言って「いいこと」と「悪いこと」の境界線は難しい#227

「あのおばちゃん、お顔がシワシワだね!」
静まり返ったエレベーターの中、あるいはスーパーのレジ待ちの列。
我が子の口から飛び出したあまりにも真っ直ぐ(すぎる)観察眼に、顔から火が出るような思いをしたことはありませんか?
親としては「うわっ!」とパニックになりますが、実はこれ、子供が悪意を持っているわけでも、親のしつけが足りないわけでもありません。
子供にとって、世界は「見たまま」で構成されています。
その見たままを言葉にするのが「いいこと」なのか、それとも誰かを傷つける「悪いこと」なのか。
その境界線を教えるのは、実はとても高度で、脳の成長と密接に関わる壮大なプロジェクトなのです。
今回は、脳科学や心理学の視点から、どうすれば「心のブレーキ」を上手に育てていけるのかを考えてみましょう。
1. 子供の脳は「ノー・ブレーキ」
脳科学的な視点で見ると、子供が失礼なことを言ってしまう最大の理由は、脳の「前頭前野」が未発達だからです。
ここは、思考をコントロールし、行動にブレーキをかける「理性の司令塔」。
大人の脳には「これを言ったら相手がどう思うか」というフィルターが備わっていますが、子供の脳はそういうフィルターはありません。
感じたこと、見たことがそのまま爆音で外に飛び出してしまいます。
特に幼児期の子にとって、事実は一つです。
「シワがある」「太っている」「変な服」
彼らにとってそれは、空が青いのと同じレベルの「客観的な事実」の報告に過ぎません。
「正直に言いなさい」と教えられ、一方で「本当のことでも言っちゃダメ」という社会のルール。
この矛盾したルールを脳が理解し、使い分けられるようになるには、かなりの年月が必要です。
2. 「相手の靴」を履いてみるという心理学
児童心理学には「心の理論」という概念があります。
これは、他人が自分とは違う考えや感情を持っていることを、理解する能力のことです。
この能力が十分に育つのは、だいたい4、5歳頃と言われていますが、個人差も大きく、10歳を過ぎてもトレーニングが必要な部分もあります。
境界線を教えるとき、つい「そんなこと言っちゃダメ!」と否定の言葉を使ってしまいがちですが、これだけでは子供は「なぜダメなのか」が分かりません。
おすすめなのは、心理学でいう「役割取得(相手の立場に立つ)」を遊びの中で繰り返すことです。
「もし、あなたが『その服、変だよ』って言われたら、心の中はどんなお天気になるかな? ザーザー雨かな? それともピカピカ晴れかな?」
このように、感情を視覚化して問いかけてみてください。
少しずつ「言葉には、人の心を晴れにする魔法と、雨にする魔法があるんだよ」と、クイズのように楽しんでみてください。
3. 大人の「裏表」も、子供には大切な教材
心理学者バンデューラの「社会的学習理論」によれば、子供は親の言葉そのものよりも、親の「振る舞い」から多くを学びます。
例えば、家で近所の人の悪口を言っているのに、外では笑顔でその人と挨拶をする。
これ、大人の社会ではよくあることですが、子供から見ると「えっ、どっちが正解なの?」と混乱するポイントになります。
子どもの前で一貫性のある言動をすることは、もちろん大事ですが、でもそうもいかないことも多々ありますよね。
そんなときは思い切って自分を教材にして「ママもついイライラして悪いこと言っちゃった。心の中で思っても言わなくていいこともあるんだよね」と、正直に話してみましょう。
そうしたら子どもは「思ってることと、言うことは同じじゃないんだ」ということを学びます。
そして、「思うことは自由なんだ」ということも同時に学ぶことができます。
4. 微調整を繰り返して、社会へ出る
「境界線」の教え方に、たった一つだけの正解はありません。
なぜなら、その境界線は文化や相手との距離感によって、絶えず変化するものだからです。
一番大切なのは、お子さんが「気まずいこと」を言ってしまったときに、それを「この子の性格?私のしつけ?」と思わないことです。
それは、社会という広い海を渡るための「羅針盤」を、今まさに微調整している最中なのだと考えてみてください。
私たち親だって、余計なひと言に「しまった…」と思うことありますよね。
多くの失敗をし、誰かを傷つけ、自分も傷つきながら、ようやく「ほどよい言葉」を選べるようになります。
子供と一緒に「ママ今日、こんなこと言ってしまった、マズいかな?」と言い合いながら、共に探っていけることがベストですよね。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
それじゃ、またね!
