【 小さな宿 】 172章 写真と建築の旅 ヨーロッパ編 052 モデナとボローニャ 隅に残る微粒子
4月半ば、この時期になると、鼻の奥や目の奥にわずかな違和感が残ることがある。
強いものではない。場所を変えれば薄れ、時間が経てば気にならなくなる。
そういう種類のものだ。
ただ完全には消えないことがある。
その日はモデナからボローニャへ移動している。
遅れたモデナ
朝、8時過ぎに朝食をとった。Y君と少し話したあと、再び横になった。二度寝してしまう。出発は11時頃になった。
12時過ぎ、モデナに着く。
モデナは静かな都市だった。
マセラティの拠点として知られる工業都市でもあるが、その印象に従って動いているわけではない。
駅の周辺は淡々としている。移動のための通過点に近い。
アルド・ロッシが設計したサン・カタルド墓地へ向かう。午後1時頃。
キューブ状の構成に、規則的な開口が並んでいる。
外側からその構造だけを確認する。内部には入らない。

途中、視界に傾いた二つの塔が入る。
しかし立ち止まらず、そのまま通り過ぎる。
見たものだけを残して、すぐに移動する。
そして、ボローニャへ。
ボローニャを覗く
美食の都市とも、塔の都市とも呼ばれている。
ただその分類は、移動の理由にはなっていない。
ポルティコ(アーケード)の街だった。
建物の下を歩く限り、外の空気は直接届かない。歩行は屋根の下に保持され続ける。
スカルパの建築を見る。
家具メーカーのショールームとして使われている建物で、窓に二つの円がある。
その円はわずかにずれて配置されている。

そのずれだけを見て、その場を離れる。
長く留まる理由はない。
エスプリ・ヌーヴォー館(復元)にも行く予定はあった。
しかし距離と時間の条件で、その選択は外れた。
この日は移動と滞在の枠組みが先に決まっている。
夕方、ボローニャを出発する。
フィレンツェには19時頃に到着し、ユースホステルへ向かう。
見えない粒
食堂には相方のS君と昨晩知り合ったY君、そしてもう一人、メガネをかけた人物がいる。同じテーブルに座る。
その人物はほとんど話さない。
視線の動きも少ない。会話の輪にわずかに触れているだけで、中心には入らない。
その後の記録に一行だけ残る。
「コイツと喋っていると気分が悪くなった。」
それ以上はない。説明も補足もない。
その場の状態としてそこにあるだけだ。

27年後、そのノートを開いた。
この間、何度か全体を見返すことはあった。
ページをめくったこともある。
ただ、この一日の記録に触れることはなかった。
今回、初めてそのページに目が止まる。
同じように移動し、同じように見ていたはずの記録の中で、その一枚だけが違って見えた。

ノートを閉じても、その感覚はすぐには消えない。
それはヒノキの花粉のような小さな微粒子かもしれない。
取り除こうとしても、うまくいかない。
奥に残ったまま、そのまま消えない。
つづく
