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【連載長編小説】ウタヒメユメト 第四章 動き出す歯車 Chapter2

🎡Chapter2──運命の悪戯
仕事で四メト邸に訪れた、一人の男性。
彼は、広大な敷地内の
薄暗いレコーディングスタジオに案内される。

不安な気持ちがよぎった瞬間
一人の女性が、彼の前に現れた。

ウタヒメユメト
—Reunion—
動き出す歯車 Chapter2


機械的な女の名前は、伊藤尚美。

「大変失礼致しました。わたくし、この家の執事をしております、伊藤と申します」

伊藤は深々と頭を下げ、幸佑に名刺を差し出した。
幸祐は圧倒されたまま名刺を受け取る。
彼女の氏名、電話番号やメールアドレスが記載されているが会社名や役職などは印字されていないナゾの名刺だ。
広すぎる玄関エントランスで靴を脱いだ幸祐は、伊藤の後ろをノコノコと付いて行く。
伊藤は一番手前のドアを開けた。室内は広い二間つづきになっている。彼女の書斎と、閑静ながらも洗練されたオフィスミーティングスペースだった。
伊藤は「こちらでお待ちください」とだけ言い残し、完璧すぎて文句の付け所がないミーティングルームに幸祐を置き去りにした。
落ち着いた白とブルーを基調にしたハワイを連想させるが、どこか和の雰囲気を芯に残したお洒落なインテリア。

薄汚れた作業服の幸祐は、自分の姿とは到底混ざり合わない異質な違和感に手汗を握った。

しばらくすると伊藤がコーヒーを淹れたマグカップを二つ持って、再び現れた。
美しく湾曲した円錐型の白いマグカップには、金文字の筆記体で英字が羅列してある。口をつけてみると飲み口が唇に吸い込まれ、芳醇な珈琲の香りが顔中に拡がった。
幸祐は、まるで高級喫茶店で飲む珈琲のような、そんな余韻に包まれた。

伊藤は、機械的に口を動かした。

「早速ですが、この建屋内の出入り業者の件で、ご説明させていただきます。持ち込む工具や材料の運搬などは、事前にお知らせください。お一人で運べない機材や、資材に関してですが、人手が必要な場合は、こちらで人員を準備いたします。事前に何人必要か、また運び入れる資材の大きさや重量が決まりましたら、こちらのメールアドレスで構いませんので必ずご連絡ください。これから、搬入車両専用の出入り口をご案内致します。今後は、原則としてそちらを出入り口としてご使用ください。搬入は2トントラックまで、搬入可能です。それ以上の大きな車での搬入は受け付けません。作業は平日のみ、作業時間は八時から十七時でその時間外に作業の延長など必要な場合は必ず事前報告を入れる事。時間外作業についての判断は、こちらから指示します。
トイレに関してはレコーディングスタジオ内に併設されるトイレのみを、ご使用ください。搬入口から、レコーディングスタジオの往復に関しては作業日、作業時間は自由です。ただし、他の部屋へのアクセスは禁止です。
正面ロータリーをはじめ搬入口、ガレージを含めた全ての廊下に監視カメラが設置してあります。もし、そのような行為が発覚した場合は、こちらの作業要項第三十四条に記載されている通り、法的な手段を取らせていただきます。
それから、こちらの作業要項 第四十五条をご覧ください。この建屋内での作業中、他の作業者や家主とすれ違う事があっても、交流は一切持たない事。
作業要項 第四十六条。この建屋内で目撃したこと、見聞きした事に関しては、この建屋を出て “外には一切の口外はしないこと” とあります。
これらを守って頂き原則として、作業は最後までお一人で終わらせること。

もう一度復唱しますが、私以外の人間とは会話しないこと。

この家で見たこと、聴いたことは、私の存在を含め、多言厳禁でお願いいたします。

ご了承 いただければ、こちらにサインをお願いいたします」

幸祐は規律と重圧を纏った伊藤に圧倒されて、本文をよく理解しないままサインをした。
その後、機械的に搬入口を案内された。

搬入口は厳重に警備システムが施された、店舗専用の駐車場さながらの広いガレージだった。
車が十台は駐車できるであろう広い駐車スペースには、空想の世界でしか目にしたことのないピカピカの高級車が二台眠っている。
ガレージの入り口は、車のナンバーで認証される画像検知システムが連動していて作業が完了するまで、幸祐のオンボロ軽ワゴンも登録されるとの事。
作業中は空いているスペースならば、どこに停めても構わないらしい。
これから世話になるガレージに軽ワゴンを移動させると、改装するレコーディングスタジオに案内された。
搬入口からレコーディングスタジオに到着するまでに、広々としたリビングダイニングを通過した。
金持ちの権力争いを舞台にした韓国ドラマで出てきそうな、無駄に広いリビングルームには、悠々自適に足を延ばして少なくとも5名は寝ころべる高級ソファ。

しかし、その広いだけが取り柄のリビングには、誰も居ない。

途中、ハウスキーパーらしき女性を見かけたが、彼女のほうからこちらを避けるかのように、遠ざかって行った。
別の部屋に通じるのだろう、と思われる扉がいくつかある。
構造上、さっき珈琲を飲んでいた事務室とメイン玄関、ミーティングスペースは二階になるな。と、幸祐は予測した。

「こちらのお部屋が、今回改修をお願いするお部屋になっております。
先程 申し上げました規定通り、本日も十七時までに搬入口からの退出をお願いいたします。
何かありましたら、先程の名刺に記載された私の個人番号にお電話を」

淡々と案内を終えると伊藤は、レコーディングスタジオから消えて行った。

幸祐は薄暗いスタジオを見回しながら、バッグに入れていた内装デザイン案のファイルを伊藤に渡すのを忘れてしまったことを思い出した。
慌ててスマホと伊藤の名刺を取り出し、彼女の電話番号を入力しようと試みたが、手が止まる。
伊藤の冷たい印象が、幸佑の指先を凍らせる。
生ぬるいため息を漏らすと、ファイルをバッグに戻し作業を始めた。

昼間なのか夜なのかも分からない無音の箱の中には、一筋の光も刺さない。どこか不気味な空間で、幸祐は一人潰れるようなため息をついた。


同じ頃、ユメトは、自室の続きテラスに設置された屋外用のチェアに腰掛け、ブランチを楽しんでいた。
春の風が、ユメトの長い髪を撫でていく。
彼女は温かいお茶を飲みながら、広大な青空を眺め、新曲の歌詞を整理していた。
イヤホンで耳をふさいで、言の葉を乗せるメロディーを流す。
ユメトは、思いついた “詩” を殴り書きしていた “言霊のメモ帳” を、ピアノの上に置き去りにしまったことに気がつく。
ハウスキーパーが、もう廊下にはいないかをキョロキョロと確かめた。
鼻歌を口ずさみながら、隣の部屋へ急ぐ。
そしてピアノのあるレコーディングスタジオへ、誰にも見つからずに入室を果たした。

防音の分厚い扉が、重たい音を立てて閉まる。

一瞬、ユメトは静止する。
そこには、同じ年頃の男性がいる。
作業服をまとい、年季の入ったメジャーを持っている。
彼が、ユメトに気が付く。

幸祐とユメトの目が合う。
ユメトの表情が、凍り付いた。

ウタヒメユメト 第四章 —Reunion— To be continued… ♡

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さいごまで読んでくださり、ありがとうございます(*ノωノ)♡

幸佑は「ウタヒメユメト」の物語の、もう一人の主人公です。
私は小説を描く時、プロットはつくりません。
理由はプロットがあっても、キャラクターたちが勝手に動き出して
プロット通りにならないからです。
彼も、その一人でした。

いつの間にか、幸佑が本当の主人公になっていきました。
幸佑の運命を、毎日泣きながら描きました。
誰よりも幸せになってほしいキャラクターです。(´;ω;`)ぐすんこ

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