【創作大賞感想】三條凛花を語る日
良い物語を読んだ。素直にその言葉が出てきた。この感想は、普段の自分の中であまり出てくるものではない。本や小説を数多く読んできたが、その感想にたどり着くことは、ほとんどない。なぜ、私が三條凛花の小説や、書く文章が好きなのか、考えることになった。
冒頭から、三條凛花の文体に惹き付けられる。冷静、熱を感じない。語る。私は、色々な三條凛花の物語を読んできているが、そのすべてが一貫していて、私が好む文体の熱量だから好きだ。
静かな熱は、私の好みであり、読書に没頭しやすい。いつもあっという間に三條凛花の世界に入れる。だから最初から、期待してしまっていて、好きだから故のある程度のハードルみたいなものを持っている。
それでも、やはり彼女が自分の経験してきたことや、感じてきたことを織り込んでいるこの小説は、完全に私を物語の中に誘ってくれた。彼女自身が作家ということもあるのだが、作家を主人公として、三條凛花そのものに重なるような危惧を感じぬまま、きちんと描いている気がする。
これは、大変なことだと思う。自分と主人公を乖離させて、自分が経験してきた人生、本を出すことの意義や、書くということについて、その生活の中から何かを見出だすことを三條凛花と思わせないように、主人公リラとして描かないといけないからだ。
生活を切り売りする。人が生きているうえで一番時間をかける瞬間の連続だ。誰もが生活をしているので、当然生活の一瞬をキリトリ魅せて売るということは、比較の対象になってしまう。憧れる暮らしや、いわゆるていねいな暮らしに潜む罠は、光と影の世界だ。
輝く分、狙われやすい。攻撃されやすい。比較されやすい。それでも、暮らしを良くしたい。日々に潤いを与えて生活したいと誰もが思いながら生活している。
そして、本を売るという作業は、一人では出来ないということをしっかりと描いている。経験からくる描写は、読むだけで面白い。そこに関わる人達の思惑、さらには数字が付きまとってくる。それでも、伝わってくるのは、三條凛花が大切にしている、生活は、息をしている。呼吸と同じで、自然に在るということだ。
主人公リラの人間関系には、直接関わってくる人間や、今の時代特有のSNSによる見えない人間達がいる。矢面に立つというのは簡単なことだが現実は、立ってからの方が問題だと教えてくれる。
どこまで、人の思念を受けるか。
人間は、弱くて脆くて、一しかない悪いことを大きく受け止めたりもする。九いるはずの味方が一のせいで見えなくなる。それを見えない、見ないフリをしてなんとか生きていく。リラの夫や、編集者、もともと味方であるはずの人達を本物の信頼として、感じるまでをきちんと描いている。タイトルに入れた想いが、しっかりと伝わってくる。
物語として、不完全燃焼の部分がない。
作家として同じ立場の人達の汚さや、自己顕示欲も伝わってくるのだが、それを間違いではなく、それも人間だとしっかりと肯定している。人間は、いつ自分がそうなる危険性を帯びているか教えてくれている。こういう人間関係を「本当のこと」してて描けるのが、私が三條凛花の書く物語を好きな理由の一つなのだと思う。
最初は、悪者だと感じた多くを語らない編集者の生き方は、私自身に似ている部分が多いと感じた。人を信頼するには、人を信用しないことだ。都合の良いようにするという思惑同士がぶつかって社会は成立している。そこに、本物が在るとは思えない。
だからこそ、出会った人のことを考える。人間なんて、本当はそれだけでも精一杯のはずだ。
編集者の存在が際立つのは、人を信用せずに信頼させるように動いているからだ。
一人一人の人間模様が、きちんと描かれていて、そこに自分の人生で得たものを入れ込んで物語にしているのだから、たまらない。
三條凛花は、創作大賞の全部門にエントリーしている。信じられない。私は、何作か読んだが、全部きちんと描いている。皆、同じ期間を与えられている。それでも、書く量を増やせば良いという問題ではない。
書くことを、自分で選んで書いている。
何にこんなに打たれているのか分からないが、一気読みをして、少しだけ近付けるのが嬉しいからだろうか。
熱意や熱量は誰とも比較出来るものではないけれど、どうしたって伝わってくる。これだけ本気で書いて、向き合って続けていられることに感動する。
誰か見つけて欲しいと思う。なんとか届いて欲しいと感じる。
物語に青森が出てきて、自分の知っている本屋さんに、きちんと許可を取り、名前を使用する。
自分を信じていないと出来ない行動だ。
だから、物語に嘘がない。
物語として、きちんと成立していて読ませてくれる。これは、読書をしていて、一番楽しい時間だ。
手紙みたいになってしまったが、これからも書き続けて欲しいと思っている。主人公と同じように、いつか、本当に誰かをすくうものを描く気がしています。
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