5時間だった。
二人だけで、5時間話した。
振り返ってみると、それほど長い時間を二人きりで話した記憶は、一度もなかった。何分か、何十分かならある。 でも、5時間は初めてだった。
連絡したのは、会いに行く2日前になる。赤坂の飲食店で働く人から、食べに来てほしいと言われたからだ。赤坂まで行くのなら、久しぶりに連絡してみようと電話をかけた。
繋がった瞬間に、口に出たのは、
「声を聞いたら、会いたくなりました」
「オーケー。いつ来れる?」
会話は、これだけだった。とても不思議だった。私は、会いたかったのだ。真っ直ぐにそれを伝えただけなのに、それをすぐに察知してくれた。私にとっては、それでも充分に満たされた電話だった。
赤坂のガーリックシュリンプとハラミステーキを抱えて、私は大関──小錦に会いに行った。
玄関のドアが開く。
「久しぶり。そのシャツ良いな。そうだ、出来たばっかだから、これもやるよ」
「この良さをわかっちゃいますか。さすがです」
私の「なんのはなしですか」シャツを目撃した大関は、私に新しく出来た大関のブランドのキャップとシャツをプレゼントしてくれた。

その一言だけで、しばらく会わなかった時間を一瞬で埋めた。
「今日は一から話します」
大関と握手を交わし、ハグをした。 毎度のことなのに嬉しくて、笑顔だけは隠せなかった。お土産を渡し、前に「なんのはなしですか」についてメッセージをくれたことの御礼をまず伝えた。
自分の身に起きたことを一から丁寧に話した。大関は、私の話を一つずつ頷きながら聞いてくれた。私が自分のことを、人にここまで正直に話すことは、まずない。
だから、自分でも少し驚いていた。
きっと、全部を話したところで、私という人間を完全に理解することなんてできない。だけど、自分の話を会えなかった期間に積み重ねた分だけ、全て報告したいと自分でも止まらなかった。
お互いに、冗談を言い合い、昔の記憶が甦りながら現実の話をする。私の話を嬉しそうに聞いてくれる姿を見て、それだけで胸が一杯だった。
大関は、一人の人間として私を見てくれる。本当に対等に接してくれる。公の姿がKONISHIKIならば、この時間は小錦八十吉だった。
近況、未来のこと。今の頭の中のこと。すべて聞かせてくれた。2人だけで、本当に理想を語り合った。顔が見れるだけで良いと思って会いに行ったのだが、あっという間に2時間くらい経過していた。
用事を済ませた千絵さんが帰宅してきた。千絵さんに会うのも久しぶりだった。
「千絵さん。俺、本作ったんですよ。『なんのはなし』か分からないですけど、プレゼントです」

私は、目一杯自慢するように2冊渡した。
「おー。すごいね。ありがとう。よくやったねぇ」
「何か分からないけど、どうしたって書けちゃうんですよね」
と、いつも通りにふざけながらハグをした。
「商標見せてやれよ」
大関は、イタズラな笑みで嬉しそうに言ってくれた。

私は、商標登録証をしっかりと掲げた。千絵さんは、名前を見てすぐに気付いた。
「名前ポップじゃん」
「さすがです。それが私たち小錦ドッキリクラブです」
最高の挨拶を済ませ、夕方に近付いてきたところで、大関から誘われた。
「今日、千絵とご飯行くつもりだったけど、お前と行くわ」
この日は、麻布十番の外国人向けのジャパンエンターテインメントが楽しめるお店に、食事に行く予定だったらしい。
そこに、ラッキーボーイコニシ木の子が現れたということだった。私は、最初から行く気だった。とはいえ、一応社会人として生きているところを見せたくて聞いてみた。
「千絵さん、行かなくて良いんですか?」
千絵さんは、すぐに答えた。
「たまには、男同士で行ってきなよ。話してきなよ」
男前の女将さんのおかげで、私は大関との延長ディナーデートをゲットした。
タクシーの車内は、大関の東京観光案内ガイドを聞きながら進む。初めて東京にきた私という設定で、皇居や国会議事堂を初めて見たというリアクションをしながら、昔一緒に車に乗って動いていたことを2人で思い出していた。
「この辺、東京FMですよね。大関がラジオ出演する時、本当好きでした。よくあんなにピッタリ音楽の頭にセリフ合わせられるなって」
「昔からラジオ好きだったからな。でも、ラジオは楽しいことを話すだけだから、そこまで難しくない。ツアーの方が大変だ」
大関が話すツアーというのは、相撲文化の発展のために、世界で開催しているエンターテインメントと相撲を掛け合わせたショーのことだ。大関は、相撲を愛している。相撲の恩返しのために、世界中で相撲の発展に尽くしている。
「ただのエンターテインメントにしちゃダメなんだ」
そう言った大関の顔は、本気だ。
「楽しむ中にもきちんと文化として、相撲を説明しないと正しく伝わらない。だから、日本を伝えるのに英語をすごく勉強する。話して伝えることで頭がすごく疲れる」
私が、大関を好きな理由の一つに、こういうところがある。自分が大事にされた場所、大相撲のことや、日本について間違ったことを伝えようと絶対にしない。
手を抜かない。
このショーは、元力士たちを連れていき、日本でリハーサルの稽古をし、エンターテインメントとしても、しっかりと準備してから行なっている。チケットは、VIP席から売れていってしまい、毎回ソールドアウトになる。このショーの間中、大関はほぼ2時間解説をしている。
大関から相撲の話を聞けるのは、誰より贅沢だといつも感じる。
タクシーの車内は現役時代の裏話などで盛り上がる。私は、東京の景色を見ながら、大関が背負ってきたものを考える。
大関は、今も元横綱武蔵丸の武蔵川親方がいる武蔵川部屋の力士たちの稽古を、時間を見つけては何度も教えに行っている。場所前には必ず力士たちをご飯に連れていき、場所がはじまるとLINEでいつもその日の取組について、意見交換を力士としている。
そうやって、相撲に恩返ししている。私は、この背中をずっと追っている。
タクシーは、麻布のお店に着いた。
この日の食事は、まさかの貸切だった。予約時間が早かったからか、お店の計らいなのかは分からない。だけど、10名くらいが座れる半円のテーブルに、私と大関だけだった。

日本を体感しながら、食事が出来るエンターテインメントは、ビックリだった。プロジェクションマッピングで食事ごとに演出が変わる。
私は、2人でシャンパンで乾杯し、ただただ2人の時間を味わった。


2人で、いっぱい話をした。くだらない話がほとんどで、その中に少しだけ本音を入れる。大関の前で素直になれるのは、大関に対して全力でぶつかって過ごしたあの若い日々があったからだと思っている。
何者でもなかったけれど、一生懸命に大関を愛して全力で力を使った。
私を最初から、きちんと一人の人間として見てくれたからだ。今は、コニシ木の子として毎日遊ぶように生きている。そんな毎日をしっかり受け止めてくれている。
2人だけの時間が過ぎて、一つだけ本気で伝えた。
「大関といつか対談したいです。KONISHIKIとコニシ木の子で対談したいです。それが、一番面白い恩返しだと思っています」
大関は、当たり前のように答えてくれた。
「そんなのすぐ出来るだろ」
2人で笑っていたけれど、私の心の中ではそうじゃないとハッキリと思えた。
私は、まだ序の口だから、きちんと番付を上げて、向かい合いたい。きっとスピード出世にはならない。だけど、もっと駆け上がりたい。
人から求められる難しさは、ずっとそばで見てきたからよく知っている。だからこそ、それが出来ることを思い描き続けて、私も生きていきたい。


お腹も胸も一杯になった。
久しぶりに会えてよかった。
あんなに嬉しそうに話す大関を見たのも久しぶりだった。
この5時間は、一生忘れない。
帰り際にお店の人から1枚のハガキを貰った。

ここでも、大関は誰かの記憶にしっかり残っていた。私は何千枚撮影したか分からない撮影を頼まれ、縦、横「流行りの斜め、パノラマ」をふざけて撮影し、初めて頼んでみた。
「俺も撮ってもらっても、良いですか?」
お店の人は、私のカメラを持ち、撮影してくれた。

「大関、これ初ツーショットです」
「嘘つけよ。いっぱい撮ったことあるだろ」
「ほんとに。ビックリするんですけど、2人だけってないですよ。初デート記念にもらっておきます」
なんのはなしですか
次は、お菓子と珈琲を持って謝りにいきます。
おしらせ🍪
謝罪銘菓お菓子の予約は今日までです🍪↓
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