「相席カラオケには、行けなかったんだ」
なぜか寂しそうに友人ポップは語る。思い詰めた表情を確認した私は、なんて言葉をかけるのが正解か悩んでいた。
ポップが旅行に行き、女性との出会いを求めないのは、私がポップと知り合って半世紀が経過するが初めてのことだった。故に私は少なからず動揺し、瞬時に返答出来なかった。私たちは、一日一恋を人生の目標にし、どんなに辛いときもお互いに恋のはなしをしながら、可愛いとはナニカ、愛すべき女性とはナニカを語り支え合って生きてきたからだ。
今年、秋の休暇に北海道に向かったポップは、家族を神奈川に残し、三泊四日の一人旅をしに行った。
私は、例年ポップの一人旅を記事にして、記録として投稿してnoteで生計を経てているのだが、今年の三泊四日の北海道旅は、まさかのただのグルメ旅だったことを知り、驚きを隠すことが出来なかった。
この日、今年最後のポップの仕事を手伝いに、私はポップの車の助手席にいた。北海道グルメ旅のはなしを聞いたのだが、私の頭の中では、グルグルとなぜ北海道まで行ったのに女性の女の字も出てこないのだと、そのはなしのほとんどが頭に入ってこなかった。そして、ポップもそれを理解した上で、独り言のように旅の経過を語っていた。
私が聞きたいのは、ポップの女性旅だ。女性のはなし以外は、ほとんど記憶出来ない。それが四半世紀の私たちの付き合い方であり、女性のはなし以外に、いったい何をポップと話して過ごしてきたのかまったく思い出せないでいる。
今回のはなしで唯一記憶しているのは、たこ焼き屋さんで、トレーディングカードを製作販売している女性店主と一時間くらい話し込んだという部分の自慢だ。だが、それをそこまで羨ましいとは思えなかった。そのはなしには、恋がなかったからだ。それでも、トレーディングカードを女性店主のために、案の定買いまくっていたことは面白かった。
私は横でポップのはなしを聞きながら、心から相席カラオケに行って欲しかったのだなと感じていた。
思えば、今年の後半のポップは様子がおかしい。海の家でヒトナツの恋をした頃までは良かった。そこから、やっと同伴に誘われたお気に入りの夜の蝶との約束を反古にし、それ以来お店に行けなくなったとも言っていた。
理由は、分かっていた。
私とポップは、今年共通の友人を失った。
もともと放浪癖のある友人だったので、私たちが、友人のことを人に説明する時は、いきなり旅に出たことにしている。アイツらしいと言っている。そして、誰もそれを疑わない。私たち自身もそう思い込もうとしている節もあるので、言葉に真実味と重みが出ていて、聞き手に疑問を与えない。
おかしなはなしだ。
私たち以外に、普段からあまり深く人との関わりを持たなかった友人は、旅に出たと言っても、一瞬の話題に上がるだけで、誰もそれを不思議に思わず、深く求めず、うわべの近況会話で終始して終わる。その度に、私とポップは目を合わせ、これで良かったと思うように、正解だと思うように取り繕っている。
現場に到着し、仕事に取り掛かった。この日の仕事も、いつもは三人でしていた仕事だった。二人で仕事をすると、どうしたってその影を感じてしまう。思い出そうとしなくても、勝手に出てくる。それが二人になり、仕事量は増えたのだが、なぜか二人でも何も問題ないように振る舞っている。そして、それこそが面白いと思うように二人でも笑っている。
チエックシートや、点検場所には、友人が書いた名前が書かれている。それを上書きするように、どこか苦笑いで「ここにもコイツいるよ」と新しい名前を記入していく。いっそのこと「コニシ木の子」とふざけて書いてやりたくなる。
文字を見る度に時間は過ぎていることを実感していく。
これも、いつか風化するのだろうか。
ポップが、女性と遊べなくなってしまったように、私も私で変化していることを知っている。
私は、二十年禁煙していた煙草を再び吸い出した。正確にはそれが起こることになるソノマエから吸い始めていたのだが、ソノコトが、吸い続ける理由になってしまった。弱さだと理由を付けてしまいたい。
「お前は、もともと煙が好きだったからな」
と、苦笑いでポップはそれを認めようとしてくれている。
私は、ここに書くことで自分たちの生きた証を記したいと常々書いている。友人は、現実の世界では、放浪したことにしているのに、私は書くことでハッキリと失ったことを実感している。
世の中には、何が真実か分からないことで溢れている。
私たちは、変化した。
今後二度と変化することのない友人が、私たちを変化させた。
これが、どういう意味であり、何になるのか分からない。だけど、少なくとも生きる意味が少しだけ変わった。
休憩時、ヘルメットを脱いだポップの髪の毛が伸びていることに気付いた。
「髪伸びたな」
「アイツが、旅に出た日まで伸ばしてやろうと思って」
それは、ポップなりのケジメなのかも知れないし、ロン毛だった友人への毛締めなのかも知れないと私は感じていた。
「どこかに、ロン毛好きな人妻いないかな。それは、人の妻だから意味がある気がする」
何の意味があるのか私には知り得なかったが、私にはロン毛好きな人妻に思い当たる節がある。だけど、それを伝えることはやめた。その代わり、プレゼントを渡した。
「お前がその髪を伸ばしきれたなら、どっかに女性と旅行行く時は、俺の名前を使っていいぞ」
ポップは、嬉しそうに私に微笑んだ。
私は煙草を吸いながら、ポップに夢を語った。
「久しぶりにツーリングしたいな」
ポップは、ロン毛をヘルメットにしまいながらこう言った。
「トゥクトゥクツーリングしようぜ。お前、アレ。書いてるやつで、一緒に乗ってくれる子探せよ。トゥクトゥクデートしようぜ」
私には、トゥクトゥクデートをしてくれる女性に思い当たる節がある。だけど、それを伝えることはやめた。ポップは、饒舌に言葉を続ける。
「見つからなかったらその後に、トゥクトゥクで相席カラオケも行こうぜ」
私は、やはりポップには大事なことを取り戻して欲しかったので、ゆっくりとウインクしながらも、こう告げた。
「私には、トゥクトゥク一緒に乗ってくれる女性がいるから、相席カラオケは一人で行けよ。そして、それを書かせろよ。店の前までは、その女性と一緒にトゥクトゥクで送ってくさ」
「それ、良いな」
ポップは、再び女性へと目覚めてくれた。そうなるべきだと思ったのかも知れない。そして、その言葉は、私にしたら何よりも嬉しかった。変化しながらも、変わらなくても良い部分もあると思い出してくれた。
私たちから、女性を奪ってはならない。
だから私たちは、まだそちらへは行けない。何も納得もしていなし、何の結論も出ていない。時間だけが過ぎていることを日々刻々と知る。だけど、何か変えなければならないと、生きている。何が真実で、何が嘘か分からない。だけど、自分の世界は、自分で描き切ることに決めている。
変わることがないお前のことも、これからもアホみたいに書き続けてやる。それしかできない。笑うことは許さないから、羨ましがっていて欲しい。
私たちは、どこまでもくだらなく生きていたい。そうあるべきだと思うことにしている。いくつになろうが、今は途中ではなく、途上だと言い続けてやろうと思った。
なんのはなしですか
今年も一年ありがとうございました。迷いの中でも、目一杯楽しめたのは、皆さんのおかげです。路地裏を作ったのは自分ですが、この一年を忙しくしてくれて、考える時間がないくらいに笑わせてもらって、自分で路地裏に救われることになるとは、思ってもいませんでした。今、少しだけ休んで、自分のZINEを制作しています。その中で、やはり時間に追われなくなると頭の中に出てきます。今でもそうなのに、もし路地裏がなかったとしたら、自分はどうなっていたのだろうと思います。そしたら、書きたくなりました。今書けるものを書いといて、あとで笑ってやろうと思えました。ZINEに関しては、自然と「人生」というテーマが浮かびました。自分の中の「なんのはなしですか」を詰め込みました。生きているということが、描けていると思います。自信を持って楽しみにしていてくださいと言えます。共作してくれるマイトンには、あまり言いませんが感謝しかないです。同じ年齢でバラバラな道でしたが、この一年を本当に色付けてくれました。引っ張られずにいれたのは、嘘でもなく路地裏の皆さんのくだらなさのおかげです。この世界も私にしたら本当のことです。くだらなくて、いいじゃない。書くこと、表現することで、皆さんと繋がれたことは宝物です。同じ時間を共有出来ることは、幸せなことだと思います。どこで何をしている人達なのか、何も知りませんが、同じようにくだらなくて、小さな些細な日常を表現することが好きな人がここにいると思うと、人生悪くないねと思えます。来年も全力で遊びましょう。
コニシ木の子

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