生きるための

▼今週のお題
■セリフ 
「ここだけの話だよ」
■三題 
・サンダル ・日焼け止め ・藤棚

▼投稿ルール
・投稿締切(任意):2026年4月16日(木)23:59
・ハッシュタグ「#せりふ三題噺」「#サンダル日焼け止め藤棚」を
つけて投稿

( せりふ三題噺は、はらとけい さんのご企画です。)





ここは、どこ?

目をこすっても、輪郭が定まらない、白い景色。
見下ろせば、素足。
あしゆびが、砂をつかむ。
薄く、透明な水に浸っていて、
靴は失くしたのではなくて、脱いだのかも。

風はない。水面はどこまでも続く、鏡のよう。
下を見つめながら、歩いてみる。さぷさぷ。
つめたくも、ぬるくもなく、
踏み込めば沈む地面は、なんとも、たよりない。

どうやったら、しゃんと歩けるのか、試していると、
頭のてっぺんで、どしんとぶつかった。
おっとと、と、後ずさって、見上げれば、
上から下までまっ白な、男の子。
なんだか全身が、淡く光ってる。
足元はサンダル履き。ずるい。

ぼくからしたら、君のがうらやましいけど。
そうなの?
だってほら、地に足がつく、って、言うじゃない?
ぼくのこれは、間を埋めてるだけなんだ。
翼を捨てても、まだ、降りられない。その証拠。
そうなのかな。

空だってそうだ。
ちらっと目を遣る。
降ってくる光は、この身体を白々しく通り抜けるだけで、
結局、受け入れてもくれない。
うらめしそうに見やる、血の気のない肌。
日焼け止めは、要らなそう。

来なよ。
途中までは、案内出来るから。
くるりと向き直って、すべるように進む。
あわてて追いすがる。やっぱりずるい。
焦ることはないよ。なにも。
ほら、と言うように、掌を返す。
そうね。そうなのかも。

何も無いように見えた、道行に、
にぎやかなあれこれが、溢れ出す。

何かが産まれ、祝福される場面。
そう、笑顔って、こぼれるんだ。涙といっしょに。
手と目が届く、その範囲が、毎日、少しずつ広がって、
いろんなものが、結びつき始める。
地に足が触れ、世界は縦になり、遠くが在ることに気づく。
風が動き出して、見えない向こうの匂いを届け、
夜の音に聞き耳を立て、昼の味を知るようになる。
そして声。
響き、引き寄せ合い、絡み合う、空気のふるえ。
そこに載せられる、色鮮やかな、感情。
夢中で集めて、抱え込み、消え去るのを惜しんで、抱きしめる。
全ては光に向かって開かれ、走り出す。
始めはおずおずと、やがて嬉々として。
一気に加速する、今!
全身は細かく解体し、また素早く再構築され、
より高みへと、一歩でも先へと、駆け上がる!

ほおに触れる、柔らかな何かに、我に返る。
手に取ると、溶けてしまいそうな、小さな花びら。
見る間に紅く染まり、宙に舞う。
にわかに巻き起こる桜吹雪が、
ふたりを覆い、埋め尽くす。
かざす指の間に渦巻くそれは、前を行く彼を削って閃き、
私を切り裂いて後の嵐を薄桃に染める。
喘ごうとして、制止の声が飛ぶ。
喉をやられる、口を開けるな!

抜けるとそこは、一面の藤棚。
空は暗く、地はくすぶる熾に覆われ、
長く下がった、赤黒い房の先端を焦がす。
ゆれる彼の裾に点いた火の粉が、
歯の隙間から、炎の舌を踊らせる。

道案内は、ここまでだ。さあ、お行き。

延焼が風を呼び、
直立して動かない、蝋細工のような身体を舐め、
紅蓮の衣に包み込む。

ああ、ああ。
物語が、消え落ちる。
始まる前に、終わってしまう。

形を失いつつ、残った片目がこちらを見る。
今、ここだけの話だよ。
気に病むことはない。縋るのはただの浪費だ。

それでも。
あなたも後から、来る?

どうだろう?
その時は、僕では、なくて、
もう、君、だ 。

さあ。
もはや音にはならないため息を、唇が形作る。
はぜる無数の光跡の向こう。
もう振り返ることも許さぬ、佇立する黒い残滓。

裸足で踏む、剥き出しの、熱。
一歩毎に、刻まれる、新たな記憶。
痛みこそ、その先へと通じる、ひとすじの道。









私なりの、最近具体的に触れた、おふたりへの、追悼   のつもり
今他に方法を知らないので、場所をお借りしました
ごめんなさい
ありがとう



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