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【創作大賞感想】いしもともりに、人間を考えさせられた。


人は人のためにどこまで執念を燃やせるのか。正の感情と負の感情では、どちらのエネルギーが強いと思う? 

本文より抜粋

 この文章に強く惹き付けられた。どちらだろうか。執念と執着の意味を考えた。執念は、未来へ爪を立てるようなイメージであり、執着は過去に絡み付くイメージを漠然と持っている。

 いしもともりは、渇愛をテーマに、執着から執念へと人間の欲を描いているように思えた。ただし、それが人間として正しい方向ではない未来だ。

 正と負の感情。人間として誰でも持ち得る感情なのだが、生きていく世界でその感情の持ち方が誰しも違う。この物語に出てくる登場人物すべてが、歪んでいる。

 読み終えた時に、タイトルにすべてが詰まっていることに驚いた。その通りだ。

 「歪な渇愛」

 いしもともりの凄さを感じた。練られている物語は、坦々と語られるそれぞれの立場からの歪な渇愛。そこに描かれているのは、人間の怖さであり、欲望との駆け引きだ。抗えない衝動を抱く人間。そのどれもが、自分も一歩間違えばと思わせてくるのが恐ろしい。

 人間は、紙一重であり、欲望はいつもそばで囁いてくる。その対象が人になってしまい、執着してしまうと、感情は執念へと変化していく。その過程が、明るい未来にいくのなら良いのだが、どの登場人物も闇に落ちている。

 一見、被害にあっているのは女性だと思われる。それは何も間違いではない。信じたくない話が坦々と繰り広げられていく。そのいしもともりの冷静な文脈が、起こった事実として、心に素直に入ってきてしまい怖さが助長される。

 そして、起きたことに対して復讐という形に向かっていくのだが、男性に対する女性の執念は、どんどんと執着の方向へ向かっていき、そこに自分の人生の大半をかける長い時間を使うことにも何も厭わない。

 それこそが、人間の持つ怖さだと感じる。

 目的を達成するのに、冷酷になれるのは、それだけのことをされたからなのだが、犯した罪は被害者からは、絶対にいくら時間を経過しても消えないことを教えてくれる。対比として、加害者は自己弁護をし、軽く記憶を置き忘れていたり、書き換えたりしている。

 人間の深さ、浅さが突き付けられる。

 いしもともりが、こういう作品を書くことを知らなかったのだが、すぐに入り込んでしまった。いしもともりであるということを忘れて読んでいたのだから、小説として完成してるのだと思う。

 どうしても、こういう作品を描ける人の頭の中を知りたくなってしまう。これも、愛の一つだと訴えてきているような感覚になり、この物語の事象を、いつの間にか肯定しそうな自分がいることを何も否定出来なくなる。

 描いている。ホラー満載なのに、人間の深いところを探られる。これが書き手である、いしもともりの技量なのだと思う。

 それにしても、それぞれの立場で、それぞれに起こることを、ここまで考えていて、矛盾なく描くことで一番恐ろしいのは、いしもともりだということを忘れてしまいそうになる。

 人間をどこまで、深く考えているのだろうか。例えば「物語が勝手に進んだだけだ」と言われたとしても疑いたくなる。

 これだけの、闇や深い部分を描けるのなら、人間の内面の怖さをこれからもどんどんと読み手に突き付けて欲しくなる。進む方向を間違わずに、表現で読み手に物語として訴える手法を選択してくれて、本当に良かったと思う。

 そして怖いのに、どこかキレイに感じてしまう描写に惹き付けられてしまい、物語で起きている怖さを緩和させて、より深く人間を考えてしまいたくなる。

 こういう感想になるあたり、いしもともりの狙いどおりのような気もするが楽しい。結局、惹き付けられたのだと感じる。

 普段読まないホラーにも、本当のことを描くことが出来るのだと気付かされた。私にとって読書の幅が広がった作品になった。怖い物語には、本物の人間が登場人物として存在していないと軽く見られてしまうが、この作品のように、きちんと人間が描かれているとこんなにも感じるのかと、深く思慮することになった。

 これから先に、どのような物語を描き、いしもともりが書き続けていくのか分からないが、底が見えないので、もっと深く、もっと闇なのにキレイな人間を描くのかも知れないと考えるとドキドキしている。

 暑い一日に、ひんやりと深く考えることになった作品に出会えて、とても楽しかった。

 もっともっと、人間を抉るいしもともりの深さを、読んでみたい。

 

 

 

 

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