【創作大賞感想】nicoleの滲むを何度も読む。
この作品を何度読んでみても、また同じように感じるのか知りたかった。加筆したとも聞いていたので再読した。
この物語を最初に読み終えた時に、この主人公の気持ちの揺れ具合はどこまで続くのか、最後まで繋げていけるのか気になっていた。不安定な感情は若さゆえに波のように揺らめく。絶妙なバランスで揺れている。
しかし、自分でもその気持ちを最初から理解していて、その波にのまれることになる結末を知っているように、戦って戦って自分の気持ちを誘導していく。
やがて葛藤は、自己弁護しようとしていた気持ちから、抑制のきかない方向へ進んでいく。好意という魔力に取り憑かれていく。進んではいけない道なのに、自分の心の奥にあるのは、純粋にキレイな「好意」と気付いてしまう。
すごくキレイに思考の変遷が描かれている。人が歯止めのきかない気持ちになっていく過程を終始滲ませている。
この物語は、人が立場に関係なく、人を好きになることを、なぜ止められなくなるのかの理由を、しっかり表現しているように思う。
「好きだからしょうがない」
幾人もの人が、言葉に出来ないそれを説明するのに、今現在も苦労している。この作品は、その好意の魔力をしっかり描ききっているように思える。誰だって、真剣に悩むのだ。ずっと悩んでも、引き寄せられてしまうのだ。
主人公の人生には、色んな場面で不道徳な事象が起きている。その都度、周りの人も、自分も「ダメだ」としっかり言い聞かせてきた。
そこに本当は、純粋な美しさがあると知っているのにだ。
そして、自分がその世界に一歩踏み込んでしまっている現実があるために、その事象に紐付けされた記憶ばかりをあえて思い出しているようにも感じる。
ダメだと思っている自分を確かめようとして、揺れて滲んでいる。
一度道を踏み外すには、否定されてきた過去を連続して思い出すことで、自己弁護をし、それでもこの気持ちに抗うことは無理だと、その境界線を飛び越えることをなんとか肯定することで、生きる実感を得ているようにも感じてしまう。
それくらい、主人公の人生が不安定に滲んでいて、やはり没入出来る世界観だった。つまり、作者の描写により、主人公の滲む思いがきちんと描かれているから本当に素晴らしい。相手の男性は年上で口説きかたが上手い。ただ、この男性に非があるのは、社会的な側面だけで、その「好意」も純粋な気がしている。隠せない本音をずっと年下の女性に吐露など出来ない。それが、女性からすれば引き金になってしまうのだから、必然的な美しさにも感じてしまう。
この作品を通しで再度読み直したら、彼女の凄さが改めて際立った。最後まであっという間に読める。物語に入り込める。現実に戻ってきてしまうような違和感を物語で感じない。すべて自然で、物語がきちんと生きている。楽しい。
そしてやはり終始、主人公はタイトル通り「滲んでいる」。
一度滲んでしまったものは、もとには戻らない。溢れる分だけ広がっていく。それを知っているのに止められないのも、若さというだけの問題ではないと思う。歳を重ねてもその気持ちの「好意」の純度は同じだからだ。
よくわかる。倫理観の問題は置いておいて、私はよく友人と話す。結婚してからの方が純粋に人を好きになる。完全に惹かれてしまうことが多くなる。善悪より純粋なものが見えてくる時が存在する。
これを危ういと認識するかは、人それぞれだが、私は、惹かれるものの存在を否定出来ない。止められない。だから、この結末の意味もよく分かる。それは、世間や社会との距離の違いになるのだが、「人間」のような気がしてならない。
主人公が、女性として芽生え、欲情を覚える描写など、物凄く美しい。これは、この物語の中でも、意図しながら、美しく書こうとしている部分なのだと思うが、彼女が描く文学、表現の美しさも知れる場面になっていると思う。正直に羨ましい表現だ。
人間は、やっぱり説明出来ない枠から滲んでしまうことがあるのだと思う。
夜職のお店で出会ったお客様に恋心を抱き、最後と覚悟してのドライブに行った話で、ここまでの感情が揺さぶられるのは、彼女の持つセンスと表現への向き合い方、そして退屈させない文体だと思う。
これからも、もっと「人間」を描いて欲しい。
これは、きちんとした恋愛小説であり、純文学である。「滲む」思いが、純粋に溢れることを描いている。そこに、良いも悪いもなく、滲んできてしまうものなのだと言っている。
作品になるなら購入したいです。
そう思っている人が、いっぱいいることが届いて欲しいです。
でも、彼女は始まったばかりだと思っています。この先震えるような作品に出会う気がします。
その時に、少しでも大きな舞台にいることを願います。
いいなと思ったら応援しよう!
いただいたお気持ちは「なんのはなしですか」に関連する活動に使わせていただき、人に会いに行ったり、呑んだり、遊んだりとそれをまた記事にして有効に活用させていただきます。