僕とニャンゴスターが結んだ悪魔のトレード 第6話「はじめての冒険」【全10話】
🎧 サントラ小説
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※列車情報は執筆当時の常磐線ダイヤをもとにしています。現在の運行とは異なる場合があります。
【僕とニャンゴスターが結んだ悪魔のトレード】
第6話
はじめての冒険
僕のお母さんは、お料理教室の先生をしている。
いつもは夕方4時に帰宅してくるお母さんが、毎週水曜日だけは遅い授業があって夜の七時まで帰ってこない。
お母さんは毎日、朝の8時30分くらいに家を出る。
唯一、お母さんの帰りが遅い水曜日に
夕方までに帰宅し、意識も体も元に戻せればいい――ということだった。
次の水曜日の天気予報は、晴れ。
松戸駅9時10分発の勝田行きに乗る。
終点の勝田駅で降りて、いわき行きの特急へ乗り換える。
目的地は、海が近い磯原駅だ。
「最初から特急に乗ればいいニャロ」
ってニャンゴ君が言った。
でも、松戸駅には特急は停車しない。つぎの柏駅での乗り換えも考えたけど、柏駅は巨大なターミナル駅。乗り換えでつまづくリスクが大きい。
それに、僕は在来線で旅をしてみたかった。
小さい頃に憧れた“青春18きっぷ”での旅。
それは――遠いむかしに諦めてしまった「叶うはずない僕の夢」だったから。
僕たちは、乗り降りする駅の様子をぜんぶ動画で予習した。
そして、それらの情報を頭に叩き込んで記憶した。
乗車時間から、前後の時刻表まで。
天気予報通り水曜日は快晴。作戦を決行することにした。
生まれたばかりのセミが下手っぴな鳴き方で夏の合図を告げている。
セミも、訓練するから上手に鳴けるようになるんだなぁ。って素朴なことを思った。
僕たちも訓練とおりに、松戸駅の1番線ホームに近い線路前まで到着した。
松戸駅が、この旅で一番危険ゾーンだ。
朝の松戸駅は人が多いからだ。
僕たちはどうしたら人間に目撃されずにグリーン車に猫が侵入できるのか毎日話し合った。そして、なんども訓練をして失敗しながら結論を出した。
僕たちが乗る勝田行きより、ひとつ前の土浦行きがホームに停車中、土浦行きの屋根によじ登る。位置は東京方面側の一号車だ。
そして土浦行きの列車がノロノロと動き出してから、グリーン車停車位置にほど近い、むき出しの鉄骨に飛び乗る。何度も訓練した。
このご時世、みんなスマホを見ていて、うす暗い天井なんて誰も見上げない。古いつくりの松戸駅の天井部分の鉄骨はむき出しで、ニャンゴ君が天井を優雅に歩いていることに人間たちは誰も気づかなかった。
「俺は雑巾みたいな色ニャケど、真っ白なニャンズにゃと人間にスグ見つかってしまうニャロ。俺はこの柄で何度も救われたんだニャ」
予定の列車が到着するまでの待ち時間、ニャンゴ君はそんなことを僕に話してくれた。
1番線のホームには次の成田行きが来たが、そのまま見送った。
数分後、僕らが待つ勝田行きが到着した。
僕たちがねらったのは四号車の一番後ろのグリーン車専用ドア。なぜなら二階席の一番後ろの座席が僕たちの目指す席だからだ。
この時間に下りのグリーン車に乗り込む人は、ほとんどいない。というかゼロだった。
自動ドアが閉まるギリギリのタイミングでグリーン車に飛び乗った。
緊張の瞬間だ。
予想通り、平日の下りグリーン車はガラガラだった。
やった!二階席には誰も座ってない!
僕たちは堂々と一番後ろの席の窓側を占領して柏までの景色を眺めた。
柏駅で一人だけ女の人が乗ってきて前の方に座った。まさかグリーン車に猫が乗っているなんて思わないだろう。全て想定内だ。
柏駅を出発するとニャンゴ君が突然「誰かくるニャ!」と察知して急いで座席の下に身を隠した。
グリーン券の確認をする車内販売のお兄さんだった。
ニャンゴ君のモフモフがはみ出している。気づかれたら終わりだ。
でも、お兄さんは無事に素通りしていった。
かくれんぼ大成功!!!
安心した僕たちは再び流れる千葉の街並みを眺めた。
大きな橋を渡り利根川をこえた。
そして僕は、人生はじめての茨城県に入った!
取手駅を超えると、どこまでも広い田園風景が続いて、夏の日差しを吸い込む緑が一面に広がっている。そのうち反対側に大きな沼が現れた。あれが牛久沼だよ、とニャンゴ君に教えてあげた。
ニャンゴ君も僕も初めて見る雄大な自然に言葉を失って、ただただ黙って過ぎ去る景色を目で追っていた。
さっきの女の人は土浦駅で降りて、グリーン車の二階席は貸切状態。車内販売のお兄さんも土浦駅を過ぎてから姿を見せなくなった。
土浦駅を出ると田んぼの様子が変わった。
田んぼにはトトロが傘代わりににしてる大きな葉っぱがワッサワサ。白やピンク色の巨大なお花が咲いている。
あ、そうか!アレがレンコンの花だ!
車窓は北に進むにつれ田舎町に変貌していく。家の数が増えてくると次の駅に到着する。そんなのを繰り返した。
終点勝田駅に到着したら、僕たちはその次にやってくる特急ひたち号に乗り換える。僕たちの今日の目的地、磯原駅に停車してくれるレア特急だ。
11時7分、僕たちが乗ってきた在来線は予定通り勝田駅の三番線ホームに停車した。車内点検が入るからすぐに出なきゃならない。
僕の予想通り勝田駅は松戸駅や水戸駅より人が少なかった。やった!!
特急ひたちは、3番線の向かい、4番線に来る。
ホームの一番後ろに立ち入り禁止の階段があったから、僕たちは階段の裏に身をひそめた。
ホームで待つ人は、少ない。
でも、誰もいないわけじゃない。
3・4番線のホーム内には、猫が身を潜められそうな場所はない。
誰にも気づかれずに特急に乗れる方法をニャンゴ君と考えた。
僕たちが乗ってきた常磐線は折り返しで3番線にまだ停車していた。
アナウンスが流れる。
折り返しの常磐線は特急ひたちが出たあと、発車の予定らしい。
そして特急がやってくる直前に僕たちは腹を決めた。
僕たちは折り返しの普通列車によじ登り、列車の屋根をダッシュした。
そろそろ特急ひたち号が4番線に到着する。
僕たちが狙う車両は特急ひたちの五号車、グリーン車だ!
狙い通り、グリーン車からは降りる人も乗り込む人もいなかった。
真ん中の車両だから安全確認の車掌さんから一番見えない位置。
ホームにいた人達が特急に乗り込むのを普通列車の上から見送った。
ドアがしまるギリギリに、僕たちは特急に飛び乗る。
成功した!
しかし僕たちには次の難所がある。
それは特急列車の座席車両入り口にある車内のセンサードアだ。
人間なら手をかざせば簡単に開くシステムだけれど、ニャンゴ君には届かない。それに猫の手に反応してくれるのかも分からなかった。
でも、自動ドアの前でニャンゴ君は
「俺は手足が長いニャロ」って自慢している。
後ろ足だけでつま先立ちで立ち上がり前足をめいっぱい伸ばす。
するとニャンゴ君の肉球にもドアが反応してくれた!
グリーン車両の座席下は広くて快適だった。
途中の駅でグリーン車両に乗っていたビジネスマンがみんな降りてしまって、また貸切だ。
定刻11時51分に
僕たちは目的地、磯原駅に到着した。
磯原駅から海岸までは、松戸駅から僕んちより近い。
そして何よりも嬉しいのは、磯原駅では猫が歩いていても誰も気にしていないことだった。
海岸の方角に歩き始めると、お肉屋さんで唐揚げが売っていた。
いい匂いがして、僕は「お金持ってくれば良かった〜」とか意味不明なことを口走った。
大通りへ出た。
僕たちは安全のために道路を横断する時は、陸橋を渡った。
国道沿いに定食屋さんが見えてきた。
お昼時で車がいっぱい止まっている。
また、いい匂いがする。
「あー、お腹空いたなぁ〜。こんなところに食べ物があるはずないし、僕んちに帰れるまでは断食だよね?」
「俺もそろそろ腹が減ったニャロ。あの店に入るニャか?」
「え? まさか定食屋さんに入るの?」
「そうニャ。食料調達ニャろ」
「でも今、すごく混んでるよ? もう少し空いてからのほうがいいんじゃない?」
「イニャ。今が狙いどきニャロ。裏の入り口を探すニャよ!」
ニャンゴ君は裏口から厨房に入った。
ニャンゴ君の言うとおり、裏口の扉は完全には閉まっていなかった。
「こういう店はたいてい裏口を少し開けてあるニャロ」
そう言ったあと、
「忙しいとき人間は小さなことに気が付かないニャロ」
と慣れた様子で語った。
厨房には三人の料理人がいて、みんなとても忙しそう。
せわしなく動き回っていて、止まることを知らないマグロみたい。
当然、猫が一匹入り込んだことになんて、誰も気づいてない。
大盛りの唐揚げ定食が人気らしく、唐揚げがどんどん揚げられて、盛り付けられてはお客さんに運ばれていく。
厨房から食材を調達するのかと思っていたけど、ニャンゴ君の作戦は違った。
裏口から忍び足で厨房に近づき、時々高いところに登ったり降りたりしてお店の構造を把握すると、
スキマからスキマにかくれんぼを繋いでいく。
そして…なんと、お客さんが座るカウンター席の足元までニャンゴ君はたどり着いた。
食事中のお客さんの足と、出来上がったお料理を運ぶ店員さんの足が行ったり来たり。
おひとり様で大盛り唐揚げ定食を食べているオジサンが席を立ち、通話をしにスマホ片手に席を離れていく。
次の瞬間――
ニャンゴ君は堂々とカウンターの椅子に乗っかり、オジサンの唐揚げを一つくわえると出口に向かってダッシュした。
異変に気づいた店員さんが「キャーッ!猫がいる!」と叫ぶと、定食屋さんの中にいる人間たち全員の視線がニャンゴ君に集まった。
でもニャンゴ君はダッシュの足を止めない。
人間の足と足の間をぬって走る。
出口は自動ドアだ。
すぐに開いてくれなかったら、ニャンゴ君は袋だたきにあうだろう。
そもそも、猫の大きさで自動ドアが開くのかすら怪しい。
でも――神様は僕たち泥棒の味方だった。
まだ何も知らないお客さんが外から定食屋さんに入ってきて、奇跡的に自動ドアが開いた!
ニャンゴ君はためらうことなく、そのお客さんの足元をすり抜ける。
大盛り唐揚げ定食のオジサンが気づいて「この泥棒猫がッ!」と怒鳴っている。
怒鳴り声を後ろ髪に、ニャンゴ君は定食屋さんが見えなくなるまで、どこまでもどこまでも走り続けた。
海へ向かって。
だんだんと波の音が近づいてくる。
次の瞬間、どこまでも広い水平線が現れた。
ニャンゴ君は唐揚げをくわえたまま、海を目の前に立ち止まった。
僕たちは海が見える堤防で唐揚げをほおばった。
僕の体だったら足りないけど、ニャンゴ君の胃袋は唐揚げひとつ食べたら満腹になって、舌なめずりをして日陰でお昼寝。
ここは天国だ。
夏休み前の、まだ誰もいない海。
穏やかな波の音がやまない場所。
見渡す限りの水平線が、
この地球が丸いことを証明してくれている。

僕はニャンゴ君に頼んで、波打ち際まで歩いてもらった。
不規則に迫ってくる海水の動きに、ニャンゴ君はイヤイヤ付き合ってくれた。
足についた海水を舐めると、しょっぱい。
海が塩味なことに、ニャンゴ君は驚いた。
僕たちは帰りの電車の時間まで海で遊びたかった。
けれど、予定は予定どおりにはいかないものだ。
灼熱の太陽に体力が奪われて、モフモフの毛が暑くてたまらない。
「ノドがかわいた!」と訴えると、ニャンゴ君が言った。
「お腹を壊さないお水を探すのは至難の業ニャロ」
――お水難民、確定。
ノドはカラカラ。
自動販売機があちこちにあるのに、どれも猫には買えない。
それに、買えたところで。
ペットボトルも缶ジュースも、猫じゃ飲むことすらできない。
人間用の世界は、とてつもなく不便だ。
ニャンゴ君は、
「このくらいザラニャロ。我慢するニャ」
と、知らん顔。
僕は干からびて、何も答えられなくなっていた。
ニャンゴ君がトレードする前に、
「俺の知っている自由はしんどいニャから」
って言っていたことを思い出して、気持ちが落ち込む。
ニャンゴ君もツライはずなのに、涼しい場所を見つけてケロっとしている。
休んで少しだけ復活したニャンゴ君は、海岸沿いに並ぶ家の物色を始めた。
お花がたくさん咲いていて、家庭菜園があるお宅の前で立ち止まった。
ニャンゴ君は敷地内に入っていく。
人の気配はない。どうやら、お留守のようだ。
お庭の蛇口がある場所へ行くと、バケツに水が張ってある。
泥水じゃない。キレイなお水だ!
やっとお水が飲める!
……でも、ニャンゴ君はなかなか飲もうとしない。
「なにしてるの? もう限界だよ! 早く飲もうッ!」
「少し待てニャ。除草剤とかが入ってないか確認してるニャロが!」
ニャンゴ君は慎重に匂いを嗅いで、
一度、前足を突っ込んでみて、ついた水滴を舐めてみる。
変な味は……しない。
「…多分、大丈夫ニャロ」
ニャンゴ君はそうつぶやくと、じょうずに舌を使って水を飲み始めた。
カラカラのノドが満たされていく。
苦しかった僕は、生き返った。
自由は不自由で、冒険は楽じゃない。

帰りの列車は、午後3時39分の特急ひたち品川行き。
行きと同様、勝田駅で在来線のグリーン車両に乗り換える。
松戸駅には夕方6時前には到着する。
お母さんが帰ってくる一時間前には自宅にいる。
余裕の帰還――のはずだった。
僕たちは3時30分には磯原駅のホーム近くに待機して、列車を待ち構える予定だった。
しかし、また事件は起こった。
午後3時ごろから、ゴロゴロと雷が鳴り始めたんだ。
夏の始まりによくある光景。別に大したことじゃない。
……けれど。
勇敢だったはずのニャンゴ君が、雷の音で腰を抜かした。
「え? どうしたの? なんで動かないの?
そろそろ駅に向かわなきゃ、列車に間に合わないよ!」
ニャンゴ君は古い民家の縁の下に入ってしまって、ピクリとも動かない。
雷は鳴っているけど、まだ雨は降っていない。
でも、山側から真っ黒な雲が迫ってきている。
あれは雨雲だ。しかもヤバいやつ。
「急がなきゃ。大雨が降ったら駅まで行けなくなっちゃうよ?」
「無理ニャロ……」
「どうしたんだよ? 雷なんて落ちたりしないよ?」
「ごめんニャロ。雷と花火だけはダメにゃんだニャ。
全く動けなくなるニャ……」
こんなやりとりを何回も繰り返して、
とうとう雨雲も発車時刻も近づいてきてしまった。
「ねぇ……僕がニャンゴ君の体を動かすことはできるのかな?」
「わからんニャ。頼んだニャロ……」
最後にそう言い残すと、ニャンゴ君の意識が消えて、僕の意識だけになった。
まずは、突っ伏したままだった縁の下から抜け出て――
ジャンプしてみる。
身体が軽い!
何度もニャンゴ君の動きを見てきたんだ。
きっと僕にだって、できるはずだ。
まるで日が暮れるみたいに暗くなっていく空を見上げて、僕は走り出した。
道はもう覚えている。行きよりは迷わずに行けるはずだ!
途中、雨がポツリポツリと降り出して、不安がよぎる。
でも、止まっちゃダメだ。走らなきゃ、電車に間に合わない!
空が光った。
数秒後、大きな落雷が山側に落ちる。
正確な時間がわからない。いま何時何分なのか、わからない。
強くなり始めた雨を振り切って、駅が見えてきた。
特急ひたちが到着している。
全力でダッシュして、金物でできた塀を飛び越える。
ホームに着地した!
でも、間に合わなかった。
僕の目の前で、特急ひたち品川行きのドアは閉まり――発車してしまった。
うす暗い雷雨の中に、特急ひたちが吸い込まれていく。
とうとう見えなくなった。
「どうしよう……次の列車は普通列車なんだ」
雷の音は落ち着いたけれど、雨粒は横殴りになって強くなったり弱くなったり。
傘なんかない。びしょ濡れになっていく。
僕は途方に暮れていた。
「なにホームのはじっこでボーッとしてるニャか!
早くあっちの屋根付いてるところで雨宿りするニャロ!」
ニャンゴ君のどなり声に目が覚めて、僕はトボトボと屋根付きのところに移動した。
「ニャンゴ君、次の電車はすぐに来るんだけど普通列車なんだ……
しかも五両編成だから、人間が乗ってない車両なんかきっとないよ……どうしよう。
次の電車も、その次の電車も普通列車なんだ。
次の特急は二時間後。特急で急いで帰っても七時には絶対に間に合わないよ」
「落ち着くニャロ!」
「なんだよ!ニャンゴ君のせいじゃないかよッ!
雷なんかにビビってるからこんなことになったんだ!
お母さんが帰ってきちゃうよ!
見つかったら僕の意識がないって大騒ぎになって、救急車呼んじゃうよ!
どうするんだよ!どうにかしてよ!」
「うるさいニャッ!少し黙ってろッ!……ソウにゃ。俺に考えがあるニャロ……」
僕の思考回路は完全に停止してしまった。
もう雷は止んでいる。
雨の中、ニャンゴ君はホームの屋根に登る。
普通列車・水戸行きがホームに到着した。
ニャンゴ君は、ホームの屋根から普通列車の屋根に飛び乗った。
「え? どうするつもり?」
「どーするも、こーするもないニャッ!
このまま勝田まで連れてってもらうしかないニャロ! この、クソアマタレがッ!」
「どっちがクソアマタレだよ!?
雷にビビったのはニャンゴ君でしょ!」
ニャンゴ君は前足がひっかかる場所を見つけると、爪をひっかけて身をかがめた。
ホームには磯原駅の発着メロディ、
『♬カーラースー。なぜなくの?カラスの勝手でしょ!カーカー♬』
が、吞気に流れている。
とうとう列車が発車した。
スピードが上がってくると同時に、雨粒がピストルの弾みたいに当たった。
僕は叫んだ。
「ニャンゴ君のクソアマタレーッ!!!」って。
刺さるような大雨で、ニャンゴ君の自慢のモフモフは一瞬でビッチャビチャの雑巾になった。
もう笑うしかない。叫ぶしかない。
でも、奇跡が起きた。
高萩駅あたりから雨雲を抜けた!
一気に晴れて、電車の屋根から高萩の海水浴場がよく見える!
そのあとは、自然が作り上げた熱風ドライヤーが、ビッチャビチャのニャンゴ君を乾かしてくれた。
磯原から勝田まで約一時間。
僕たちは屋根乗車のまま、十個の駅に停車した。
トンネルを高速で通り抜ける時は、さすがのニャンゴ君もクソアマタレになってビビってた。
屋根乗車に余裕が出てきた僕たちは、磯原駅のテーマソングを替え歌で歌った。
「♬ニャンゴくん、なぜ泣くの〜?
ニャンゴの勝手でしょニャーニャー!♬」
そしたらニャンゴ君が、
「泣き虫はお前ニャロが」
って言ったから、
「僕もニャンゴ君もクソアマタレだ!」
って叫んで笑った。
どこまでも、どこまでも。
永遠に続くこの大空に向かって。

勝田駅で、勝田駅始発の在来線グリーン車両に乗った。
二階席には行きとは違って、数人の人が乗っている。
僕たちは比較的空いてる一階席の一番後ろのスペースに隠れた。
水戸でも人がたくさん乗り込んできて、僕たちは座席下で身を潜め続けた。
夜の6時50分に松戸駅に到着。
予定より一時間遅れの帰還だ。
夕方のホームには、降りた人、これから乗り込む人がたくさんいる。
ニャンゴ君を目撃した人が「アッ!猫がいる!」って騒ぎだした。
でも僕たちはそれどころじゃない。
ダッシュでホームを走り抜け、乗っていた上り電車が松戸駅を発車するよりも先に線路に飛び出した。
決して後ろは振り返らないのが、ニャンゴスタイル。

僕んちは案の定、お母さんが先に帰宅してしまっていた。
もうリビングの電気がついている。
僕の部屋は真っ暗だ。
お母さんに気づかれて僕の部屋の窓が閉められてしまっていたら、入れない。
……でも不安は的中しなかった!
朝、出入りできるように空けておいた窓が、まだ開いている!
僕は僕の体に戻ると、ソッコーで飛び起きて、
恐る恐る、お母さんがいるキッチンへ向かった。
お母さんはテレビをつけて夕食の支度をしている。
いつも通りだ。僕の姿に驚いている様子もない。
心の底からホッとした。
ニュースでは北茨城の落雷と豪雨のことが取り上げられている。
「お母さん……? 僕の部屋に来た?」
「ぐっすり眠ってたから起こさなかったのよ?」
「あ、そうだったんだ……」
「変な顔して、どうしたの? 爆睡してることなんて、よくあるじゃない」
「そっか……。そうだよね!ゴメン、ゴメン」
「カーテンまで閉めて真っ暗で、息してないかと思ってヒヤッとしたんだから!」
「え!?アハハ……。あ、ほらお母さん見てよ!
テレビのニュース!今日は北茨城のほうですごい大雨が降ったんだってよ!」
「え? いま眼鏡してないのに、その距離から『北茨城』ってテレビの小さな文字が読めるの??」
「あ、いや。ちょっと今日は目の調子が良かっただけ」
「えぇッ?そんなことあるの?」
「そうそう。ほら、パソコンでゲームしすぎちゃったりすると目が疲れるでしょ?
今日は一日中、眠ってたからさ」
「へぇ。そんなことあるの……? お母さんは眼鏡とかつけたことないから、知らなかった」
……危なかった。
一番最初にニャンゴ君に乗り移った夜もそうだったけれど、
ニャンゴ君から離脱してしばらくは視力が戻るんだ。
ニャンゴ君と長く過ごせば過ごすほど、視力は長く戻るみたいで――
慌てていて、そのことをすっかり忘れてしまっていた。
「そういえば、ニャンゴスターが見当たらないんだけど知ってる?」
「ニャンゴ君ならいるよ!ほら」
「ヴニャーん!」
「あらら? どこにいたの? お母さん、探したのよ〜。お腹空いた?」
「ほら、ニャンゴ君はかくれんぼが得意だからさ。秘密の寝床があるんだよ!」
「アハハッ!それも、そうね?」
僕は眼鏡を取りに行くと言って自分の部屋に戻り、
大きな深呼吸をした。
不安が安心に変わって吐き出すため息だった。
違う意味で心臓が破裂しそうだ。まだドキドキしている。
しどろもどろの僕に、お母さんは頭にハテナを浮かべながら、でも納得してくれた。
ちょっと空気が読めなくてトボけたお母さんだけど、
今日だけはそんなお母さんに手を合わせて拝みたくなった。
お母さんにウソをついてしまった。
でも、本当のことなんて誰にも話せない。話せるわけない。
だって、僕とニャンゴ君だけの秘密だから。
その夜、僕は本日最大の謎をニャンゴ君に尋ねた。
「ねぇ、そういえばさ。泥棒猫作戦のとき、どうして厨房から唐揚げを調達しなかったの?
その方が見つからなかったかもしれないのに」
するとニャンゴ君は、就寝前の毛繕いをしながら
いけしゃあしゃあと言い放った。
「揚げたての唐揚げは熱くて食べられニャイにゃろーが。俺は猫舌ニャ!」
……え。なんだよ、そんな理由?
そんな理由で、もしかしたら捕まっていたかもしれないのに。
って文句を言いたくなった。
でも、そんな理由が可笑しかった。
可笑しくて仕方なくて、布団の中で笑いをこらえた。
ねぇ、ニャンゴ君。
笑顔って、つくるものじゃなくて、自然にこぼれてしまうものなんだね。
僕はそんなことも知らなかったよ。
ねぇ、ニャンゴ君。
僕は今日食べた唐揚げと、今日飲んだお水の味を――
一生忘れないよ。
ねぇ、ニャンゴ君。
つづく🐾
↓↓↓ 第7話「ニャッシュレス決済」
ーモフモフ🐾余談ー
今回は一章ぶんを掲載してみました。
9000字の長文を最後まで読んでくださり、ありがとうございました|ω・)チラッ♡

モッフモフのニャンゴ君は夏が大嫌いです。
やはりモフモフの毛並みは暑いらしい。(笑)
それから…
勇敢なはずのニャンゴ君は
雷が落ちると腰を抜かしてソファー下のせまい隙間から出てこなくなります。(笑)
次回予告…第七話🐈⬛🐾
秋🍁の京都編。ふふふ♡(*ノωノ)
猫が新幹線に乗って日帰り京都旅…。
次はどんなトラブルが待ち受けているかなぁ?|ω・)♡ふっふっふ
残りは、2万字くらいでした。
おそらく3話~5話ほどでニャンゴスターの連載🐾は終了します。
もう少しだけ、ニャンゴ君と少年の冒険👿にお付き合いくださいませ♡
よい週末を♡adiós(*ノωノ)
