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曲亭馬琴の小説執筆技術論「稗史七則」と物語の6原型など

小説の書き方の参考に「稗史七則」他を書いてみます。

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関連note



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稗史七則と物語構造:古典と現代理論が交わる小説の世界


1. はじめに


物語とは普遍的なメタ構造を持っています。それは古くは中国や江戸時代の文芸理論で語られ、現代ではデータに基づいた物語論へと進化しています。本記事では、曲亭馬琴によって示された「稗史七則」と、現代の物語構造理論とを対比しながら、小説や脚本における普遍的ルールを探ります。


2. 稗史七則とは?


江戸後期の作家・曲亭馬琴(1767–1848)が、『南総里見八犬伝』において示した文学技法の7則です:

1. 主客:物語の主体(主人公など)と客体(周辺的存在)の関係

2. 伏線:先行する情報を後に回収して意味を導く技法

3. 襯染(しんぜん):場面や人物を引き立たせる描写の工夫

4. 照応(照対):場や出来事間に対応関係を作る対比表現

5. 反対:対立や逆転を通じて緊張を生む構造

6. 省筆(しょうひつ):描写を最小限に抑えつつ含みを持たせる方法

7. 隠微:暗示的表現によって感情やテーマを匂わせる技法

これらは、当時の文芸理論として注目され、日本文学における物語構造を深める重要な要素です   。


3. 物語の6原型:感情アーク研究からの普遍パターン


現代では、コンピュータによるテキスト分析により物語が描く「感情カーブ」が6つの基本形に収束することが知られています。バーモント大学の研究により以下の構造が特に注目されています    :

• 貧民から富民型(上昇)

• 富民から貧民型(下降)

• マン・イン・ホール型(下降 → 上昇)

• イカロス型(上昇 → 下降)

• シンデレラ型(上昇 → 下降 → 上昇)

• オイディプス型(下降 → 上昇 → 下降)

たとえば、「みにくいアヒルの子」は全体として“貧民から富民型”だが、その中盤には“マン・イン・ホール型”の起伏も含む、とされています  。


4. 古典と現代理論の交差点:比較と統合


稗史七則 現代理論(6つの型) 共通点・対比

伏線・照応・反対 起伏のある感情曲線 読者の期待と変化への導入を構造化

襯染・省筆・隠微 曲線の微妙な揺らぎ 情感の描写と物語の塩梅

主客 主人公の感情アーク中心 中心/周縁の強化による物語構造の明確化

稗史七則は、細部を通じて物語を豊かに構築する技術。現代理論は、物語全体の「形」を可視化する分析手法。両者を組み合わせることで、より精緻な物語構築が可能になります。


5. 創作への具体的応用例

• 伏線:物語の序盤に小さな象徴を描き、中盤〜終盤でそれを効果的に回収する設計にする。

• 襯染・省筆:場面描写を抑えつつ、重要な描写には色を付けることで印象を強める。

• 感情カーブの構造設計:序盤は下降(トラブル)、中盤で上昇(解決/盛り上がり)、終盤で再浮上させる“マン・イン・ホール型”などを企図する。

SNSや短文媒体では、「省筆」や「隠微」が非常に効果的。少ない言葉で強い余韻を残し、物語の余白を読者に想像させます。


6. 結びに:創作における法則の再発見


稗史七則に代表される古典的技法は、物語に質的深みを与える根幹として機能します。一方、感情カーブという視点は、構造的な説得力と普遍性をもたらします。両者を統合し、構造と表現のバランスを取ることで、創作者はより自由で説得力ある物語を描くことができるのです。


引用リンク(参照元):

• 稗史七則の詳細な文献:馬琴の理論紹介および解説   

• 物語の6基本感情アークの分類と研究   



              了



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稗史七則と物語構造:小説の書き方に潜む古典と現代理論の交差点

序章:時空を超えた物語の設計図を追って

古代ギリシャの演劇から現代のデジタルコンテンツに至るまで、人類は物語を創造し、享受することで文化と歴史を紡いできた。アリストテレスが『詩学』で悲劇の構成を論じたように、西洋の物語論は「始まり、中間、終わり」という三部構成の概念をその源流としている。これは、物語が持つ普遍的な法則を解き明かそうとする、知的な営みの始まりであった。
一方、極東の島国、日本の江戸時代にも、これに比肩する体系的な物語理論が存在した。それは、日本文学史上最も偉大な作家の一人、曲亭馬琴(1767-1848)が、畢生の大作『南総里見八犬伝』の執筆過程で編み出した「稗史七則」である。この古典的な理論は、単なる古めかしい文学指南ではなく、現代の物語創作に驚くべき示唆を与える、普遍的な物語の設計図である。
本稿は、この「稗史七則」を現代の主要な物語理論(クリストファー・ブッカーの6原型、三幕構成、起承転結)と対照させ、時代や文化の壁を超えて共通する物語の法則を解明する。物語の深遠な構造を、まるで秘境の遺跡を探索するかのように、綿密な調査と多角的な分析を通して紐解いていく。小説家を志す者、創作研究者、そして物語の根源に興味を持つすべての人々が、知的な発見に満ちた旅に出るための羅針盤となることを目指す。

第1章:古典の設計図「稗史七則」の解剖

1.1 稗史七則の起源と馬琴の思想

「稗史七則」は、曲亭馬琴が28年もの歳月を費やして完成させた大作『南総里見八犬伝』の第九輯に付言として記された、作者自身の創作技法である 。馬琴は、この七つの原則を「稗史」(民間で成立した歴史書)を執筆するための法則と位置づけた。ここで注目すべきは、「稗史」が国家が制作する「正史」の対義語であるという事実である 。この用語選択は、馬琴が単に大衆向けの娯楽小説を書いたのではなく、「公式な歴史の陰に隠されたもう一つの歴史」、すなわち庶民の視点から描かれた物語を創造しようとした強い意志を示唆している。
馬琴の創作哲学は、「勧善懲悪」という思想と深く結びついている 。彼は、物語の使命は単なる娯楽に留まらず、悪を懲らしめ善を勧めることにあると考え、仏教の因果観をも物語の構造に組み込んだ 。この思想の最も深遠な現れが、七則の中でも特に重要な「隠微」の原則である。馬琴は、物語には書かれた文言の外に「文外の深意」があるとし、それを「百年の後知音を俟て是を悟らしめんとす」(百年後の読者と心を通わせるのを待つ)と表現した 。
この「隠微」の概念は、単なる美的技巧を超えた、哲学的な、そして時に政治的な声明でもあったと解釈できる。馬琴が生きた時代は、厳格な出版統制が敷かれており、時の政権を直接批判すれば筆禍を招く危険性があった 。そのため、馬琴は物語の寓意や諷刺を直接的に語るのではなく、読者が自ら発見できるよう巧妙に隠蔽した。この技法は、表現の自由が限られた社会の中で、作者が自らのメッセージを未来の読者に託すための、戦略的かつ芸術的なツールであったと言える。

1.2 構造を支える7つの原則

「稗史七則」は、物語の骨格を緻密に構築するための七つの技法から成り立っている。それぞれが現代の物語創作にも通じる、示唆に富んだ原則である。

* 主客(しゅかく): 能楽の「シテ(主役)」と「ワキ(脇役)」のように、物語の中心となる人物と、その周囲を固める人物の役割を明確に分ける技法である 。しかし馬琴は、ただ役割を固定するのではなく、「主も亦客になることあり」と述べ、物語の進行に応じて人物の役割が流動的に変化しうることを示唆している 。これは、現代の群像劇や、登場人物の内面的な成長を描くキャラクター・アークの概念に通じる。

* 伏線(ふくせん): 「後に必出すべき趣向あるを數囘以前に些墨打をして置く事」と定義される、後の展開を事前にさりげなく示唆する技法である 。これは現代の「フォアシャドウイング(foreshadowing)」に最も近い概念であり、読者の興味を引きつけ、物語に深みを与える役割を果たす。

* 襯染(しんぜん): 伏線と似ているが、明確に異なる技法である 。馬琴は「後に大關目の妙趣向を出さんとて數囘前よりその事の起本來歴をしこみ措く」と定義し、因果関係を事前に仕込んでおくことで、物語の説得力を高める手法と区別した 。この区別は、現代の創作において極めて重要な示唆を与える。単なる驚きのための匂わせ(伏線)ではなく、物語の核心的なテーマや人物の運命に深く結びつく因果を事前に構築する「襯染」の概念は、プロットの論理的強度と深遠さを飛躍的に高める。

* 照応・照対(しょうおう・しょうたい): 詩の対句のように、二つの事象や人物を対照させることで、意味やテーマを強調する技法である 。これは単なる偶然の反復ではなく、作者が意図的に配置したレトリックである。例えば、『八犬伝』では悪女舩虫と牛の角突きの場面が例として挙げられ、同じモチーフを繰り返すことで物語の主題を強調している 。

* 反対(はんたい): 照応と似て非なる技法であり、同一人物が異なる状況で逆の行動をとることで、物語に奥行きを生む 。例えば、『八犬伝』の芳流閣の屋根上で犬飼現八が犬塚信乃を捕らえようとする場面と、千住河原の舟上で逆に信乃と道節が現八を捕らえようとする場面がこれにあたる 。この対比は、登場人物の成長や状況の変化を鮮やかに描き出し、物語に単線的な時間軸を超えた多層的な構造を与える。

* 省筆(しょうひつ): 長々と出来事を説明することを避け、登場人物のセリフや盗み聞きによって情報を伝えることで、物語のテンポを維持し、読者を飽きさせないようにする技巧である 。

* 隠微(いんび): 前述の通り、作者の「文外の深意」を託す、最も深遠で暗示的な表現の力である 。

第2章:現代物語理論の座標軸

2.1 物語の7つの基本プロットと普遍的構造

現代の物語理論家クリストファー・ブッカーは、すべての物語は7つの基本的なプロットのいずれかに分類できると提唱した 。これは、時代や文化を超えた物語の普遍性を解き明かす試みであり、馬琴が「時代を超える物語の設計図」を志向したことと見事に符合する。
以下に、それぞれの基本プロットと、その典型的な事例を挙げる。

* 1. 怪物の打倒(Overcoming the Monster): 主人公が、自分や故郷を脅かす敵を打ち破る物語である。古くは叙事詩『ベオウルフ』  から、現代の映画『ジョーズ』  や『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』  に至るまで、普遍的なヒーロー像を描く 。

* 2. 貧者から富者へ(Rags to Riches): 貧困から身を起こし、富や地位、あるいは愛を得て、一度それを失いながらも再び取り戻し、人間として成長する物語である 。童話『シンデレラ』  や、日本の豊臣秀吉の物語  など、世界各地の伝承や歴史に見られる。

* 3. 探求(The Quest): 主人公が重要な目的物を獲得するため、あるいは特定の場所へ到達するため、仲間と共に旅に出る物語である 。この旅の途上で、彼らは多くの誘惑や障害に直面する 。J.R.R.トールキンの『指輪物語』  や、騎士道物語の『聖杯伝説』  が典型的な例である。

* 4. 旅と帰還(Voyage and Return): 主人公が異世界を訪れ、そこで得た経験や教訓を携えて元の世界に戻る物語である 。ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』  や、スタジオジブリの『千と千尋の神隠し』  がこの類型に属する。

* 5. 喜劇(Comedy): 誤解や混乱が複雑に重なった後、一つの出来事を機にすべてが明らかになり、調和が訪れる物語である 。ウィリアム・シェイクスピアの『夏の夜の夢』  や、現代の多くのロマンティック・コメディ映画  がこのパターンに従う。

* 6. 悲劇(Tragedy): 主人公が抱える重大な欠点や過ちが、自らの破滅を招く物語である 。ソフォクレスの『オイディプス王』やシェイクスピアの『ハムレット』  がその代表例であり、物語は登場人物の凋落を描くことで、読者に憐れみや教訓を与える 。

* 7. 再生(Rebirth): 精神的・道徳的に堕落した主人公が、ある出来事を経て生まれ変わり、より良い人間になる物語である 。チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』  は、このプロットの古典的な例である。

2.2 東洋の旋律「起承転結」 vs. 2.3 西洋のダイナミズム「三幕構成」

物語の構造を語る上で、東洋と西洋を代表する二つの理論、すなわち「起承転結」と「三幕構成」を比較することは不可欠である。
「起承転結」は、元来、漢詩、特に四行の絶句の構成法として確立されたものである 。その流れは、起句で詩意を言い起こし(起)、承句でそれを受け(承)、転句で意表をつく転換を加え(転)、結句で全体をまとめる(結)という四段階から成る 。この構成法の最大の特長は、物語の核心に「対立」を置くのではなく、予測を裏切る「転」の部分にこそ美学を見出す点にある 。
一方、「三幕構成」は、アリストテレスの「始まり、中間、終わり」という概念に端を発し、現代ではシド・フィールドによってハリウッド脚本術の標準として体系化された 。この構造は、第一幕(設定)、第二幕(対立)、第三幕(解決)で構成される 。物語は、第一幕で日常が壊れる「発端事件」が起こり、第二幕で主人公が次々と現れる障害(対立)に直面し、第三幕で最終的な解決を迎える 。この理論は、物語を「対立と解決」というダイナミズムで駆動させることを重視する。
この二つの構造の違いは、それぞれの物語が生まれた文化的価値観を反映していると考えられる。三幕構成が「対立(Confrontation)」を第二幕の中心に据える  のに対し、起承転結の「転」は、必ずしも対立を意味しない。これは、西洋文化が善と悪の明確な対立や葛藤を物語の源泉と見なす傾向がある一方、東洋文化は視点の転換や調和の達成を物語の美学と見なしてきた可能性を示唆している 。

第3章:交差点としての物語構造

3.1 古典と現代の「似て非なる」関係

「稗史七則」は、現代の物語構造論と根本的に異なる性質を持つ。馬琴が「小説・物語を書く上での七種類の技法」と定義したように 、七則は物語の「筆の技巧」という、ミクロな表現に焦点を当てている。これに対し、三幕構成やブッカーの6原型は、物語全体の「骨格」や「ナビゲーション」を提供するマクロな構造論である 。
この違いは、両者の関係性を理解する上で極めて重要である。稗史七則と現代の構造論は、互いに排他的なものではなく、補完し合う関係にある。現代の物語作家は、ブッカーの原型や三幕構成といったマクロな構造を物語の航海図として利用し、その細部に馬琴の精緻なマイクロテクニックを埋め込むことで、作品に唯一無二の深みを与えることができる。
例えば、「怪物の打倒」というマクロな構造を描く際にも、単なるヒーローの冒険譚に留まらず、その物語に「伏線」と「襯染」を使い分けることで、驚きと説得力の両立を図ることができる。また、「照応」と「反対」の原則を配置することで、物語は単純な善悪二元論を超えた、多層的で詩的な作品へと昇華される。古典的な技法を現代的な文脈で「再翻訳」することで、物語の表現は無限に拡張される。

3.2 稗史七則の「再翻訳」:現代物語への応用例

古典的な稗史七則の原則は、現代の文学や映像作品にも、形を変えて息づいている。

* 『君の名は。』にみる「伏線」と「隠微」
 新海誠監督のアニメーション映画『君の名は。』は、古典的な技法が現代にどう応用されているかを示す好例である。物語の鍵となる「結び」の概念は、三葉の髪を飾る組紐  や、口噛み酒  といった具体的なアイテムとして巧妙に「伏線」が張られている。また、作中で登場するティアマト彗星という大災害も、冒頭から繰り返し登場する重要な伏線として機能している 。
 さらに、三葉の祖母が語る「わしも少女の頃、誰かと入れ替わった記憶がある。お前の母も」というセリフは、一瞬の「隠微」として提示され、宮水家の巫女が持つ特殊な力や運命に関する「文外の深意」を作品世界に与えている 。

* 『南総里見八犬伝』と「戦隊ヒーロー」の共通性
 『南総里見八犬伝』は、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の8つの玉を持つ八犬士が、勧善懲悪のために活躍する物語である 。この設定は、現代の「戦隊ヒーロー」や「グループ・アドベンチャー」物の原型とも見なすことができる。共通の目的を持つ8人の仲間が集い、悪と戦うという構造は、ブッカーの「探求(The Quest)」や「怪物の打倒(Overcoming the Monster)」といった普遍的な原型を内包している 。これは、稗史七則の概念が単なる文字の技巧に留まらず、物語の根源的なパターンとして現代まで引き継がれていることを示している。

第4章:創作現場での実践的応用

4.1 小説、映画、アニメにおけるハイブリッド構造

マクロな構造論とミクロな技法を融合させる「ハイブリッド構造」は、現代のクリエイターが作品に奥深さを加えるための有効な手段である。

* 起承転結の「結」から考える現代脚本術
 現代の脚本術には、最初に物語の目的地である「結」を決定し、そこから「起」や「承」を逆算して構築していく手法がある 。これは、馬琴が「隠微」として「深意」を物語の核心に据えた創作哲学の現代版である。物語の目的地を先に設定することで、プロットの論理的な整合性を保ちつつ、すべてのシーンに目的を持たせることが可能になる。

* 三幕構成の骨格に起承転結のリズムを
 西洋的な「三幕構成」を物語の骨格とし、その第二幕(対立)の途中に、東洋的な「転」(予想外の展開や視点変更)の要素を挿入することで、物語に奥行きと意外性をもたらすことができる 。村上春樹の『ノルウェイの森』や三島由紀夫の『金閣寺』といった日本文学の傑作には、このハイブリッドな構造の萌芽が見られる 。

4.2 デジタル時代の物語表現:SNSとショートフィルム

時間的制約が極めて厳しいTikTokやVlogといったデジタル時代の物語表現も、稗史七則の視点から分析すると、興味深い共通点が見出される。

* 「省筆」は美的選択から機能的要件へ
 馬琴の時代、長々とした説明を避ける「省筆」は、読者を飽きさせないための文学的な「美学」であった 。しかし、デジタル時代のショートフィルムにおいては、これが視聴者の「スワイプ」を防ぐための機能的、かつ不可欠な「要件」に変化している。最初の数秒で視聴者の指を止め、最後まで見せるための工夫として、冗長な説明を「省略」する「省筆」の原則が実用的な戦略となっている 。これは、古典的な原則が、時代とメディアの制約によってその役割を変え、本質的な価値を保ち続けていることを証明している。

* 「隠微」は孤独な対話から集団的ゲームへ
 馬琴の「隠微」は、作者と「たった一人の知音」との間で交わされる、孤独で深遠な対話であった 。しかし、現代のSNSでは、視聴者がドラマの「伏線と回収」について活発に議論を交わす文化が生まれている 。これは、馬琴が託した「隠微」の概念が、デジタル技術によってリアルタイムで大衆化・共同化された現象と言える。作者が意図的に残した余白を、不特定多数の「知音」が解釈し合う、インタラクティブな物語体験が成立している 。この変化は、物語の解釈権が作者から読者、そして読者コミュニティへと移行したことを示唆し、物語創造における読者参加型の新たな可能性を開いている。

古典と現代の物語技法対照表

| 稗史七則の原則 | 現代的類義概念 | 応用事例 |
|---|---|---|

| 主客 | 群像劇のキャラクター・アーク、役割転換 | 『南総里見八犬伝』、映画『カメラを止めるな!』 |

| 伏線 | フォアシャドウイング(foreshadowing) | 『君の名は。』、ミステリー小説全般 |

| 襯染 | プロットの因果律、世界観の事前構築 | 『南総里見八犬伝』、『ハリー・ポッター』シリーズ |

| 照応・照対 | モチーフの反復、シンボリックな対比 | 『南総里見八犬伝』、『スター・ウォーズ』における父子の対決 |

| 反対 | キャラクターの役割逆転、状況の対比 | 『南総里見八犬伝』、映画『プリティ・ウーマン』 |

| 省筆 | ミニマリズム、テンポ、余白の美学 | 能、ショートフィルム、Vlog |

| 隠微 | イースターエッグ、裏設定、伏線考察文化 | 『君の名は。』、『新世紀エヴァンゲリオン』 |

結論:温故知新、物語の設計図を拡張する

本稿の多角的な分析を通して、「稗史七則」は、単なる江戸時代の古めかしい文学理論ではないことが明らかとなった。それは、時代やメディアが変わっても色褪せない、物語を面白くするための普遍的な設計原則である。馬琴が自らの作品に託した七つの技巧は、現代の物語構造論やデジタルコンテンツの中に、形を変え、役割を変えながら生き続けている。
物語の力は、骨格となるマクロな構造と、物語に命を吹き込むミクロな技巧の、二つの要素が融合することで最大限に発揮される。西洋的な「三幕構成」や「7つの基本プロット」を骨格としてプロットを構築し、東洋的な「起承転結」のリズムを取り入れ、そして「稗史七則」の精緻な技法で物語を彩る。このハイブリッドなアプローチこそが、現代のクリエイターがより奥深く、読者の心に響く作品を創造するための新たな道である。
物語を紡ぐことは、過去の偉大な先人たちとの対話であり、未来の読者との対話でもある。馬琴が「百年後の知音」を待ったように、現代のクリエイターもまた、時代を超える物語を創造する使命を帯びている。温故知新、この普遍的な設計図を手に、創作という壮大な旅に出てほしい。



                了



    リンクなど資料


稗史七則(抜粋)

「稗史七則」とは『南総里見八犬傳』九輯中帙付言にある曲亭馬琴による小説執筆作法で以下となります。

「主客・伏線・襯線・照応・反対・省筆・隠微」

1.主客

「能樂にいふシテ・ワキの如し」「主も亦客になることあり」

2.伏線

「伏線は、後に必ず出すべき趣向あるを、数回以前に些墨打(ちょっとすみうち)して置く事なり」

3.襯染(しんぜん)

「襯染は下染(したぞめ)にて、此間にいふしこみの事なり」

4.照応 「照対」

「譬えば律詩に対句ある如く、彼と此と相照らして、趣向に対を取るをいふ」

5.反対

「照対は、牛をもて牛に対(つい)するが如し。その物は同じけれども、その事は同じからず。又反対は、その人は同じけれども、その事は同じからず」
「事は此彼相反(あいそむ)きて、おのづらに対を做すのみ」

6.省筆(しょうひつ)

「作者の筆を省くが為に、看官(みるひと)も亦倦(またたいくつせ)ざるなり」

7.隠微

「隠微は、作者の文外に深意あり。百年(ももとせ)の後知音を俟(まち)て、是を悟らしめんとす」


https://www.weblio.jp/content/%E9%A6%AC%E7%90%B4%E3%81%AE%E3%80%8C%E9%9A%A0%E5%BE%AE%E3%80%8D

稗史七則本文

詳しくは以下をご覧ください。

物語の6原型

1700の英語文学を、まず、ネブラスカ大学のマシュー・ジョッカーズ教授が分析し、のちにバーモント大学のコンピューテーショナル・ストーリー研究所の研究員が以下6パターンとした研究です。

なお英語の外の言語文学を研究したわけではないものなので、日本文学に適用できるのかはわかりません。

  • 貧民から富豪型:不運から幸運へと上昇する、立身出世

  • 富豪から貧民型:幸運から不運へと下降する、悲劇

  • イカロス型:一度は上昇するものの、その後に下降する

  • オイディプス型:下降した後に上昇し、また下降する

  • シンデレラ型:上昇した後に下降し、最後は上昇する

  • 穴の中の男型:一度は下降するものの、苦境を脱して上昇する


https://www.matthewjockers.net/2014/06/05/a-novel-method-for-detecting-plot/

ストーリー 同じルール理論


https://en.wikipedia.org/wiki/Hero%27s_journey

定番の方程式


https://arxiv.org/abs/1606.07772

起承転結は漢詩の方法

起承転結は漢詩の四行詩である絶句形式のことです。小説に使うものではありません。

「「起承転結」は漢詩(絶句)の構成法の一つであって、それ以上のものではない。文学である絶句の詩作には有効かもしれないが、全ての文章表現に当てはめることはできない。特に問題なのは「転」の部分である。私はこの部分を、「結」に落とすため緊張を和らげそらす部分として「抜き」あるいは「すかし」と呼んでいるが、意見文は一貫性を保持し、各部分が有機的に結合し、緊密な統合体を形成してこそ強靱なものになる。「転」の部分で文章の本筋とは一見関係の薄い「抜き」を入れることは絶対にしてはならないことである。

「起承転結」とは、「序論・本論・結論」や「序・破・急」が三部構成であることを示すのと同程 度の、単に四部構成であることを意味する以上のものではない。どれ程「構成」に腐心したところで、それだけでは優れた文章になどならないのである。起承展結ならまだしも、起承転結ではダメである。「文章は『起承転結』で書け」と書いてあったら、その本は全く使い物にならない。即座に捨てるべきだ。その書の著者は勉強不足も甚だしいと断じてよい。」

高崎経済大学論集 第45巻 第4号 2003 175頁~183頁
「文章表現技術」の理論確立に向けて高松正毅
Toward the Establishment of a Theory of Writing Techniques
Masaki TAKAMATSU
http://www1.tcue.ac.jp/home1/takamatsu/Theses/takamatsu2003.pdf

三幕構成

演劇脚本は三幕構成で書かれます。内容は、
設定 (Set-up)、対立 (Confrontation)、解決 (Resolution)
です。
比率は1:2:1だそうです。
また、幕と幕はターニングポイントを置きます。


https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E5%B9%95%E6%A7%8B%E6%88%90

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