酒を飲む人ほど、VO2maxを捨ててはいけない。
これを書いてる今、自分の朝の安静時心拍が58。普段は53くらい。睡眠スコアも60。普段は80前後ある。昨日飲んだワイン3杯のツケだ。
会食が続いた翌朝、罪滅ぼしのようにジムへ行く。汗をかく。心拍が上がる。昨日の酒が、少し抜けた気がする。これで帳尻が合った、気がする。
酒の害は分かっているつもりだ。それでも飲む日はあるし、翌朝のジムで「今日は追い込んだから昨日のはチャラ」と自分に言い聞かせたくなる夜はある。
ただ、体はそんなに都合よく帳消ししてくれない。
「酒は運動でチャラになりません。以上!」
と、ここで話を終えるとただの禁酒記事になってしまう。
今日書きたいのは、そこじゃない。
酒を人生の楽しみとして大事にしている人がいる。会食を仕事の場として回している人もいる。付き合いでも、家でも、どうしてもゼロにはできない人がいる。そういう人たちに「飲むな」だけ言って終わるのはただの理想論で、現実的ではない。
酒を飲む人ほど、心肺体力をおろそかにしてはいけない。という話を今日は書きたい。
「飲んだ分を走ればいい」は、体に都合がよすぎる
お酒の話はすぐカロリー計算になりやすい。
ビールを飲んだ。ワインを飲んだ。つまみも食べた。
→だから翌朝走る。消費カロリーを増やす。
この考え方は分かりやすい。
ジムのトレッドミルに「あなたは今300kcal消費しました!」と出ると、昨日の分+300kcalを返済した気分になる。気分が良くなる。
でも、飲酒の影響はカロリーだけじゃない。
睡眠の後半が崩れる。夜中に目が覚める。翌朝の血圧が上がる。安静時心拍が高い。トレーニングの回復が悪い。中性脂肪や肝機能の数字が、じわじわ動く。このようにカロリーとは別の影響がたくさんある。
「走ったから大丈夫」にすると、色々と見落とすことがある。
会食が多い人ほど、この発想になりやすい。
「昨日飲んだんですけど、今朝ジム行ったので差し引きゼロっすよね」
気持ちはめちゃくちゃ分かるんだけどここはプロとしてこう返す。
「大丈夫かどうかは、汗の量では決まらないんですよ」
そのあと、翌朝の血圧、睡眠の質、安静時心拍、心肺機能、健診票の変化、と続ける。患者さんはたいてい、ちょっと困った顔をする。
飲酒をカロリー収支だけで見ない。最初の分かれ道はここだ。

HUNT研究が見たのは、飲酒量と心肺体力の変化だった
このテーマで考えさせられる研究が出ている。
ノルウェーのHUNT研究を使った観察研究。
Sports Medicine(2026年)に掲載された¹⁾。
タイトルは「Running from Death: Can Fitness Outpace Alcohol's Harm?」。「死から走って逃げる:心肺体力はアルコールの害を上回れるか?」
タイトル時点でかなり煽ってきていて、「Sports Medicine、インプ狙いか」と思いながら本文に入った。
対象は24,853人。平均年齢54.7歳。HUNT2とHUNT3という2つの時点で、飲酒量と推定心肺体力を見て、その後を中央値16.6年追跡している。
ここでいう心肺体力は、実際に呼気ガスを測ったVO2maxではなく、年齢、腹囲、安静時心拍、身体活動などから推定したもの。研究では、年齢と性別ごとに下位20%をunfit、それより上をfitとして分類している。
この研究でまず確認されたのは、飲酒量が増えることは死亡リスク上昇と関連していた、ということ。ただこれは、以前から知られた話だ。
そのうえでこの研究が注目したのが、心肺体力の変化だった。
この研究の結果、飲酒量と死亡リスクの関係は、心肺体力によって変わっていた。
下位20%の心肺体力にとどまった人たちは、飲酒パターンにかかわらず、死亡リスクが高かった。一方、心肺体力が高いグループでは、推奨範囲内の飲酒パターンと死亡リスクに、参照群と明確な差は見られなかった。
わかりやすく言い換えると、
・心肺体力が低い人は飲んでも飲まなくても死亡リスクが高い
・心肺体力が高い人は死亡リスクは飲んでない人と同じ(適量なら)。
著者らは、10年間の心肺体力の変化が、同時期の飲酒量の変化よりも死亡の強い予測因子だった、という趣旨でまとめている。つまり、心肺体力が低い人は、飲酒量を心配する前にまず心肺体力をあげよう、ということだ。
ここだけ読むと、「じゃあ心肺体力があれば飲んでも大丈夫じゃん!」と読めてしまう。ただし、この研究からはそこまでは言い切れない。
これは観察研究だ。因果を証明するには、人をランダムに「飲む群」「飲まない群」「運動する群」「運動しない群」に分けて、酒の害が運動で消えるかを試した研究が必要なんだけど、それじゃない。現時点で、心肺体力が酒の害を相殺する、という因果関係はまだ証明できていない。
論文の中でも、著者ら自身がこの限界を踏まえたうえで、関連の重さを書いている。インプ狙いかと思いきや、案外まじめだった。
ただ、個人的な意見を言うと、
”心肺体力を高く保っておくこと自体は、ダウンサイドのない保険”
だと思う。階段は楽になる。出張帰りも違う。会食翌朝の体も少し違う。「チクショー!心肺体力が高くて損したー!!」みたいな場面は、まずない。
酒を運動でチャラにできる、と思ってはいけない。
でも、心肺体力を保つことは、それでも変わらず大切だ。
心肺体力の低下は、自分では気づきにくい
筋肉の衰えは、気づきやすい。腕が細くなった。胸板が落ちた。おなかが出てきた。スーツの腹まわりがきつい。鏡や服が教えてくれる。
でも心肺体力は見えにくい。
駅の階段で息が上がる。5階まで階段で上がると、途中で会話が止まる。ゴルフの後半で急にバテる。出張帰りに歩くのがだるい。そのくらいになって、ようやく気づく。
しかも、筋トレをしている人ほど、ここを見落としやすい。ベンチプレスは落ちていない。スクワットもできる。体重もそこまで増えていない。だから自分はまだ大丈夫だと感じる。
でも、筋力と心肺体力は別の話だ。自分も昔はここを混ぜていた。BIG3の合計が伸びていれば、体力もある。そう考えたくなる。
ただ、実際には、階段を上がると普通に息が切れる。スクワット180kgが挙がっても、大江戸線の深い階段を地上まで上がりきると、上でゼーハー言っている。あの駅、なんであんなに深いんだ。スクワットの数字に見合った心肺は、別で作らないと付いてこない。
ついでに言うと、筋トレしている人間は、増量だ減量だでEAAだのタンパク質だの、カタボリック(筋分解)を異常に気にする。なのに、その夜のワインが回復も睡眠もテストステロンも削っていることには、わりと無頓着だ。自分もそうだった。
会食が多い人では、ここがさらに見えにくくなる。
飲んだ翌朝はだるい。睡眠が浅かったからだと考える。移動が多いから疲れていると考える。年齢のせいにする。もちろん、それもある。
でも、その下で心肺体力が落ちていることがある。たとえばこんなふうに出る。
安静時心拍が上がる
VO2max推定値がじわじわ下がる
階段で息が切れる
以前より、同じ運動で心拍が戻りにくい
これは、体の余力が削れているサインだ。
じゃあ、飲む現実がある人は、明日から何を、どう見るのか。ここから先は、自分が経営者に実際に話していることを紹介していく。家庭血圧、安静時心拍、VO2max、健診票。
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