【映画感想】ワーキングマン【現場をナメるな】
正月の縁起物、それは一鷹ニ富士ステイサム。

全米No. 1メガヒット!!!!の文字も、彼が放つ底なしの安心感の前では保険としての役割を完全に放棄している。
一昨年あたりから「日本の映画業界はステイサム映画を新年の縁起物として定着させようとしているのではないか?」という陰謀論が流布され始めたわけだが、これはマーケティング的に正しい。なぜならステイサムほど「縁起物」として最適な人物はいないと断言できるからだ。第一に、ステイサムは無敵だ。どんな悪党も巨大組織も、時には巨大なサメさえも薙ぎ倒す。気分よく正月を迎えるのにぴったりだ。第二に、彼の映画は基本的に毎回同じだ。味付けこそ多少違うものの、いつも大体同じものが提供されるというのは、年次イベントでは大事なことだ。こんな芸当を近年でもやってのけられる俳優は、ステイサムをおいて他にない。第三に、なんか縁起がいい気がするからだ。これは映画業界のプロパガンダが功を奏してるせいなのか、長年我々の中に蓄積されたステイサム像のせいなのかはわからないが、「正月早々にステイサムを観に行くのもいいな」と思わせてしまう魅力が彼にはある。
それと今回は公式Xアカウントがかなり積極的に情報発信をしていたことも少なからず影響があっただろう。特に公式が「ステイサムの中の人」こと山路和弘さんをお出ししくるのはズルかった。SNS広報は大事。
というわけで正月早々、公開日の夜に見に行って来た。後半ネタバレがあるので気をつけてくれ。

全体の感想(ネタバレ無し)
いつものステイサムだった。悪党どもが悪いことをして、ステイサムがそれをキッチリ制裁する。これを期待して観に行って、ちゃんと期待したものが観られたので満点だ。だが注意点もある。昨年好評を博したビーキーパーと違い、今回は少し設定とプロットが複雑だった。とはいえ私のようなボンクラでもギリ理解できるように、物語を楽しむための基本情報は開始してすぐにわかりやすくまとめて開示されたから安心してほしい。
・男の名はレヴォン・ケイド
・部下に慕われる建設現場監督である
・会社の社長一家とは家族ぐるみの付き合いである
・娘がいるが妻はおらず(よくあるステイサム)、義理の父と親権を係争中(おっ、新しいタイプ)
・元特殊部隊(あっ)
建設現場×特殊部隊という新境地なオープニング映像のあと5分くらいでここまでわかる親切設計。すすがステイサム映画だ。だがアドレナリンが分泌され始めた俺たちボンクラはもう待てない。そろそろステイサムに暴れて欲しい!そう感じるくらいの絶妙なタイミングで「現場」に現れるチンピラども。わかってますねぇ。身の回りにある工具や道具を用いて苛烈に制裁するレヴォン。なんであのチンピラどもが現れたのかは最後までわからなかったし、なんでショットガンが工事現場の手の届くところに置いてあったのかもわからなかった。
そしてそれを目撃する社長の娘。今回のヒロインだ。
「すごいわ!どうやったの?今度教えてね❤️」
「見なかったことにしろ😉」
なんとも微笑ましい会話だ。ところがこの娘、お友達と学期末パーティーを計画しているらしい。悪いことは言わんからやめとけ。そして嫌な予感は的中し、ヤバ目な組織に拉致される社長の娘。悲しみに暮れる社長一家。ちなみに「社長」といってもシリコンバレーのキザなIT社長みたいな感じではなく、一家で経営している小規模な建設会社な上に声が高木渉なので全く嫌味がなかった。娘のパーティー代のクレカを切るのも渋っていたので、とても親近感が沸いた。
ここ(開始15分くらい)に来て初めて気づいたのだが、ステイサムが日本語を喋っていた。なんと私が見ていたのは吹き替え版だったのだ。山路さん違和感なさすぎる。もはや本人。洋画の吹き替えはプロに任せておけばいいのだ。山路和弘さんのステイサムに対する熱い思いには頭が下がる。
そんなこんなで警察は何もしないので、元特殊部隊の経歴を頼みに5万ドルポンと出してレヴォンに娘の救出を懇願する高木社長。奥ゆかしく一度は断るレヴォン。俺は詳しいからわかるが、これはニンジャの作法だ。しかし、かつての戦友(かなりいい味出してる)の言葉に背中を押されて、娘の救出を決意する。
ここまで20分くらいなのでいい感じのスピード感だ。俺の計算が正しければ、残りの1時間半以上は全てステイサムの殺戮ショーというわけだ。工事現場から戦場に再び仕事の場を移すレヴォン。待ちに待ったステイサムの追跡劇が幕を開ける。
観終わった感想としては、とても満足いく出来だった。お正月にピッタリの、スッキリ痛快ステイサム活劇だ。残り少ない休みが終わる前に劇場に行くんだ。ちなみに俺はこの後娘たちをつれてズートピア2も観るからためらうな。
ノリとしては、ビーキーパーのようなスーパーバイオレンス・ステイサムというよりは、ジョン・ウィックのように頭脳と暴力の両方で容赦なく冷酷に敵を追い詰めてSATSUGAIしいくハンティング系ステイサムだった。肉弾戦少し少なめでタクティカルガンアクション多め、手榴弾複数個に頭脳戦(ステイサム基準)と拷問多めのプロフェッショナルアクション映画だった。弾が全くステイサムに当たらないことを除けば地に足のついたアクションといえるだろう。
しかしこれは意外だった。工具とか道具で敵をぶちのめすのを期待していたら、「仕事」があまりに戦場のそれだったのだ。とてもいい映画だったが、不満点があるとすれば、プロモーションが「現場」や「仕事」に寄っていたため、ブルーカラー系ステイサムを期待していたらいつもの(元)特殊部隊系ステイサムだったというだけだ。だがどうということはない。バトルフロントやハミングバードみたいな系譜だったというだけのことだ。ビーキーパーの続編的なものを期待していくと少し違うかもしれないが、ステイサム・シネマティック・ユニバースではないので、彼が演じているのはあくまで別人だ。ステイサム百面相。様式美的な映画をたくさん撮っているから勘違いされがちだが、ちょっと人殺し要素が偶然共通しているだけで、ステイサムは本来様々なタイプのキャラクターを感情豊かに表現できる名優なのだ。特に今回はその感情の部分が非常に見応えがあった。娘を持つ親の気持ちが痛いほど伝わってきた。そんなステイサムの深い愛情が伝わるシーンがこちら。
「女一人のためになぜそこまでする?」
「お前娘はいるか?」
「いない」
「ならわからないだろう(相手を椅子に縛りつけたままプールに突き落とす)」
家族の絆を圧倒的な暴力でもって立て直すなんて芸当ができるのは、ステイサムならではといえるだろう。だから俺たちボンクラ親父は彼に憧憬の念を禁じ得ないのだ。
敵キャラも典型的なロシアンマフィア、ダサいジャージ(オーダーメイドらしい)を着た二人組にサイコ女、ヤク中ナルシスト、マッチョな世紀末黒人にマシンガン野郎とよりどりみどり。危険な組織でその世界じゃ恐れられているのだろうが怒らせた相手が悪かった。そんな奴らをレヴォンがひとり、またひとりとぶちのめしていく様は痛快の極みだ。悲しき過去描写もないので観ているこちらも余計な感情リソースを使うことなくステイサムの殺戮ショーに集中できる。悪党にも掘り下げが必要などというのは欺瞞だ。悪党に情け容赦など要らぬということを再確認させてくれる。せっかくの正月だし、余計なことなど考えずに純粋な勧善懲悪を全力で浴びるのがいいだろう。ハッキリ言ってこれが観たかった。観れてよかった。雪の降る中映画館に行ってよかった。
細かい感想(ネタバレあり)
工事現場監督の設定があまり活かされていなかったことはちょっと残念であった。原作付きなので裏には色々あったのだろうが、工事現場×戦闘アクションの触れ込みだっただけに、結局いつもの特殊部隊に終始したのは思ってたのと違った。オープニングムービーで昔色々あったことが示唆されていたので、平穏な日常の仮面としての工事現場監督のペルソナだったと言われればまぁ納得だし、兵士だった頃に立ち戻る葛藤も少なからずあったのでなんとか許容できたが、ステイサムじゃなかったら許されない予想の裏切り方だったことは否めない。現場監督アクションは本当に最初の10分で終わってしまい、あとはいつものタクティカルステイサムだった。やや残念。
スタローン脚本なので、拉致された社長の娘が死ぬより辛い目に遭うことを予想したが、そんなことはなかったのは安心した。幼少からKARATEを習っていたことも最後の最後で伏線回収(?)されてよかった。彼女に酷いことしようとしてた金持ちのクズもステイサムに派手に撃ち殺されててテンション上がる。そしてヒロインに人殺しさせたこともなかなか凄いなと思った。ありゃ当然の結末。男女同権。強いヒロインはいい。まぁフィニッシュムーブは空手と関係なさそうな三角絞めだったが。
それと世紀末黒人のダッチもいい味出してた。戦士たちだけがリスペクトし合う世界に生きてた。ここだけジョン・ウィック世界だったけどステイサムにはその常識は通じず、容赦なくナイフで瞬殺されたけど。ステイサムはせっかちなので余韻に浸らせる暇を与えない。作中唯一対等に近い実力を持った敵だったからもう少しもったいぶってくれてよかったのでは?
プロットが複雑と言ったが、特によく話からなったのは麻薬組織への潜入捜査。こっちの頭はそれほど良くないのに唐突にステイサムが賢いムーブをし始めたため、突然目的と手段がぼやけてしまった感は否めない。最終的に悪党を皆殺しにしたのでよしとするが、社長の娘が今にも酷い目に遭いそうなのにスーツ着てめかし込んでる(ファンサービス)暇はなかったろう。賢くなさそうな奴らが賢そうな会話をするのは大変だったろう。お前だよディミ。

そしてかつてステイサムに命を救われながらも代償として視力を失ってしまった戦友のガニー。彼はレヴォンのメンターとして絶対的な安心感があった。レヴォンの娘も彼に任せれば安心だ。ところで彼は目が見えないのだが、最終局面を迎えてジョン・ウィックの彼よろしく武器ソムリエをし始めた。それはそれでいいのだが、弓も撃ってたし武器の外観にも詳しかったし、なんなら生活上不便を強いられている様子もなく本当に盲目なのか疑わしくなるキャラだった。まぁ盲目キャラは心の目で世界を見ているので細かいところは気にしちゃいけないな。彼のおかげでステイサムの男の出勤シーンが見られたのでヨシとする。

スタローンが脚本に噛んでいることもあり、ステイサムの頭髪に言及するシーンがあるかもと思って期待したが、無かった。残念ではあるがステイサムの頭髪を揶揄して生きていられるのは後にも先にもバーニー・ロス(スタローン)だけなので当然か。

俺もこのメンタルで生きていきたい。
これはステイサムに何を求めるかによるが、今回は「社長の娘を助ける」という制約がついた設定だったので、頭脳をかなり使う展開が多く、ステイサムがバトルに集中できなかった感はある。もちろんそれなりの緊迫感があり、敵を追い詰めながらもハラハラする展開ではあったのだが、ビーキーパーやアドレナリン、ワイルドスピードなどのステイサムを期待すると肩透かしを食うだろうなと思った。守るものがある漢気ステイサムはそれはそれでよかったが、公式による触れ込みのせいで暴走特急ステイサムを期待してしまった自分がいた。ちょっと悔しい。
最後のドンパチはかなり見応えがあった。運命の曲、月光ソナタをバックに「聖なる銃」M14で敵を薙ぎ倒し、手榴弾で敵中突破し、ナイフでライバルを瞬殺し、Bluetooth機器でテクニカル・キルするステイサム。レヴォンとヒロインにひっどいことした汚職警官はマシンガンで蜂の巣になったし、因果応報!レヴォンに息子をぶっ殺されたマフィアの幹部が組織から見放され、慟哭の叫びを響かせて観てるこっちはニコニコ。ヒロインは家族と再会を果たし、レヴォンはガニーの家で自分の娘と笑顔で会話してEND。完璧だ。いい映画だった。
というわけで悪党以外の全員が幸せになれる縁起物、ワーキングマンをみんなで見よう!
