高齢者の16時間断食は危険?マグネシウム・スレオネートで眠れない理由|Q&A 第2回
メンバーシップの質問箱にたくさんの質問をいただきました。ありがとうございます。一つひとつしっかり回答を書くとどうしても語りたいことが多過ぎてとんでもなく長くなりすぎてしまうので、1回あたり2問ずつお答えしていきます。
今回のQ&Aでは以下の2つの質問に回答しています。
Q1:80代の両親に16時間断食を勧めてもいい? オートファジーの価値は?
→ 勧めないでください。理由を老年医学のガイドラインとTREAT試験のデータから3つ挙げます。後半では「16時間でオートファジーが始まる」というSNSの定番チャートが、なぜヒトのデータに基づいていないのかを、東大でオートファジー研究をしていた立場から整理しました。
Q2:マグネシウムスレオネートを飲むと逆に目が覚めてしまう
→ 少数派ですが見られる副作用です。スレオネートとビスグリシネートの脳への作用の違い、朝夜の使い分けを解説します。さらに、中途覚醒に試す価値があるサプリ3種を、エビデンスの強さの差ごと正直に並べました。
※本記事の内容は一般的な医学情報に基づくものであり、特定の個人に対する診断・治療・医学的助言ではありません。質問者の情報のみに基づく推論を含んでおり、実際の診断には対面での問診・検査が必要です。健康上の判断は、必ずかかりつけ医にご相談ください。
Q1:16時間断食、80代の両親に勧めても大丈夫? そもそもオートファジーの価値は?
参加しました。よろしくおねがいします。 少し前から流行ってる16時間断食に関して質問があります。80代の両親に勧めても大丈夫でしょうか。太ってはいるが筋肉量は多くないと思います。カタボリックによる筋肉減少・サルコペニアを懸念しています。 そもそも健康法としての価値はどれくらいなのでしょうか。オートファジーが強力に活性化するのがメリットですが、断食せずとも常に活性はしているし長時間の低栄養状態というデメリットを超えるのでしょうか。
ご参加ありがとうございます。2つとも非常に良い質問です。特に2つ目の「断食しなくてもオートファジーは動いているのでは?」というのは、自分が大学院でオートファジーの研究をしていた側から言うと、核心を突いています。
最初に言っておくと、時間制限食(TRE)自体を否定しているわけではないです。インスリン感受性の改善、体重管理の自動化、代謝マーカーの改善などは複数のRCTで報告されています。
自分も以前は16〜24時間の間欠的断食を取り入れていました。いまは12時間前後を基本に、朝トレや会食に合わせて食事時間を調整しています。
ただ今回のご質問は「80代・低筋量・サルコペニアリスクあり」という条件。この条件だと、TREのメリットよりもサルコペニア進行のリスクが明らかに上回ります。
1. 80代の低筋量の方には推奨しません
率直に言うと、80代で「太っているが筋肉量は多くない」方に16:8断食を勧めるのは、自分ならやりません。サルコペニアを懸念されている時点で、ご判断は正しいと思います。
理由を3つ挙げます。
理由①:高齢者は若い人より筋肉を作りにくい
「アナボリック・レジスタンス」という現象があります。同じ量のタンパク質を食べても、高齢者は若年者ほど筋タンパク合成が上がらないです。若い人なら1食あたりタンパク質20gで筋合成のスイッチが入りますが、高齢者では 1食あたり25〜30gの良質なタンパク質が必要 だと報告されています¹⁾。

16:8断食で食事を8時間に制限すると、多くの場合1日2食になります。2食で毎回25〜30g以上のタンパク質を確保しつつ、1日の総量を十分に確保するのは現実的にかなり難しくなります。
理由②:TRE(時間制限食)で減った体重が脂肪ではなく筋肉だった
TREAT試験²⁾では、時間制限食で体重は減ったものの、その減少分が脂肪量ではなく除脂肪体重(筋肉を含む)の減少に起因していたという懸念すべき結果が出ています。若年〜中年の健常者でこの結果なので、80代で筋肉量が少ない方だと、さらにリスクが大きい。
理由③:老年医学のガイドラインと正面から矛盾する
ESPENの高齢者栄養ガイドラインは、栄養不良またはそのリスクがある高齢者に、必要量を満たすための間食や手で食べられる食品を勧めています。1日4回以下の食事は「栄養不良と筋機能低下の両方に関連する」としています。16:8断食とは真逆の方向です。
80代のご両親にとって最優先すべきは「十分なタンパク質を1日3回以上に分けて摂ること」であり、16:8断食のように食事回数を減らすことではありません。
もしご両親の体重管理が必要な場合は、食事内容の見直し(加工食品を減らす、タンパク質の比率を上げる等)のほうが安全です。すなわち、「いつ食べるか」の前に、「何を食べるか」を変えるということです。可能であればレジスタンス運動(椅子からの立ち座り、壁腕立て伏せなど簡単なものでいい)との組み合わせが理想的です。
2. オートファジーの「16時間神話」を分子レベルで整理する
ここは自分の研究経験から、少し踏み込んで話させてください。
ご質問の「断食しなくてもオートファジーは常に活性化しているのでは?」という指摘は、分子生物学的にはまさにそのとおりです。
オートファジーには大きく2種類あります。(本当はもっと細かいですが、まずはざっくり説明させてください)
① 基底レベルのオートファジー: 栄養が十分な状態でも常に低レベルで動いている「品質管理モード」です。壊れたタンパク質、機能不全のミトコンドリア、異常な細胞内構造物を分解して、細胞をきれいに保っている。いわば細胞の中で毎日動いている清掃員です。
この基底レベルのオートファジーを遺伝子操作でなくしたマウスは、生まれてすぐに死んでしまいます³⁾。肝臓だけでオートファジーを止めたマウスでは、異常なタンパク質が蓄積して肝臓が腫れ上がった。つまり基底レベルのオートファジーは生きるために不可欠な仕組みであり、断食しなくても常にちゃんと動いている。
② 飢餓誘発オートファジー:栄養が枯渇したときに、急速にギアが上がる「サバイバルモード」です。mTOR(筋肥大のスイッチでもある酵素)が不活化され、AMPKが活性化されることで、細胞質の中身を非選択的・大量に分解してアミノ酸や脂質を回収する。こちらは品質管理ではなく、栄養のリサイクルが目的です⁴⁾。
16時間断食で期待されている「オートファジーの強力な活性化」は、②のほうです。

16時間断食でヒトのオートファジーは本当に動くのか
ここが核心です。結論から言うと、16時間のヒトの筋肉でのオートファジー亢進を直接測定して示したデータはありません。
Dethlefsenら⁵⁾は、ヒトの大腿筋(外側広筋)から生検で組織を取って、36時間断食中のオートファジーマーカーを直接測定しています。36時間です。16時間の倍以上。
結果。36時間も食べなかったのに、筋肉の中のオートファジーの目印になるタンパク質(LC3IIやAMPKリン酸化)は、断食前と比べてほとんど増えていなかった。むしろ一部は減っていた。著者の結論は、36時間断食によるヒト骨格筋オートファジーへの影響は限定的、というものでした。
Bensalemら⁶⁾はヒトの末梢血単核球で実際のオートファジーフラックス(流れ)を測定した初めての研究ですが、結果は「探索的」であり、時間制限食群単独では統計的有意に達しませんでした。
クリーブランド・クリニックも「オートファジーをウェルネス戦略として誘導することを支持する十分な研究はない」と述べています。
「16時間でオートファジーが始まる」のチャートの出どころ
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