体を温めておく方が効果が出るのだそうだ。そこだけは一理ありそうだ。

銭湯の泡ぶろのように、ぶくぶく泡立つ浴槽には、ゲルマニウム鉱石が投入されているらしい。
担当してくださった、お姉さんの説明。

「このゲルマニウムがあることで、たくさん酸素が発生して、体にいいんです」

そして、布で包まれた磁石を二つ渡されて、左右の手に持つよう言われる。
お姉さんの説明。

「磁石を左右の手に持つことで、体の中をぐるぐる回って、活性化されるんです」

ツッコミどころ満載で、どこから質問したらいいものやら、と思ったが

「ゲルマニウム鉱石があると、どうして酸素が発生するんですか?」

と訊いたら

「さあ?」

と笑顔で返されたので、諦めた。
磁石を持たされた私の体の中を、何がぐるぐる回っていたのかは、知る由もない。永遠の謎である。

塩もみで脂肪の分解促進マッサージ

続いて、施術台にうつ伏せになり、塩もみが始まる。あら塩を混ぜた、ジェル状の何かを体にぬって、マッサージされるのだ。
上半身は年配の女性が、下半身は「さあ?」と笑っていたお姉さんが担当してくださる。

「これは、凝ってますねえ」

と言いながら上半身は、ゴリゴリぎゅうぎゅう揉まれ、下半身は撫でられるだけ、という時間が20分ほど続く。私が気になるのは、むしろ下半身なのだが、まあ、肩も背中も凝っているのは本当だから、いいか。
ひっくり返って、あおむけになり、同じ塩もみが20分。

もしも私がキュウリなら、かなりいい塩梅に漬かったと思う。あとはミョウガと和えれば完璧だ。

もう一度身体測定

体験できるのは、このゲルマニウム温浴と塩もみだけらしく、これが終わると、シャワーを浴びて再度身体測定である。
ふしぎなことに、体重は全く変化せず、体脂肪だけ4%落ちていた。

お姉さんが何と言うかと思ったら

「塩もみは、体脂肪にだけ選択的に効果があるんです」

とのことだった。今さら何を聞いても、もう驚かない。でも疑問は湧いてくる。

体脂肪が落ちたのなら、体重も変化があってしかるべきではないかと思うのだが、なぜそうならないのだろう?
私が何か、物理法則に反する間違ったことを言っているのだろうか?
あまりに自信をもってお姉さんが説明するので、だんだん、理学部出身の自分の知識が怪しくなってくる。

もしかして、私が子育てしていたこの30年ほどの間に、何か知らない大発見があって、塩で揉むと、脂肪が一瞬で筋肉だとか骨だとかに変わったりするということが証明されたのだろうか。

コースと料金説明

腑に落ちないまま、着替えて再び受付のテーブルに戻る。

「今飲むと、さらに効果があるんですよ」

とダイエット効果のあるハーブティーのおかわりをいただく。
すでに、「ちょっと色のついたお湯」にしか見えない。

おねえさん、

「どうでした? ずいぶんお顔のラインがすっきりされたようですが」。

鏡がないので、自分では確認できないが、顔は何もされていない。あの、酸素がたくさん出て、何かが体内をぐるぐる回る温浴と、塩もみで効果があったということだろうか? あったとしたら、なぜ?

「背中と肩の凝りが楽になりました」

ウソは言いたくないので、感じたことだけ伝えることにした。

「そうでしょう、そうでしょう」

お姉さんは、カウンターの下から、料金表を出してくる。

「基本は、今日体験していただいた二つの施術のほかに『全身サウナ』と、今日よりもっと痛い『脂肪をつぶして揉みだすマッサージ』が追加されます。それで、1回の料金が23890円なんですが、事前チケットで5回、10回、20回分を買っていただくと、最大で30%お値引きさせていただいています」

「その『今日より痛いマッサージ』は、どうして今日体験できなかったんですか?」

と聞いてみると、

「本当に痛いですし、アザになったりすることもあるので、覚悟ができた方にしか施術してないんです」

とのことだった。
つまり、覚悟なく痛い施術を受けると、みんな契約してくれないのだろう。

「ちなみに、私がここから痩せようと思ったら、どれくらい通えばいいんでしょうか?」

「だいたい、年齢×2倍の回数が必要です、と皆様にはお伝えしています」

「倍?つまり、100回以上!?」

3割引いてもらっても17000円近いはず。それを100回で、170万!!

「すみません、その金額は、宝くじでもあたらない限り出せないです」
「そうですよね、皆さんそうおっしゃいます。(←正直!)でしたら、こちらはどうでしょう?」

言いながらお姉さんは、また別の料金表を下から出してくる。
それには、各施術を細分化した値段が載っていて、タラソテラピー(塩もみのこと)一回7000円、などと書いてあるではないか。

ここは、コース料理しか出さない居酒屋なのかと思っていたら、ちゃんとおつまみ単品もあったのだ!なぜ隠す?

「はあ、なるほど。セットじゃなくても単体の施術も受けられるんですね」

「そうなんです。でも、セットで受けていただいたほうが、圧倒的に効果はあります」

「でも、効果があっても100回は来ないとだめなんですよね」

「そうですね」

「わかりました。ありがとうございました。持ち帰って検討します」

私は二度とこないだろうと思いながら、そう伝えた。
お姉さんも、この人は二度とこないだろうな、という顔で

「ありがとうございました」

と言った。

以上が私の、たぶん最初で最後の「エステやってみた」の全貌である。

おそらく、広い世界のどこかには真のゴッドハンドや、施術の科学的意味を解説できるエステティシャンがいるのだと思うが、その人を探して旅している間に、運動すればいい気がしてきた。

これは素晴らしい気づきだ。

この教訓を生かして、二度とエステに希望を抱くことはしないようにしようと思う。


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