見出し画像

睡眠の「ゴールデンタイム」は死んだ。それでも、寝る時刻はどうでもよくない

「22時から2時に寝ると、成長ホルモンがどばっと出る」
当直で生活が回っていた頃、自分はこれを地味に気にしていた。

当直は週に何度も入る。仮眠は取れて2,3時間。22時に布団なんて入れるわけがない。だから「自分は成長ホルモンのゴールデンタイムを毎週捨てて損してる」と当直のたびに凹んでいた。

でも、これがそもそも勘違いだった。ゴールデンタイムの根拠とされてきた話の半分はもう古い。

今回はメンバーの方から頂いた「同じ7時間でも、寝始める時刻で効果は変わるのか」「22〜2時のゴールデンタイムは今も生きているのか」という質問に答える。先に言うと、答えは 「ゴールデンタイムの神話のほうは古い。ただ、そうは言っても寝る時刻はどうでもよくはない」だ。


成長ホルモンは「時計の針」じゃなく「入眠後の最初の深い眠り」で出る

ゴールデンタイム説の出どころは成長ホルモンだ。22〜2時にどばっと出るから寝ろ、という話。でも、本当なのは成長ホルモンがどばっと出ることだけで、「22〜2時に」のほうは間違っている。

成長ホルモンがいちばん大きく出る波は、眠りに落ちてから最初の深い眠り(徐波睡眠)の直後だ。寝ついて最初の数十分。1968年の古典的な研究で確かめられている¹⁾。

ただ、この波は時計の針では決まらない。入眠を後ろへずらせば、波も後ろへずれ、やはり最初の深い眠りに合わせて出てくる。寝るのが2時なら、波も2時すぎだ。引き金は、深い眠りそのものより眠り始めることのほうにある²⁾。

だから何時に寝ても、ちゃんと眠りに落ちれば成長ホルモンは出る。
「22時に寝ないと出ない」は誤りだ。

当直で2時に仮眠を取っていた自分も、損なんてしていなかった。成長ホルモンの波は来ていた。当直の問題があったとすると、波の時刻じゃなく、睡眠の規則性がズレることや眠れる長さが短すぎたことだった。

じゃあ「何時に寝ても同じ」かというと、そうでもない

ここまで読むと、「なんだ、何時でも一緒か」と思うかもしれない。自分も一度はそう結論づけた。

でも、同じ7時間でも23時からと明け方4時からでは、体の反応がそろわない。成長ホルモンは出ても別のところで差がつく。そして実際、寝始める時刻と病気には、はっきりした関連がある。

22〜23時台に寝ていた人が、いちばん心臓の病気が少なかった(10万人の入眠時刻データ)

2021年に、イギリスのバイオバンクのデータを使った大規模な研究が報告された³⁾。約10万3千人の手首に加速度計を巻いて、自己申告ではなく機械で「実際に寝ついた時刻」を測った。そのうち約8万8千人を平均5.7年追うと、3,172人が心臓や血管の病気になった。

入眠時刻を1時間ごとに区切ると、病気の発症リスクはきれいなカップの形になった。いちばん発症が少なかったのは、22時台(22:00〜22:59)に寝ついた群だった。そこを基準にすると、こうなる。

  • 23時台に寝ついた群:心臓の病気が約1.12倍

  • 0時以降の群:約1.25倍

  • 22時より前の群:約1.24倍

※この「◯倍」はハザード比という、イベントの起こりやすさの比だ。リスクそのものとは少しずれるし、もともと発症が少ない集団では倍率が実態より大きく見えることがある。

意外なのは、遅い側だけでなく、早すぎる側も心血管リスクが高いことだ。22時より前でも、むしろ発症は多かった。「早ければ早いほど健康にいい」ではない。 22〜23時台を底にしたカップの形だ。

ただ、これは観察研究だ。因果を示したものではない。夜中まで起きている人は、仕事のストレスや不規則な生活を一緒に抱えていることが多かった。早い時刻に寝ついていた群にも、年齢や持病など別の事情が隠れているかもしれない。

だから「22時に寝れば心臓の病気が減る」とも「早寝そのものが体に悪い」とも言い切れない。言えるのは「22〜23時台に寝ついていた群は、発症が少なかった」という関連まで。それでも、10万人を機械で実測してこのカップ状の形が浮かんだのは、軽くは扱えない。

ここまでは、あくまで「平均の話」。これは10万人を平均した結果であって、 一人ひとりの最適時刻ではない。たとえば、夜型の人に22時台は当てはまるのか。当てはまらないなら、何から触ればいいのか。当直や夜勤で時刻を守れない人は、どこで取り返すのか。

🚩ここから先はメンバーシップ限定です。外来で実際に切り分けている順番で、ひとつずつ進めます。

時刻が効くとすれば、犯人は体内時計(社会的時差ボケ)

ここから先は

7,862字 / 1画像

メンバーシップ ¥ 1,000 /月

経営者のパーソナルドクターとして外来で話していることを、ほぼそのまま書いています。病気ではない。でも…

スタンダードプラン

¥1,000 / 月

いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!