M.R.LABO業務紹介:ライティング・ワーク[2]
ネーミングを考えるーその1.コンセプトの重要性
この業界に身を置いた当初、観光ホテルや旅館の販促ツールを作成していた関係で、施設内にある飲食施設などのネーミングには興味を持っていたのですが、フリーランスになってからのある日、たまたま知り合いのデザイン会社から「施設のネーミングを考えてほしい」との打診をいただきました。
その施設とは、京都市内で開発が進んでいた大規模研究施設で、その中核的なビル内にできるカフェテリアとバーのネーミングの話でした。カフェテリアは、広くて明るいかなりオシャレな社員食堂といった感じで、朝昼晩と研究施設内で働く人々の胃袋を満たす大切な場所です。バーの方は、地下に作られるブリティッシュスタイルのかなり本格的な造りで、落ち着いた雰囲気のなかでお酒を楽しめるというコンセプトでした。
カフェテリアは、アメリカの大学の学食のイメージに近いものがあったため、「パンかご」という意味の英語をお借りしました。アメリカで同じ意味の英語はもうひとつ「中西部の穀倉地帯」という意味があり、国と世界の食を支えているという背景から来ているため、それをかけたダブルミーニングのネーミングにしたのです。それともうひとつ、ロゴタイプを作るにあたり、2つの単語の頭文字を強調するものにしました。少し長めのネーミングだったため、頭文字2つで”BB(ビービー)”と略して親しんでもらえれば…という意図を込めたのです。
一方のバーは、英国の歴史などを色々調べた結果、18世紀初頭に発行された世界初の雑誌(新聞という説もある)の名前からいただきました。政治や芸術など上流階級向けに幅広い記事が掲載されていたとのことですが、何よりも音(おん)の響きが良いため、自身でも「良い店名がつけられたな」と自画自賛してしまいました。雑誌発行にあたっての風刺画も見つかりましたので、コピーを額に入れて店のどこかに飾ってもらうように頼んだ覚えもあります。
提案にあたり、それぞれ10案ずつくらいを第1次案として用意したと思いますが、その意味をしっかりと構築していたためか、比較的すんなりと決めていただいたという記憶があります。(残念ながら、今はもう両施設ともありませんが…)
ネーミングを考えるーその2.地道な作業も必要
上の事例は、今から30年ほど前の話ですので、当時インターネットはまだまだ普及しておらず、ネーミング・アイデアはもっぱら紙の情報に頼っていました。
今も一部そうですが、その当時、カタカナ・ネーミングを考える(というより「探り当てる」という表現の方が正しいかもしれません)にあたって、手元には最低4つの辞書を用意して臨みました。基本となるのが日英/英日の辞書で、意外と重宝するのが「外来語辞典」。その他には「スラング語辞典」なるものも使用します。
「外来語辞典」は、多かれ少なかれ日本人が知っているカタカナ語が網羅されていますので、特に何も縛りがない場合、最初から最後まですべてのページをめくって、良さそうな単語を拾い出すといった作業に使います。当然、英語以外の単語も載っていますので、気になったものは、その後各国語辞書(仏・独・スペイン・イタリア語辞書等々)で再度調べるという作業になっていきます。
これらの作業は、いくつかの単語を組み合わせたり、一部を変えた造語ネーミングを作ったりする際にも行います。出来上がったネーミングが、響きは良いもののスペイン語で×××を意味する単語とほぼ同じ、みたいなことがあると使えないからです。
同じ役割が「スラング語」辞典にもあります。あまりネーミングにふさわしくない意味があったりしないかを調べるためです。
あともうひとつ。候補案に残ったネーミングは、商標登録されていないかどうか調べることが大切です。調べるあたっては、特許庁の.j-platpatという検索サービスページを使えばすぐにわかります。同じ分野(検索ページでは「区分」とされています)で商標登録されていないかどうか、ナショナル・ブランド展開をしなくとも、調べておく方が無難です。
ネーミングを考えるーその3.和風ネーミング
次に、飲食店などによく付けられている和風ネーミングについて、その注意点を述べます。今世紀になったあたりから、和風のネーミングを見かけるようになりました。店名の場合、店主の”人柄”が見えるようで、そこに込められた意味に共感できる人を惹きつける効果があるように思います。
ただ、こだわりすぎて読めない、もしくは理解できないようなネーミングは避けたいものです。例えば「竈(かまど)」は、少し前に某アニメの主人公名で有名になったため、多くの人が読めるようになりましたが、こういった普段使わない漢字をその一文字だけで表示するというのは、無理があります。筆文字などで表現されていると見た目はとてもカッコいいのですが、読めなければ意味がありません。そういう時、例えばkamadoと小さくても良いですから近くに入れてあげれば、「あ、そうか。カマドって読むんだった」と見た人の記憶にも残るはずです。
これは商品名や社名などでも同じことが言えます。コンセプトはしっかりと盛り込んでほしいのですが、誰もが読めない・理解できないネーミングは、ネーミングとしての役割を果たしていないと考えられるからです。
本稿の最後に、ネーミングを考える際には、音(おん)の響きも重要だということをお伝えしておきます。意味やコンセプトももちろん大切ですが、一般的に人は濁音が入っていれば少し重く感じたり、半濁音の場合はかわいらしく感じたりするからです。特に造語のネーミングをつける場合には、注意したいものです。
