追い込みも肥大レンジも、要らなかった|米国最新筋トレガイドライン解説
自分がジムでやっていること、半分要らなかった。
外来で会う経営者に、筋トレの話をよく振られる。
「先生、やっぱ追い込まないと筋肉つかないですよね?」
「肥大には8〜12レップが一番いいんですよね?」
「ピリオダイゼーション組んでもらってるんですけど」
「ノーペイン、ノーゲインですよね?」
全部、今年の3月に揺らいでいる。
ACSM(アメリカスポーツ医学会)という、世界中のスポーツ医学・運動科学の研究者が集まっている学会がある。筋トレの科学的ガイドラインを出す総本山みたいなところだ。
そのACSMが17年ぶりに「ポジションスタンド」を改訂した。ポジションスタンドというのは、学会が「現時点のエビデンスを総合すると、こう言える」と公式に表明する文書のこと。1つの論文とは重みが違う。過去に出た137本のまとめ論文を、さらにまとめ直した過去最大規模の解析で、参加者は3万人を超えている。
今回はこのACSMの新ガイドラインで覆された「ジムの常識」について、
医師の視点からまとめてみる。
ただし先に言っておくと、このガイドラインはすべてのトレーニーに当てはまるわけではない。エリートアスリートや上級者への適用には重要な留保がある。その点は後半で詳しく触れる。

覆された常識①:限界までの「追い込み」は、必須ではなかった
ジムで「限界まで追い込め」と言われた経験がある人は多いと思う。
自分もトレーニング歴17年で、追い込みが正義だと思っていた時期がある。ベンチプレスで潰れるまでやって、翌日の外来で腕が上がらないとか、そういう時期が確かにあった。最後の1レップが成長につながると思っていた。
新ガイドラインは明確にこう言っている。
追い込み(training to failure)は、あと2〜3回できる余力を残す状態と比較して、筋力にも筋肥大にもパワーにも一貫した上乗せ効果は出なかった。
17年間「限界まで」と言われてきたものが、30,000人のデータで否定された。
ただし「追い込みに意味がない」という話ではない。努力度は必要で、ラクにこなせる負荷でダラダラやっても効果は薄い。ポイントは「あと2〜3回はできるな」というところで止めても結果は変わらないということ。追い込むことで関節への負担や疲労の蓄積が増えるリスクを考えると、むしろ追い込まないほうが合理的かもしれない。
ただ「2〜3回残す」は、サボっていいという意味じゃない。そこまではちゃんと出し切る、という努力の下限だ。最後の1回を絞り出して潰れにいく必要はない、というだけ。
これはビジネスパーソンに話すとめちゃくちゃ響く。忙しい人ほど「仕事終わりに限界まで追い込む気力がないから続かない」と思っているので。
覆された常識②:筋肥大は、8〜12回だけではなかった(筋肥大・レップ数)
筋トレ界隈で最も有名な「常識」の一つ。
「筋肥大には8〜12レップが最適」
1RMは、自分が1回だけ挙げられる限界の重さだ。8〜12回で限界になる重さを選ぶのが、筋肥大に一番いいという話になる。
2009年版のACSMガイドラインは、初心者に8〜12RMをすすめていた。筋肥大では6〜12RMを中心にする方法を示している²⁾。ジムのトレーナーも、YouTubeの筋トレ動画も、だいたい同じ話をしていた。
ところが新ガイドラインでは違った。
30%1RMから100%1RMまで、ボリューム(週あたりのトータルセット数)と努力度が同等なら、筋肥大に有意差はなかった。
軽い重量で高レップやっても、重い重量で低レップやっても、トータルのボリュームと頑張り度が同じなら筋肉は同じように育つ。
「肥大レンジ」という狭い回数帯にこだわる根拠は、もう支持されなくなった。
じゃあ何が筋肥大を決めるのかというと、週あたりの総トレーニングボリュームだった。具体的には1筋群あたり週10セット以上。そこから先も増やすほど伸びる関係があって、ただし18〜20セットあたりからは伸びが鈍りやすい、という近似で見ておけばいい。万人共通の硬い天井ではなく目安だ。
これは自分が17年やってきた実感とも合う。重量にこだわりすぎて怪我して結局ボリュームが落ちた時期と、中重量でコツコツ週間ボリュームを積んだ時期を比べると、後者のほうが明らかに筋量が増えていた。今まではこれは自分の「感覚」でしかなかったのだけど、3万人規模のデータで裏付けられたのは大きい。
ちなみに、最大筋力を伸ばすなら、高めの負荷が有利だった。筋肉を増やす話と、重いものを挙げる力を伸ばす話は分ける必要がある。
なおトレーニングボリュームの定義は「重量×レップ数×セット数」が一般的だが、このガイドラインでは既存のレビューの多くがセット数で評価していたため、「週あたりのセット数」で統一されている。
覆された常識③:ピリオダイゼーションは「あってもなくても同じ」(筋トレ・プログラム設計)
これは年数を積んだトレーニーほど、受け入れにくいかもしれない。
2009年版では、ピリオダイゼーション(トレーニングの負荷やボリュームを周期的に変える手法)に大きなセクションが割かれていた。上級者に必須、という位置づけだった。
ボリュームが同等なら、ピリオダイズドプログラムと非ピリオダイズドプログラムに筋肥大の差はなかった。線形か波状か、といった組み方の違いでも一貫した差は出ていない。筋力については判定不能(データ不足)だった。
あれだけ精緻にプログラムを組んでくれた仲良しのトレーナーには申し訳ないけど、平均的な健康成人で見るかぎり、ボリュームさえ揃えたら同じだったという結論になっている。
ここは自分の中でも、まだ折り合いがついていない。ピリオダイゼーションの定義が研究間で統一されていないという論文自体の限界もある。それにこのガイドライン自身、あるレビューでは筋力ではピリオダイズドのほうがわずかに有利だったと触れている。
長期(1年以上)で見たときや、競技に向けてピーキングする選手では、話が変わる余地が残っている。だから「誰がやっても完全に無意味」ではなく、「平均的な健康成人で、追加のメリットは一貫しては確認できなかった」が正確なところだ。
覆された常識④:休憩も動作スピードも、ストップウォッチで管理しなくてよかった
2009年版は休憩時間に細かい指定があった。筋力なら3〜5分、筋肥大なら1〜2分、パワーなら少なくとも3分。今回の変更はこちら。
セット間の休憩も、1レップあたりにかける時間(TUT:Time Under Tension)も、単独ではアウトカムを一貫して動かさない。
速く挙げても遅く挙げても、筋力にも筋肥大にも一貫した差は出なかった。
自分の周りにも「2秒で下ろして2秒で挙げる」とか、ストップウォッチで休憩時間を管理しているトレーニーがいる。それ自体が悪いわけじゃないけど、そこに神経を使うくらいなら、週間ボリュームの管理に意識を向けたほうが効率はいい。
自分は、休憩時間を秒単位で固定するのをやめた。次のセットで回数が大きく減る、フォームが乱れる、しっかり力を出せない。そんなときは休憩を延ばす。筋力を狙う日は、次のセットでも力を出せるまで休む。そのほうが質のよいボリュームも確保しやすい。
追い込みや8〜12回への固定が、筋トレを続けにくくしている人もいる。細かな周期や休憩の秒数まで守れなくても、伸ばせるものは残る。
自分がやったのは、むしろ減らすことだった。何をやめて、何を残したのか。

ここまでが「覆された常識」の話。
あなたが今ジムでやっていること。追い込み、8〜12レップ、きっちり組んだピリオダイゼーション、ストップウォッチで計った休憩。そのどれかに心当たりがあるなら、ここから先を読む価値はある。
🚩ここから先は、自分が実際にトレーニングを何に絞り、何を捨てたか。出張先でもボリュームを落とさないバンドの具体メニュー。そして筋力・パワーまで含めた目的別の負荷と頻度を、数字でまとめた。メンバーシップ「Dr.もさりラボ」で読めます。過去記事も全て読み放題で、合わなかったらすぐ解約できます。
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