関ヶ原。三成、最後の采配 第六話『問鉄砲、裏切りの鬨』

第六話『問鉄砲、裏切りの鬨』

――まだ、勝てる。
そう、思っていた。

その思いをかき消すように――

乾いた破裂音。
内府の本陣、金扇の馬印の一角から、
白い煙が上がるのが見えた。

「――まさか…!」

隣で息を詰めていた左近が、呪詛のように吐き捨てた。
彼の武人としての直感が、最悪の形で現実と結びつく。

問鉄砲。
動かぬ均衡を斬り裂く、家康からの最後通牒。

そして――
松尾山が、鳴った。

ゴオオオオオッ、と地鳴りのような鬨の声が、天と地を震わせる。

三成の肩が、首ごと大きく揺れた。
視線が、音のする方角へと釘付けになる。

晴天の中、山肌を駆け下りる、小早川の無数の旗。
その全てが、
味方であるはずの大谷隊の、がら空きの側面へと牙を剥いていた。

松尾山が裏切った。

――そして、
南宮山も動かない。

三成の呼吸が、止まった。
世界の音が、遠ざかる。

手にしていた采配が、指の間から、するりと滑り落ちそうになる。

――だが。

落下する寸前、指が反射的にそれを握りしめた。
掌に食い込む、木肌の硬い痛み。骨が、みしりと鳴る。

その一点の痛みだけが、現実だった。

三成は深呼吸するとゆっくりと瞼を開く。
その視線はまっすぐと、眼前の、戦場だけを捉えている。

凍てついた唇から、言葉がこぼれ落ちた。

「守りを固めよ。陣形を立て直せ」

その声には、一切の揺らぎがなかった。
だが、その静けさこそが、側にいた左近を、激昂の淵から現実に引き戻した。
はっと主君の横顔を見た。
そこに、絶望の色はない。
ただ、全てを焼き尽くさんとする、無音の炎が見えた。

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