マウントレーニアで、主演になれた日。
このエッセイのPVがさこうさんにより、生まれました。読まなくてもこれを見れば完結します。最高です。俳優冥利に尽きます。
このエッセイの真実を語る女性が見つかりました。これを読めば、私のエッセイは読まなくても、もちろん大丈夫です。
その日、コンビニの駐車場で、マウントレーニアを片手にタバコを吸いながら、明日の天気を予想していた。私がタバコを吸いながら思考するのは、だいたい天気のことか、かなりタイプの女性のことだ。これは、世の中の喫煙者とほぼ同じ頭の中だと思っている。
曇り空の空気の中に、肌に纏わりつく湿気を感じていたので、明日は雨かもしれないと感じていた。
しばらくして、タバコを吸いながらマウントレーニアを持つ左手が濡れていることに気付いた。そうなると、私が先ほど感じていた湿気は、マウントレーニア効果なのかもしれないと思い始めていた。
人に潤いを与えてくれて、人に雨かもしれないと考えさせる。私の感覚は、マウントレーニアによって、判断を変化させられたのかもしれない。そう考えると、私を思考で遊ばせてくれたマウントレーニアに少しだけ感謝をした。
天気は、予想しなくても良いのだと思えた。
駐車場に停めた赤い小さめのスポーツカーの運転席から、何かを隠すことになれてしまっていて、しっかりとネイルを施した指先を感じさせながら、捲れそうになるスカートを優しく諭しつつ降りてくる髪の長い女性が現れた。
あまりにもスマートなその一連の所作から、私が感じたことは、車高が低い車から降りるために、捲れそうになるスカートを優しく諭す仕草が、どこか演出された演技みたいだなと感じることだった。スカートを優しく諭すことは、しなくても良いのにと感じていた。これが、私を認めたから演技したとなると、私はこの演技を特等席で見つめていたことになる。そして、おそらくこの女性は、私に見られることを想定しての演技だったのだと考えていた。となると、すでに私も彼女の人生の出演者になっていることに気が付いてしまった。
これは、私も演じなければならない。
急に、舞台に立たされたことを自覚した私は、彼女から目線を外すようなことをしたらダメだと思い立った。ここで、この空気を壊すことになるような、一般出演者にありがちな見惚れていたことをカモフラージュする下手な演技は私には必要ないと思った。
私だって、俳優だ。
髪の長い女性は、バックからシガレットケースを探し出し、そこからタバコを一本取り出して、私の近くにある灰皿の前に歩いて来るのを見ていた。
距離が近付いてきていた。
今時、シガレットケースからタバコを取り出す所作を見れることに驚いていたのだが、ここでリアクションの演技を魅せることを女性に求められていないと感じていた。俳優として、空気を読むことが大切だ。
女性は、私の受けの芝居を確認すると、近くにやって来て、タバコを咥えた。手に持っていたシガレットケースをバックにしまう仕草をしながら、やっと私の方を見てくれた。
出番か。
私は、見られていることに気付いたので、大きくもなく、小さくもなく、だけどマウントレーニアを握る手にだけ、そっと力を入れて囁いた。
「火、使いますか?」
女性は、シガレットケースをしまう動作を止め、上目遣いで私をしっかりと認めた。私も女性を認めている。上目遣いに動揺しないように、私は女性のおでこを見ている。
ここで私達は、認めあった。
女性は、軽く頷く姿を私に魅せたので、私は、ポケットのライターを手に持った。この瞬間、Zippoライターでなかったことを、どこかで撮影されているはずの画的に映えないと後悔していたが、幕はすでに上がっているので、普段は、Zippoライターだが、今日はあえて普通のライターを使用している演技をし、その動揺を隠すことに演技として成功していた。
駄菓子菓子、俳優としての危険信号の勘が私の脳裏に浮かんだ。このまま普通に女性にライターを貸してしまい、火を点けて良いものなのか。女性の心に何も点火しないで良いのかという、危険信号を私に訴えてきていた。ここは、私の俳優としての存在意義を問われている。私は、直感的にそう思った。
ここが、見せ場だ。
私は、左手にマウントレーニア、右手にライターを持ち、咥えタバコでライターを貸す素振りでマウントレーニアを女性に差し出した。
女性は、あまりにも自然な私の演技に、ライターだと確信するようにマウントレーニアを受け取った。
右手で、受け取った女性の指は、私のマウントレーニアの水滴で濡らすことに成功した。
「これ、なんですか?」
「マウントレーニアです」
私は、そう伝えてからライターを女性に差し出した。女性は、躊躇う素振りを見せずにマウントレーニアを私に戻し、ライターを受け取り火を点けた。
マウントレーニアは行き交い、お互いの心にも火が点いた。
私は、俳優としての存在意義をきちんと証明することに成功した。ライターを貸すだけだという役柄から、女性のセリフを導き出すことに成功し、「マウントレーニア」とハッキリ口に出す自然の演技を魅せれたのだ。
演技とは、アドリブで決まる。
私を認めた女性は、私の横でタバコを吸う。それ以上にお互い言葉を交わすことはなかったのだが、マウントレーニアが行き交ったことで、心も行き交い、私達には自然な空気が出来ていた。
私の方がタバコを早く吸い終わったのだが、この女性を見届けることが大事だと知っていたので、マウントレーニアにストローを差し込み、同じように指先を濡らし、ゆっくりと飲みながら女性を見送った。
女性は、赤い小さなスポーツカーにスカートを優しく諭しながら乗り込み、出発した。私は、左目でウインクをして女性を見送り、もう一本だけ吸おうかなとタバコに火を点けようとライターを探したのだが、女性がすでに持ち帰ったのだと気付いた。私の演技に動揺したのか、それとも、最初からライターを受け取る台本だったのか。もしかしたら、私の心も盗むためだったのか。女性は、今頃どんな気持ちで私のライターを見つめ、運転しているのだろうか。
私は、結局この台本の主役ではないなと、ライターを買いに、再びコンビニへと入った。
予想などはじめから出来ないのだから、明日の天気も予想しなくて良いと、納得出来た午後だった。
マウントレーニアのキャッチコピーは、
「偉大なる、ひとやすみ」
私はまた、次の主役までやすもうと、マウントレーニアも一緒に買うことにした。願わくば、次のコンビニで女性も、マウントレーニアを手に取っていることを考えていた。私のひとやすみはこうして繋がっている。
なんのはなしですか
今起きたことを、私は記さなければならない。きっと主演俳優だった。#マウントレーニア#みんなのマウントレーニア#なんのはなしですか pic.twitter.com/OrbAvSyG0E
— コニシ 木の子 (@kdcmoto2) August 12, 2025
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