関ヶ原。三成、最後の采配 第十一話『終わりなき退却、最後の采配』
第十一話『終わりなき退却、最後の采配』
伊吹山への道は、敗走の道だった。
振り返れば、もう見分けもつかぬほどの屍が折り重なっている。
歩みを止めれば、追いつかれる。誰かが倒れても、進むしかない。
鎧が、擦れる。
鉄の匂い。
森九兵衛は柵の近くで死んだ
闇に紛れ、獣道をゆく。
追手の声が、遠く、そして近く、まとわりつく。
鎧の擦れる音、乾いた足音、そして、家臣たちの荒い息遣いが聞こえる。
思考がこだまする――
大場土佐は死んだ
泥が、跳ねる。
頬に、冷たい。
思考がこだまする――
渡辺勘兵衛は自害した
「大一大万大吉、殿、必ずや!」
助六が、物音のする方向に消えていった。
百人ほどいたはずの者たちが、一人、また一人と減っていく。
まるで「捨てがまり」、いや、「捨て石」のように――
自分の、息の音だけが、やけに、うるさい。
思考がこだまする――
助六が死にに行った
小姓だった、助六が…
納戸頭になった、あの助六が…
いつだったか、旗印の意味を問うてきた、あの真っ直ぐな瞳
大一大万大吉
一人が万民のために
万民が一人のために
それが天下を太平にする
あぁ、そうだな
三成は、ゆっくりと顔を上げた。
――伊吹山の麓、草野谷――
残った影は、わずか。
三成、渡辺甚平、塩野清助、磯野平三郎。
夜が明けようとしていた。
その、白み始めた空気を破り、平三郎が静かに立ち上がった。
「殿。これより先は、某《それがし》が」
「待て」と、三成。
そして、深呼吸を一つすると、こういった。
「生きよ」
平三郎が、はっと顔を上げる。
三成は続けた。
「これより先は、一人で行く、そのほうが逃げやすかろう」
皆、言葉を失い、ただ主君を見つめている。
三成は、その一人一人の顔を、確かめるように見回した。
そして、最後に、こう言った。
「必ずや、大坂で再会しようぞ」
再起を誓う、別れの言葉。
一行は散り散りに別れ、
三成は山の中に消えていった。
