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Apple Watchの安静時心拍、70超えてたら黄色信号

Apple Watchの安静時心拍、今すぐ見てほしい。
「先生、安静時心拍って気にしたほうがいいんですか?」

経営者の方からこう聞かれるたびに、自分はまずApple Watchの画面を見せてもらう。70台後半。ほぼ全員そう。

米国心臓協会は、落ち着いて座るか横になり、体調がよい成人の安静時心拍を一般に60〜100bpmとしている。では、70台は安心なのか。ここが少しややこしい。

124万人分のデータを統合したメタアナリシスがある。安静時心拍が10bpm高いだけで、 死亡リスクが9%高かった。80bpm以上では45%高かった ¹⁾。

「気にしたほうがいいですか?」に対する自分の答えは、いつも同じ。

「気にしてください。かなり」

70は病気の境目ではない。これは自分が健康相談で使っている目安だ。ただ、70を超えたら、睡眠や酒、運動不足、体調の変化を一度振り返る。自分はそうしている。

今回は安静時心拍数と健康の関係について、130万人超の疫学データに加え、83万人の遺伝子解析から見えてきた「心拍数の本当の意味」まで掘り下げてみる。


自分の64bpmが"普通"じゃなくなった日

以前の自分も、安静時心拍なんか気にしたことがなかった。
筋トレ歴17年。身体は鍛えている自覚はある。

ある日ふとApple Watchを見たら、安静時心拍64bpm。
「まあ普通か」で片付けた。

そのあとに冒頭の論文を読んで、64という数字が急に重くなった。普通だと思い込んでいた自分のほうが怖くなった、というのが正確かもしれない。

130万人超のデータが指す方向(安静時心拍数と死亡リスク)

冒頭で触れたメタアナリシスは、46の前向きコホート研究を統合したものだ。対象者は約124万人。記録された死亡は約7万8,000件だった¹⁾。

もう1つ。12のコホート、約11万2,680人を追跡した研究では、65bpmを超えたあたりからリスクが連続的に上がっていた。80bpm以上と65bpm未満を比べると、 総死亡リスクが54%高かった ²⁾。

合わせて130万人超。

いずれも観察研究であり、安静時心拍が高いこと"そのもの"が死因になるとは断定できない。それでも130万人超のデータで似た関連が繰り返し出ている。医師として無視できないものがある。

自分の64bpmが、もう「普通」とは思えなくなった。

「今の数字」より「この3カ月での動き」

ここで1つ、最近の研究で気になったものがある。

2024年には、3つの大規模コホートから合計1万4,000人超を集め、安静時心拍数の「ある1回の測定値」ではなく「年単位での変化」と寿命の関係を追った研究が出た。

1つのコホートでは、 5年間で安静時心拍が10bpm上がった人は、最初の心拍数を補正しても全死亡リスクが約20%高かった。 別のコホートでも同じ傾向で、男性は約13%、女性は約9%のリスク上昇が確認されている³⁾。

これを読んで自分が思ったのは、「今日の安静時心拍が何bpmか」より「その数字が半年前からどう動いているか」のほうが大事かもしれない、ということ。Apple Watchの数字を毎日見ている人は多いけど、3カ月前と比べている人はどれくらいいるだろうか。


1日11,500回の"節約"

2025年、エリートサイクリスト109人と非アスリート38人に24時間の心拍モニタリングを装着し、1日に心臓が何回打つかを数えた研究が出た⁴⁾。

ただし、これは年齢中央値が19歳の若いエリートサイクリストを対象にした探索的研究だ。一般の人に同じ11,500回をそのまま当てはめることはできない。

鍛えている人は、1日あたり約11,500回少なく心臓が打っていた。

ここが面白いのは、トレーニング中の心拍上昇を含めた数字だということ。運動中は当然心拍が跳ね上がる。でも残りの23時間の安静時心拍が圧倒的に低いから、24時間トータルではむしろ大幅に少ない。

研究者は、たとえ1日1時間ハードにトレーニングしても、残りの23時間は心臓がゆっくり打っているため、差し引きでは総心拍数が減ると説明している⁴⁾。

「エリートサイクリストの話でしょ」と思った人がいるかもしれない。自分も最初はそう感じた。でもこの研究が示しているのは「運動で心臓に負荷をかけても、24時間トータルでは心臓が"楽をしている"」という構造そのもの。このメカニズムは運動強度や量に差はあれど、一般の運動習慣でも基本的に同じように働く。


あなたの安静時心拍はどのレベルか

ここで一度、自分の数字を確認してみてほしい。

・40〜50 bpm:アスリート級。このままキープ
・50〜60 bpm:非常に良好。運動習慣が効いている
・60〜70 bpm:平均的だが改善の余地あり
・70〜80 bpm:1日約11,000回の"無駄打ち"ゾーン
80 bpm以上:運動習慣の見直しを強くすすめたい

これは医学的な診断基準ではない。自分が健康相談で使っている大まかな目安だ。

ここでいう「無駄打ち」は、先ほどの研究をイメージしやすくした比喩だ。心拍には一生で使える上限回数がある、という意味ではない。

低ければ低いほどよいわけでもない。薬の影響や不整脈で低くなる人もいる。めまい、失神しそうな感覚、息切れ、強い倦怠感があるなら、数字を自慢する前に医療機関で確かめてほしい。

ウェアラブルがない人は、朝起きて布団の中で手首の脈を15秒数えて×4。
それがおおよその安静時心拍になる。

そしてもう1つ。先ほどの「経時変化」の研究を踏まえると、今日の数字だけでなく「3カ月後にこの数字がどう変わったか」を見ることが大事になる。Apple WatchやGarminの推移グラフを、たまにでいいので眺めてみてほしい。

ここまでは「安静時心拍が高い=ヤバい。下げろ」という話だった。

でも、ここに最近の遺伝学的研究が一石を投じている。83万人の遺伝子を解析した結果、「心拍数の高い低いが、そのまま寿命を決めているわけではない」ということが見えてきた

じゃあApple Watchの数字は何を意味しているのか。そして、結局どうすれば身体は変わるのか。ここから先でまとめた。


心拍数が低い=長生き、は本当なのか

ここまでの話を聞くと、「安静時心拍が高い=ヤバい。下げなきゃ」と思うのが普通だと思う。

自分もそう思っていた。でも最近の遺伝学的な研究を読んでから、この理解は一段アップデートする必要があると考えるようになった。

まずは従来の理解から。

Copenhagen Male Studyという有名な研究がある。健康な中年男性2,798人を16年間追跡し、安静時心拍と体力(VO2max)の両方を測定したものだ。体力レベルで補正した後でも、安静時心拍が高い群は死亡リスクが高かった。体力が同じでも、心拍数が高い「群は」リスクが高いという関連が残った⁵⁾。

ここまでは観察研究による「関連」の話。

ここからが最近のアップデートだ。2023年、この議論を大きく揺らす研究が出た。83万人超の遺伝子を調べた解析だ⁶⁾。

ここで使われたのが「メンデルランダム化」という手法。名前はいかついけど、やっていることは単純で、人は生まれたときに遺伝子を"くじ引き"で受け取る。その結果、生まれつき心拍数が高くなりやすい人と、低くなりやすい人がいる。

この2グループを比べる。遺伝子は生まれつき決まっていて、生活習慣や運動量の影響を受けない。だから「運動してるから心拍が低いのか」「心拍が低いから長生きなのか」といった交絡を取り除いて、"心拍数そのもの"が寿命に関係するかを見ることができる。

観察研究では見えない「因果」に手が届く。そういう手法だ。

結果はこうだった。

  • 生まれつき心拍数が10bpm高い人は、拡張型心筋症(心臓が大きく膨らみ、ポンプの力が弱るタイプの心臓病)になるリスクが約28%高かった。ここは予想通り。

  • ところが、「全死亡」、つまり寿命そのものとは、有意な関連が認められなかった

  • もっと驚いたのは、不整脈の一種である心房細動のリスクが、生まれつき心拍数が高い人でむしろ25%低かったこと。心拍が速い体質のほうがなりにくい病気もあった、ということになる。

翌2024年には、55万人を対象にした別の解析が出た。こちらも同じ傾向だった。遺伝的に心拍数が高いことは、早期発症の高血圧(55歳未満で発症する高血圧)とは結びついたが、全死亡、心臓病全般、脳卒中との関連は明らかではなかった⁷⁾。

少し小難しいので、ここで一度整理してみる。

観察研究130万人:「心拍数が高い群は、死亡が多かった」
遺伝学的解析83万人:「でも、生まれつき心拍が低いから長生き、とは言えない」

同じ現象を見ているのに、結論が食い違う。

もちろん、この遺伝学的手法にも限界はある。使っている遺伝子が、心拍数だけじゃなくて他の体質にも影響している可能性は排除できない。だから「心拍数はまったく無関係」と言い切るのは早い。

それでも、130万人の関連と83万人の因果が食い違うという事実は動かない。自分なりの整理はこうなった。

Apple Watchの安静時心拍は、「あなたの身体の健康度を映す鏡」に近い。

心肺機能、自律神経の健全さ、炎症の少なさ、体組成の良好さ。そういったものが総合的に、安静時心拍という1つの数字に表れてくる。

数字が高いのは、心臓の寿命が減っているからじゃない。身体のどこかに問題があって、それが心拍に映り込んでいる。そう考えるのが、データ全体と整合的だ。

鏡を拭いても顔は変わらない。鏡に映っている「中身」を変えないと。

じゃあ中身を変えるってどういうことか。運動で心肺機能を上げることだ。そのメカニズムを次に話していきたい。

心臓の"排気量"と"ブレーキ"(安静時心拍が低い理由)

1つ目。鍛えた心臓は1回の拍動で送り出す血液量(1回拍出量)が増える。大排気量エンジンと同じで、少ない回転数で同じ仕事ができる。安静時心拍70の人が10回で送る血液を、50の人は7回で送れる。同じ仕事を3割少ない回数でこなしている計算になる。

2つ目。心臓のアイドリング回転そのものが下がる。

運動習慣がある人は、リラックスしているときに心臓を抑える副交感神経(迷走神経)のブレーキが強い。それだけじゃなく、心臓のペースメーカー細胞自体のリズムもゆっくりになることが動物実験で示されている⁸⁾。

ブレーキが強くなるだけじゃなく、エンジンのアイドリング設定そのものが低く書き換えられる。

運動しない人の心臓は、ブレーキが甘いうえにアイドリングも高い車。ずっと空ぶかしし続けている状態、と言ったらイメージしやすいだろうか。

心拍数が下がると仕事のキレまで変わる(心拍変動とパフォーマンス)

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