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【BYD RACCOで考える】EVは本当に「家電」になったのか?部品点数が減っても、自動車の信頼性試験は甘くならない

こんにちは、もと国王です!

BYDが日本の軽自動車規格に合わせて開発した軽EV「RACCO」が話題になっています。

ついに中国メーカーが、日本独自の軽自動車市場へ本格的に乗り込んできた。

これは結構、大きな出来事です。

ところがEVの話になると、決まって出てくる言葉があります。

「EVになれば自動車も家電になる」
「エンジンがなくなれば部品点数が減る」
「部品点数が減れば誰でも作れる」
「最終的にはコモディティ化して価格勝負になる」

うん。

言いたいことは分かります。

実際、エンジン、トランスミッション、排気系、燃料供給系といった複雑な機械部品が減るのは事実です。

でもですね。

部品点数が減ることと、自動車に求められる信頼性が家電並みになることは、まったく別の話です。

ここをごちゃ混ぜにしてしまうと、自動車という製品の本質を見失います。

テレビも電子制御。
冷蔵庫も電子制御。
スマートフォンも電子制御。
EVも電子制御。

だから全部同じ。

……とはならないんですよ。

同じ電子部品を使っていても、どこで、何年間、どのように使われ、故障した時に何が起きるのか。

そこが違えば、設計思想も品質管理も信頼性試験も変わります。

今回は、品質保証や信頼性試験に関わってきた製造業の人間として、一般家電と自動車の違い、中国EV市場で何が起きてきたのか、そしてBYDをどの位置に置いて考えるべきなのかを、少し掘り下げてみたいと思います。



まず結論――EVは「家電」になったのではない

最初に、もと国王の結論を言ってしまいましょう。

EVは家電になったのではありません。

正確には、

自動車の電機製品化、電子制御化、ソフトウェア化が進んだ

ということです。

  • エンジンがモーターになった

  • 燃料タンクがバッテリーになった

  • 機械式の制御が電子制御になった

  • 購入後もソフトウェア更新で機能が変わるようになった

確かに、これまでの自動車とは大きく変わっています。

しかし、自動車が、

  • 人を乗せて走る

  • 高速で移動する

  • 真夏や真冬でも使われる

  • 雨や雪の中を走る

  • 振動や衝撃を受け続ける

  • 故障すれば事故につながる

製品であることは変わっていません。

冷蔵庫が故障すれば、中の食品が傷みます。

テレビが故障すれば、番組が見られなくなります。

もちろん、それも困ります。

しかし、自動車のブレーキ制御や操舵制御、バッテリー制御が故障すれば、即人命に関わります。

まず「壊れた時の意味」が違う。

ここを飛ばして「EVは家電」と呼ぶのは、あまりにも短絡的です。

※もちろん家電も人命に関わる不具合があります。一般的に、想定される使用環境が比較的限定されている事を前提として、今回の記事を進めます。


これは「家電メーカーの品質が低い」という話ではない

念のために言っておきます。

この記事は、

「自動車業界は優秀」
「電機業界や家電メーカーは品質が低い」

という話ではありません。

電機業界にも、航空宇宙、鉄道、医療機器、発電設備、産業用制御機器など、極めて高い信頼性が求められる分野があります。

人工衛星なんて、故障してもサービスマンを呼べません。

医療機器も、使い方によっては自動車以上に故障が許されない。

つまり「電機業界」と一括りにすること自体が乱暴なんです。

今回比較したいのは、一般家庭で使われる家電製品と、自動車・車載部品の違いです。

業界の優劣ではありません。

製品に与えられた役割と、使われる環境が違う。

ただ、それだけの話です。

しかし、その「ただそれだけ」が信頼性設計では決定的に重要になります。


自動車は、使われ方が無茶苦茶である

自動車という製品は、冷静に考えるとかなり無茶な使われ方をしています。

  • 真夏の炎天下に何時間も放置される

  • 車内温度は、人間が耐えられないほど高くなる

  • その状態から突然エアコンを全開にされる

  • 真冬の寒冷地では、氷点下の状態からいきなり始動させられる

  • 雨の中を走る

  • 台風の中も走る

  • 道路が冠水していても突っ込まれる

  • 海岸沿いでは潮風を受ける

  • 雪国では融雪剤を浴びる

  • 未舗装路では泥や砂利を巻き上げる

  • 道路の段差や継ぎ目から、何年も振動と衝撃を受け続ける

しかも、10年以上使われる車も珍しくありません。

普通の家電は、基本的に人間が暮らせる屋内環境で使われます。

ところが自動車は、人間なら、

「そんなところに長時間置かないでください」

と言いたくなる環境に放置されます。

それでも必要な時には普通に動かなければならない。

これが自動車です。


家電と自動車では、想定している「一生」が違う

製品の信頼性を考える時には、「ミッションプロファイル」という考え方があります。

難しそうな言葉ですが、要するに、

その製品が一生の間に、どのような環境で、どのくらい使われるのか

を具体的に想定することです。

例えば、

  • 何℃の環境で使うのか

  • 何回電源を入れるのか

  • 何時間動作するのか

  • どの程度の振動を受けるのか

  • 水や塩分にさらされるのか

  • 何年間使用するのか

といった条件です。

同じコンデンサー、同じコネクター、同じ半導体でも、リビングのテレビに入るのと、車体床下の制御装置に入るのでは要求される性能が違います。

ざっくり比較すると、こんな感じです。

もちろん、高級家電や業務用機器ではもっと厳しい試験を行います。

自動車の中でも、部品の搭載位置によって条件は違います。

それでも一般論として、自動車の使用環境が厳しいことは間違いありません。


信頼性試験は「恒温槽に入れて終わり」ではない

信頼性試験というと、

「製品を高温槽に入れる」
「低温槽に入れる」
「振動試験機で揺らす」

といった姿を想像する人が多いと思います。

もちろん、それらも重要です。

しかし実際の故障は、単一のストレスだけで起きるとは限りません。

高温だけなら耐えられる。
振動だけでも耐えられる。
湿度だけでも問題ない。

ところが、

高温と振動が重なると壊れる。

温度変化を繰り返した後に湿度を与えると、絶縁性能が落ちる。

振動中に通電すると、一瞬だけ接点が途切れる。

こうしたことが起きます。

製造業の人間なら分かると思いますが、厄介なのは「完全に壊れる故障」だけではありません。

  • たまに起きる

  • 条件が重なった時だけ起きる

  • 再現しようとすると起きない

  • 市場では発生するのに、試験室へ戻すと正常に動く

こういう故障が一番面倒です。

いわゆる再現性の低い不具合ですね。

自動車では、その一瞬の通信途絶や電圧低下が安全機能に影響する可能性があります。

だから単に高温に耐えました、振動に耐えました、で終わらない。

実際の使用状態に近い複合条件で確認する必要があるんです。


温度が高いだけではなく、「温度が動く」ことが問題になる

高温試験や低温試験だけでなく、温度サイクル試験や熱衝撃試験も重要です。

なぜなら、製品は一つの材料だけで作られていないからです。

  • 金属

  • 樹脂

  • ガラス

  • 基板

  • はんだ

  • 接着剤

  • シール材

それぞれ熱による伸び縮みの量が違います。

  • 低温から高温へ

  • 高温から低温へ

これを何度も繰り返すと、材料の境界部分に負荷がかかります。

その結果、

  • はんだに亀裂が入る

  • 基板が反る

  • 接着部分が剥がれる

  • 樹脂が割れる

  • シール性能が落ちる

  • コネクターの接触が不安定になる

といった故障が起きます。

新品の時には問題ない。

一年目も問題ない。

しかし何千回、何万回と温度変化を受けた後に不具合が出る。

これを設計段階で予測し、試験で確認しなければなりません。


EVになれば振動がなくなるわけではない

EVにはエンジンがない。だから振動も少ない。

これは確かに一面では正しいです。

エンジン特有の燃焼振動は減ります。

しかし、自動車が道路を走る以上、路面からの振動はなくなりません。

  • 段差

  • 舗装の継ぎ目

  • 砂利道

  • タイヤのアンバランス

  • ホイールからの入力

  • 車体のねじれ

モーターや減速機にも回転体があります。

しかもEVは、重量のあるバッテリーを車体床下へ搭載します。

バッテリーケース、セル、配線、冷却配管、コネクターには、長期間にわたって振動や衝撃が加わります。

エンジン由来の故障モードが減る代わりに、重量物であるバッテリーを車体へ固定し続けるという別の課題が出てきます。

つまり、

EVになって試験がなくなるのではなく、試験の中身と重点が変わる。

ここを間違えてはいけません。


EVバッテリーは「大きなモバイルバッテリー」ではない

EVを説明する時に、

「巨大なモバイルバッテリーを積んだ車」

のように表現されることがあります。

分かりやすい例えではあります。

しかし技術的には相当乱暴です。

スマートフォン用のモバイルバッテリーは、車体床下で何年間も振動を受け続けません。

高速走行中に石が当たることもありません。

融雪剤を浴びることもありません。

事故で車体が変形した時に、乗員の真下で安全性を維持することも求められません。

EV用バッテリーでは、

  • 過充電

  • 過放電

  • 外部短絡

  • 内部短絡

  • 振動

  • 衝撃

  • 浸水

  • 高温

  • 低温

  • 衝突による変形

  • セル異常時の熱拡大

など、さまざまな条件を想定しなければなりません。

しかも新品の時だけ安全ならよいわけではない。

充放電を繰り返し、セルが劣化し、内部抵抗が上昇した後も安全でなければならない。

ガソリンタンクがなくなったから危険がなくなったわけではありません。

管理するエネルギーの形が、液体燃料から高電圧バッテリーへ変わっただけです。


部品点数が減ると、一つの部品が背負う責任が増える

EVはエンジン車より部品点数が少ない。

これも事実です。

ただ、部品点数が減る理由の一つは、複数の機能を一つの部品へ統合しているからです。

  • 制御装置を統合する

  • 電源装置を統合する

  • 配線を減らす

  • 冷却系統をまとめる

こうすれば、部品数も重量もコストも減らせます。

製造効率も上がります。

良いことばかりに見えます。

しかし、一つの部品が複数の機能を担当すれば、その部品が故障した時に失われる機能も増えます。

昔なら一つの装置の故障で済んだものが、統合後は複数の機能へ影響するかもしれない。

部品点数が減れば、故障率の計算上は有利になる部分があります。

その一方で、

故障時の影響範囲は大きくなる可能性がある。

ですから、

「部品が減った。簡単になった。誰でも作れる」

とはならないんです。


自動車品質は、試作品が試験に通れば終わりではない

ここが、自動車業界の品質を考える上で非常に重要な部分です。

  • 試作品を一台作りました

  • 性能も良い

  • 耐久試験にも合格しました

  • では量産しましょう

自動車では、これだけでは済みません。

  • 量産用の金型

  • 量産用の設備

  • 量産用の材料

  • 実際の作業者

  • 実際の検査方法

それらを使って、何万個、何十万個と生産しても、同じ品質を再現できることを確認しなければなりません。

試作品だけ完璧でも意味がないんです。

むしろ製造業では、

「一個だけ良いものを作る」

よりも、

「同じものを何十万個も作り続ける」

方が難しい。

  • 材料のロットが変わる

  • 金型が摩耗する

  • 設備が劣化する

  • 作業者が変わる

  • 季節によって温度や湿度が変わる

  • 仕入先が工程を変更する

こうした変化の中で、同じ品質を維持しなければなりません。


材料や工程は、勝手に変えられない

家電でも変更管理は行われます。

しかし自動車業界では、材料や工程の変更が非常に厳しく管理されます。

例えば、

  • 樹脂材料を変更する

  • 接着剤を変更する

  • 金型を修正する

  • 生産設備を変更する

  • 製造工場を移転する

  • 部品の仕入先を変更する

といった場合、変更後も同じ品質と信頼性を維持できることを確認しなければなりません。

「安い材料が見つかったから、来月から変えます」

では済まないんです。

変更内容によっては再試験や顧客承認が必要になります。

なぜなら、その小さな変更が数年後の市場故障につながる可能性があるからです。

  • 接着剤を変えただけ

  • 樹脂の配合を少し変えただけ

  • メッキ処理を変えただけ

しかし高温多湿や塩害、長期振動と組み合わさると、予想外の故障が出ることがあります。


不具合が出た時に追跡できるか

市場で不具合が起きた場合、

「この車に使われた部品は、いつ、どこで、どの材料を使って作られたのか」

を追跡できなければなりません。

これがトレーサビリティです。

  • 製造日

  • 製造ライン

  • 材料ロット

  • 部品ロット

  • 検査結果

  • 使用設備

  • 作業履歴

こうした情報を追い、不具合がどの範囲に影響しているのかを判断します。

  • 対象が100台なのか

  • 1万台なのか

  • 10万台なのか

  • 原因が特定の材料ロットなのか

  • 特定の工場なのか

  • 特定の工程条件なのか

それを絞り込めなければ、必要以上に大規模な回収をするか、逆に危険な車両を市場へ残してしまいます。

つまり自動車品質とは、

  • 試験に合格することだけではない

  • 量産で品質を再現する

  • 変更を管理する

  • 市場不具合を追跡する

  • 必要なら回収し、修理する

ここまで全部を含んでいます。


ソフトウェア化したからスマートフォンと同じ、でもない

最近はSDV、ソフトウェア・デファインド・ビークルという言葉もよく聞きます。

  • 購入後に機能を追加する

  • OTAでソフトウェアを更新する

  • 制御を変更して性能を改善する

確かに、自動車はスマートフォンに近い要素を持つようになりました。

しかし、スマートフォンと同じ感覚で更新できるわけではありません。

スマートフォンのアップデートに失敗して再起動した。

困ります。

でも、多くの場合はその場でスマホが文鎮化するだけです(だけ、じゃ済まなですけどね)

一方、自動車の走行制御に関係するソフトウェアでは、

  • 更新中に通信が切れたらどうするのか

  • 電源が落ちたらどうするのか

  • 車両仕様と違うソフトが入らないか

  • 更新後に異常が出たら元へ戻せるか

  • 外部から不正に書き換えられないか

  • 一部のECUだけ更新に失敗しないか

といった問題があります。

自動車のソフトウェア化が進めば、品質保証が楽になるのではありません。

機械、電気、電子、通信、サイバーセキュリティをまとめて考えなければならなくなる。

むしろ面倒な範囲が増えます。


中国では、実際にEVメーカーが乱立した

ここから中国EVの話です。

中国では政府の支援策と巨大な国内市場を背景に、多数のEVメーカーが誕生しました。

中には高い技術力を持つ企業もありました。

一方で、

  • 補助金目当て

  • 資金調達頼み

  • 量産経験が不足

  • 品質保証体制が弱い

  • 販売後の修理網がない

  • 部品供給が続かない

という企業もありました。

つまり、中国製EVならすべて高品質だったわけではありません。

実際、低品質なEVもあった。

会社が消え、ソフトウェア更新が止まり、修理もできなくなる。

そんな事例も出てきました。

ここは事実として押さえておく必要があります。

しかし同時に、

「低品質な中国EVがあった」

ことと、

「現在生き残っている中国メーカーも全部低品質だ」

という話は別です。


自動車は、参入するより生き残る方が難しい

自動車は、試作車を一台完成させただけでは事業になりません。

モーターで走りました。
大きな画面が付きました。
見た目も格好良いです。

それだけなら、資金と技術者を集めれば作れる企業はあります。

しかし自動車メーカーとして本当に難しいのは、その後です。

  • 毎月何万台も生産する

  • 同じ品質で作り続ける

  • 販売店を整備する

  • 故障車を修理する

  • 補修部品を供給する

  • ソフトウェアを更新する

  • リコールへ対応する

  • 中古車市場を維持する

これを10年、20年と続けなければなりません。

自動車は、発売した瞬間に仕事が終わる商品ではないんです。

むしろ発売してから本当の責任が始まります。

中国で多数のEVメーカーが消えていったのは、車を一台作れなかったからではありません。

自動車メーカーとして継続できなかったからです。


BYDは、淘汰を勝ち抜いてきた側である

ではBYDはどうなのか。

BYDは昨日今日できたEVスタートアップではありません。

もともと電池メーカーとして成長し、バッテリー、半導体、モーター、インバーター、車両を幅広く手がけてきた企業です。

自社で多くの基幹部品を持つ垂直統合が強みです。

そして中国国内の激しい価格競争とメーカー淘汰を乗り越え、世界規模で大量生産する企業になりました。

だから、

「中国企業だから安かろう悪かろう」
「家電メーカーが簡単に車を作っただけ」

と見るのは、現在のBYDを正しく評価していません。

BYDは、電機メーカーが自動車へ参入したというより、

電池と電機の技術を土台に、自動車メーカーとしての量産能力を獲得した企業

と考えた方がよいでしょう。

これは日本メーカーにとって、決して軽視できない相手です。


ただし、BYDを無条件に持ち上げるのも違う

ここで勘違いしてはいけません。

  • BYDが中国市場の競争を勝ち抜いた

  • 販売台数も多い

  • バッテリーも自社で作れる

  • だから日本でも絶対に問題ない

そう断定するのも早いです。

中国での大量生産実績は、確かに大きな評価材料です。

しかし、日本市場には日本市場特有の条件があります。

  • 高温多湿

  • 短距離走行の繰り返し

  • 狭い道路

  • 頻繁な乗り降り

  • スライドドアの多用

  • 雪国の融雪剤

  • 台風や豪雨

  • 長期間の使用

そして日本の消費者が求める細かな品質感覚。

中国市場で問題なかったから、日本でも同じとは限りません。

逆に、日本市場で数年間問題なく走り続けることができれば、BYDの品質に対する評価はさらに高まるでしょう。


RACCOで本当に見るべきポイント

RACCOについては、価格や航続距離、装備だけで評価を決めるべきではありません。

もちろんカタログスペックも重要です。

しかし、もと国王として本当に見たいのは次の部分です。

1.日本の夏に耐えられるか

真夏の高温下でエアコンを使用し、短距離走行と急速充電を繰り返した時に、バッテリー温度を適切に管理できるか。

2.高温多湿で電装品が長持ちするか

コネクター、基板、センサー、シール部分に、数年後どのような不具合が出るのか。

3.融雪剤や塩害に耐えられるか

床下バッテリー、配管、ブラケット、締結部、コネクターが腐食しないか。

4.スライドドアが長期間使えるか

日本の軽スーパーハイトワゴンでは、スライドドアが頻繁に使われます。

機構、モーター、センサー、配線が何年も耐えられるかは重要です。

5.故障時にすぐ直るか

ここは非常に重要です。

故障しない車はありません。

問題は、故障した時です。

  • 診断できる整備士がいるのか

  • 部品はすぐ届くのか

  • 修理に何週間もかからないか

事故でバッテリー周辺を損傷した時に修理できるのか。

6.補修部品を長期間供給できるか

新車販売が好調でも、数年後に部品が入らなければ自動車として困ります。

7.中古車市場が成立するか

  • バッテリー状態の評価方法

  • 修理履歴

  • 部品供給

  • メーカーの継続性

これらが中古価格に影響します。


「故障しない」だけでなく「故障しても直る」が大事

日本車が長年評価されてきた理由は、単に壊れにくいからだけではありません。

  • 全国に販売店や整備工場がある

  • 部品が届く

  • 故障診断の情報が蓄積されている

  • サービスキャンペーンやリコールへ対応できる

  • 事故の時には板金工場が修理できる

こうした仕組みがあるから、安心して長期間使えます。

自動車は、製品単体だけで価値が決まるものではありません。

  • 車両

  • 販売店

  • 整備士

  • 補修部品

  • 物流

  • 診断機

  • 技術情報

これら全体で一つの商品です。

BYDが日本で本当に自動車メーカーとして定着できるかどうかは、販売台数だけでなく、このアフターサービス網をどこまで作れるかにかかっています。


では、私たちユーザー側は何を備えておけばいいのか

ここまで自動車の信頼性について散々語ってきましたが、メーカー側の品質だけを気にしていればよいわけでもありません。

どんな車でもタイヤの空気は減る。
12Vバッテリーも劣化する。
警告灯が点くこともある。

つまり、ユーザー側にも最低限の備えは必要です。

ここからは今回の記事のテーマに合わせて、もと国王が「車に積んでおく、あるいは持っておいて損はない」と思うものを4点紹介します。


Xiaomi 電動空気入れ 2

EVになっても、最後に路面と接しているのはタイヤ

EVだろうがガソリン車だろうが、最後に路面へ力を伝えているのはタイヤです。

どれだけ高度なトラクション制御があっても、どれだけ優秀なADASが付いていても、タイヤの空気圧がおかしければ本来の性能は出ません。

そこで一台持っておくと便利なのが、Xiaomiの「電動空気入れ 2」

USB-C充電式の小型エアポンプで、設定した空気圧まで自動で充填して停止できます。

車だけでなく、バイクや自転車などにも使えるので、一台あると結構便利です。

ガソリンスタンドで空気圧を見てもらうのももちろんよいですが、

「ちょっと空気圧を確認したい」
「一本だけ少し低い」

という時に、自宅で対応できるのは楽です。

最近の車は電子制御の塊になりましたが、まずタイヤ。

こういう地味なところが結局重要だったりします。


エーモン ジャンプスターター 4827

EVにも12V電源はある

「EVには巨大な駆動用バッテリーがあるから、バッテリー上がりなんて関係ない」

と思っている人もいるかもしれません。

ところがBEVにも、一般的に車両制御や各種電装品の起動に使用する補機用電源があります。

ここが弱ってしまうと、駆動用バッテリーに十分な電力が残っていても、車両を正常に起動できない場合があります。

そこで非常時の備えとして持っておきたいのがジャンプスターター。

今回選んだのは、エーモンの「ジャンプスターター 4827」です。

自動車用品ではお馴染みの国内ブランドで、車内へ常備する用品としては、聞いたことのないメーカーの商品より個人的には安心感があります。

ただし、ここは重要。

BEV、ハイブリッド車を含め、ジャンプスタート方法は車種によって異なります。

使用する際は必ず自分の車の取扱説明書で接続方法と使用可否を確認してください。

RACCOについても、実車の取扱説明書に従うべきです。

「ジャンプスターターを持っているから、どこへでも適当に挟めばいい」

ではありません。

そこは絶対に間違えないように。


CTEK XS7.0JP バッテリー充電器

バッテリーは「上がってから何とかする」より維持管理

ジャンプスターターが緊急用なら、こちらは予防側です。

CTEKの「XS7.0JP」は12Vバッテリー用の充電器。

週末しか乗らない車。

複数台所有していて使用頻度の低い車。

長期間車を動かさないことがある人。

こうした場合に、バッテリー状態を維持するための充電器が役立ちます。

ジャンプスターターは、

「上がってしまった時にどうするか」

ですが、

バッテリーチャージャーは、

「できるだけ上げないようにする」

ための道具です。

品質保証の仕事でもそうですが、不具合が起きてから対処するより、不具合が起きにくい状態を維持する方が本来は大切です。

もっとも、すべての12Vバッテリーへ無条件に使用できるわけではありません。

バッテリー種類や車両側の充電方法によって注意点があるので、使用前に適合確認は必要です。

特にBEVやハイブリッド車については、車両メーカーの取扱説明書を確認してください。


OBDLink MX+

自動車が電子化するほど、故障診断も重要になる

今回の記事と一番マニアックに相性が良いのが、「OBDLink MX+」でしょう。

最近の自動車は、故障したからといってボンネットを開けて眺めれば原因が分かるような製品ではありません。

ECUが大量に搭載され、各種センサーから情報を受け取り、通信しながら制御しています。

警告灯が点いた場合も、

「何かがおかしい」

だけではなく、

「どのECUが、どの異常コードを記録しているか」

を見ることが重要になります。

OBDLink MX+は、OBD-IIポートへ接続してスマートフォンなどから故障コードや各種情報を確認するためのBluetooth診断アダプターです。

もちろん、これを買えばディーラーの診断機と同じことが何でもできるわけではありません。

車種独自の制御データ。
メーカー専用診断。
プログラム書き換え。

すべてが読めるわけではありません。

そしてRACCOのどの情報まで対応するかも、実車とソフトウェア側の対応状況を確認する必要があります。

しかし、

「今の自動車がどれだけ電子制御されているのか」

を知る道具としても面白いです。

クルマ好き、メカ好き、データを見るのが好きな人には一番刺さると思います。


4製品をどう使い分ける?

誰にでも一番勧めやすいのは、やはり電動空気入れです。

次がジャンプスターター。

CTEKは週末しか車へ乗らない人や複数台所有者向け。

OBDLink MX+は完全にクルマ好き、メカ好き寄りです。

全部買う必要はありません。

自分の使い方に合ったものを一つ持っておくだけでも、いざという時には助かります。


中国EVの強さを、人件費だけで説明してはいけない

中国EVメーカーが強い理由を、

「中国は人件費が安いから」
「政府補助金があるから」

だけで説明する意見もあります。

もちろん政策支援は大きな要素です。

巨大な国内市場も有利です。

しかし現在の中国EV産業の強さは、それだけではありません。

  • バッテリー材料

  • セル製造

  • モーター

  • インバーター

  • パワー半導体

  • ディスプレイ

  • 通信部品

  • 車載ソフトウェア

こうした産業が国内に集積しています。

さらに巨大市場の中で何度も設計変更を行い、何百万台もの車を市場へ出してきた。

不具合も出した。
失敗もした。
企業も潰れた。

その過程で、生き残った企業に技術、人材、設備、資金が集中しました。

中国EVの強さは、安い人件費だけではなく、

産業全体の厚みと開発サイクルの速さ

にあります。


日本メーカーの強みは消えていない

では、日本メーカーは終わりなのか。

そんなことはありません。

日本メーカーが長年積み上げてきた、

  • 工程管理

  • 変更管理

  • 仕入先管理

  • 故障解析

  • 市場品質情報

  • 補修部品供給

  • 全国の整備網

  • 長期使用を前提とした設計

は、EVになっても必要です。

むしろ高電圧化、ソフトウェア化、部品統合が進めば、一つの不具合が広い範囲へ影響するため、地味な品質活動がより重要になる部分もあります。

ただし日本メーカーも、

「品質なら日本」
「最後は日本車が勝つ」

と安心している場合ではありません。

中国メーカーは開発速度が速い。
設計変更も速い。
統合化も速い。
コスト低減も速い。
市場投入してから改善する速度も速い。

日本メーカーが品質を作り込んでいる間に、中国メーカーは二世代先の商品を出してくる。

そんなことも起きています。

品質か速度か。

どちらか一方では駄目です。

これからは、

品質を維持しながら開発速度を上げられる企業

が勝ちます。


世界のEV競争は「EVか、エンジン車か」ではなくなっている

世界のEV市場を見る時に、

「全部EVになる」
「EVは失速した」

という極端な議論が繰り返されます。

しかし現実は地域ごとに違います。

中国ではEVとプラグインハイブリッドが急速に普及しています。

欧州では環境規制が市場を動かしています。

米国では政策、関税、充電網、消費者需要が複雑に絡んでいます。

日本ではハイブリッド車が強く、軽自動車という独自市場もあります。

つまり、世界が同じ速度、同じ方式でEVへ移行しているわけではありません。

今後の競争は、

「EVを作れるか」

ではなく、

  • バッテリーを安定調達できるか

  • 安全に大量生産できるか

  • ソフトウェアを維持できるか

  • 修理網を作れるか

  • 車両価格を下げられるか

  • 中古価値を維持できるか

  • 各国の制度へ適応できるか

という総合戦になります。


メディアが使う「家電化」は便利だが、雑すぎる

「自動車の家電化」という言葉は、説明として非常に便利です。

  • 短い

  • 分かりやすい

  • 見出しにしやすい

  • エンジンからモーターへ

  • 機械から電子制御へ

  • ハードウェアからソフトウェアへ

この変化を一言で表現できます。

しかし便利な言葉ほど、現実を削りすぎます。

  • 部品が少なくなる

  • 電子制御が増える

  • 製造への参入障壁が一部下がる

ここまではよいでしょう。

しかし、そこから、

「品質管理も家電並みでよい」
「誰でも自動車メーカーになれる」
「自動車は完全にコモディティ化する」

と進むのは飛躍です。

試作車を作ることと、自動車メーカーとして生き残ることは違います。

車を販売することと、10年間責任を持つことも違います。

この部分を理解せずに「家電化」と騒ぐから、議論がおかしくなるんです。


もと国王的まとめ

EVになれば、エンジン車より機械部品は減ります。

設計や製造が簡単になる部分もあります。

しかし、自動車に求められる信頼性まで軽くなるわけではありません。

  • 真夏

  • 真冬

  • 振動

  • 衝撃

  • 塩害

  • 高電圧

  • バッテリー劣化

  • ソフトウェア

  • サイバーセキュリティ

EVにはEVなりの難しさがあります。

機械系の課題が減る代わりに、電気、熱、電子、通信、ソフトウェアの課題が増える。

難しさが消えたのではなく、難しさの場所が移った。

これが、もと国王の見方です。

そして中国には、実際に低品質なEVメーカーも存在しました。

十分な品質保証や修理体制を持たない企業もあった。

しかし、その激しい競争の中で淘汰が進み、生き残ってきたのがBYDです。

だから、

「中国製だから低品質」

と最初から決めつけるのは違います。

一方で、

「販売台数が多いから日本でも絶対に安心」

と持ち上げるのも違います。

RACCOの本当の評価は、発売時のカタログでは決まりません。

日本の道路を走り、日本の夏と冬を経験し、数年後に故障が出た時、普通に修理できるか。

  • 部品が届くか

  • 整備士が対応できるか

  • 10年後にも普通に走っているか

そこまで確認して初めて評価できます。

EVは家電になったのではありません。

電気とソフトウェアを武器にした新しい自動車メーカーが、自動車業界の土俵へ上がってきた。

BYD RACCOの登場は、そういう出来事だと思います。

そして、日本メーカーにとって本当に怖いのは、安い中国製EVが入ってくることではありません。

品質が低いと思って油断している間に、相手が品質、価格、開発速度のすべてを身につけることです。

「中国製だから」と笑っていられる時間は、もうそれほど長くないのかもしれません。


用語集

  • BEV : Battery Electric Vehicleの略。ガソリンエンジンを搭載せず、バッテリーに蓄えた電力でモーターを動かして走行する電気自動車です。

  • NEV : New Energy Vehicleの略。中国で使われる新エネルギー車の分類で、BEV、プラグインハイブリッド車、燃料電池車などを含みます。

  • ミッションプロファイル : 製品が寿命期間中に受ける温度、湿度、振動、負荷、通電時間などを想定した使用条件です。同じ電子部品でも、家庭内で使う場合と車載部品として使う場合ではミッションプロファイルが大きく異なります。

  • 信頼性試験 : 製品が想定される環境や使用期間の中で、必要な機能を維持できるかを確認する試験です。高温、低温、湿度、振動、衝撃、塩害、耐久、電源変動などがあります。

  • 温度サイクル試験 : 製品に高温と低温を繰り返し与え、材料の膨張と収縮によって発生する亀裂、剥離、接触不良などを確認する試験です。

  • 熱衝撃試験 : 製品を高温環境と低温環境の間で急激に移動させ、急激な温度変化への耐久性を確認する試験です。物理的に衝撃を加える訳ではありません。

  • EMC : Electromagnetic Compatibilityの略。電磁両立性。機器自身が発生する電磁ノイズを抑えながら、外部から電磁ノイズを受けても正常に機能できる能力を指します。

  • ECU : Electronic Control Unitの略。自動車に搭載される電子制御装置です。

  • BMS : Battery Management Systemの略。EV用バッテリーの電圧、温度、充電状態、劣化状態などを監視し、安全に制御するシステムです。

  • 熱マネジメント : バッテリー、モーター、インバーター、車内空調などの温度を適切に管理する技術です。EVでは航続距離、充電速度、バッテリー寿命、安全性にも影響します。

  • 熱暴走 : バッテリーセル内部で発熱が急激に拡大し、発煙、発火、破裂などにつながる現象です。

  • 機能安全 : 電子制御システムに故障が発生した場合でも、重大事故につながらないよう設計する考え方です。

  • FMEA : Failure Mode and Effects Analysisの略。想定される故障と、その故障が製品へ及ぼす影響を事前に分析する手法です。

  • APQP : Advanced Product Quality Planningの略。製品企画から設計、試作、量産準備までの品質活動を体系的に管理する考え方です。

  • PPAP : Production Part Approval Processの略。通称ピーパップ。量産設備、材料、工程を使って、要求を満たす部品を安定生産できることを確認・承認する仕組みです。

  • SPC : Statistical Process Controlの略。製造工程のデータを統計的に監視し、異常やばらつきの変化を捉える手法です。

  • MSA : Measurement System Analysisの略。測定器だけでなく、測定者、方法、環境を含めて測定結果の信頼性を評価する手法です。

  • トレーサビリティ : 製品に使われた材料、部品、製造日時、設備、工程、検査結果などを追跡できる仕組みです。

  • OTA : Over The Airの略。通信回線を利用して自動車のソフトウェアを遠隔更新する仕組みです。

  • SDV : Software Defined Vehicleの略。ソフトウェアによって車両機能が制御され、購入後も機能追加や性能改善が行われる自動車です。

  • コモディティ化 : 製品間の性能や品質の差が小さくなり、価格が主要な競争要因になる状態です。

  • 垂直統合 : 研究開発、部品製造、完成品製造などを自社グループ内で幅広く行う経営方式です。BYDはバッテリーから車両まで広い範囲を手がけています。


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