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会社が成長するほど、「べからず集」は増えていく。|フューチャードリブン経営論

朝から資金繰りを確認し、現場から上がってきた問題を判断する。
取引先との調整を引き取り、社員だけでは決めきれない案件に答えを出す。
会社を止めないために、今日も自分が動く。

誰よりも会社のことを考え、誰にも任せられない問題を片づけながら、
「これこそ経営者の仕事だ」
と思っている社長は多いでしょう。

しかし、毎日繰り返しているその仕事が、会社の先を見えなくしているのです。

いま目の前で起きている問題を処理することと、
その問題を生み続けている会社の形まで守ることは、
同じではありません。

今日の支払いは、必ず乗り越えなければならない。
だからといって、
毎月支払いに追われる事業構造まで、守る必要はありません。

今日、社長が判断しなければ現場が止まる。
だからといって、
社長が判断し続けなければ動かない会社を、これからも残す必要はありません。

目の前の問題を解くことに追われるほど、「その問題そのものをなくす」という視点は失われていきます。

そして、問題を処理し続けることが、いつの間にか「経営者の仕事」に成り代わっていくのです。

「そんなことは分かっている。それでも、目の前の仕事を止めるわけにはいかない」
そう思う社長も多いでしょう。

しかし、経営では、「分かっている」ことは会社の状態を変えません。

変えなければならないと考えていることと、
実際に判断の起点を変えていることは、
まったく別です。

目の前の業務に忙殺されている。
何を変えるべきかも、どうすればよいかも分かっている。
それでも、
現在の会社を前提にした判断から抜け出せない。

そんな社長に必要なのは、さらに懸命に目の前を処理することではありません。
目の前の問題を乗り越えながら、その問題に会社の上限を決めさせないことです。

そのためには、Futureを現在の判断基準にしなければなりません。
それが、Future Drivenです。

会社を守るための正しさが、会社を動けなくする

会社が成長すれば、守るべきものは増えていきます。

社員を雇えば、その生活に責任を負います。
顧客や取引先との関係が積み上がれば、自分の判断一つで、それを壊すわけにはいかなくなります。

経営者が慎重になるのは、臆病になったからではありません。

会社が価値を生み、背負う責任が増えたからです。

だから、
失敗を避ける。
売上を落とさないようにする。
今ある関係や仕組みを、簡単には変えない。

一つひとつを見れば、会社を守るための正しい判断です。

ところが、
その正しさが積み重なるほど、経営者の頭の中には、
「これはしてはいけない」
という判断が増えていきます。

「べからず集」にどんどん項目が加わっていきます。

かつては「どうすれば実現できるか」と考えていた場面でも、まず「何をしてはいけないか」を確認するようになる。

会社が成長し、以前より使える資金も、人も、信用も増えたはずなのに、経営者から見える選択肢は減っていきます。

会社を守るためにつくられた正しさが、会社を現在へ縛り始めるからです。

背景は薄れ、結果だけが残る

会社が成長するにつれて増えるのは、「べからず集」だけではありません。

「これさえしておけば大丈夫」という、会社なりの正解集も増えていきます。

もともとは、そのときの状況に対して、経営者が考え抜いて出した判断だったはずです。

その背景には、当時の資金、人員、顧客との関係、経営環境、そして、その時点で目指していたFutureがありました。

その条件の中で考えたからこそ、その判断は正しかった。

ところが、その判断によって危機を越え、結果が出ると、なぜそう判断したのかという背景は、少しずつ薄れていきます。

そして、「うまくいった」という結果だけが残ります。

結果は、やがて正解になります。

正解は、

「前もこれでうまくいった」
「これを続けていれば間違いない」

というルールに変わります。

考え抜いて生まれた判断が、次の判断を省略するためのルールになるのです。

そうして会社には、
「これはしてはいけない」というべからず集と、
「これさえしておけばいい」という正解集が蓄積していきます。

べからず集は、行動を止めます。
正解集は、思考を止めます。

しかも、背景を失った正解は、環境が変わり、Futureから見れば役割を終えていても、そのまま残り続けます。

かつて会社を前へ進めた判断が、いつの間にか、会社を動かさないための前提へ変わっていくのです。

昔より厳しくなったから、動けないのではない

資金繰りが厳しい。
人が足りない。
以前のやり方では、利益が出なくなっている。

経営には、実際に厳しい現実があります。

それを精神論で乗り越えられるとは言いません。

しかし、厳しい状況は、
会社が成長してから初めて現れたものではありません。

創業時には、いまより資金も、人も、信用もなかった会社がほとんどでしょう。

それでも当時は、足りないものを前にして、
「では、どうする」
と考えていたはずです。

厳しくなかったから動けたのではありません。

厳しい状況を、Futureへ進むために越えなければならない課題として見ていたから、考え続けたのです。

ところが、現在を守ることが判断の中心になると、同じ不足が別の意味を持ち始めます。

以前は「どう越えるか」を考える対象だったものが、「だから動けない」と結論づける根拠になる。

変わったのは、経営環境だけではありません。
経営者が、その現実をどこから見ているかが変わったのです。

市場に応えることと、市場に会社のあり方を決めさせることは違う

市場のニーズに応えることは、経営に欠かせません。

顧客が求めていないものを、
会社の思いだけでつくり続けても、
事業にはならない。

顧客が何を求めているのかを読み、
商品やサービス、価格、売り方、届け方を変えていく。

資本主義の中で会社を経営する以上、それは必要なことです。

「やること」は、市場に合わせて変わっていい。

むしろ、変え続けなければなりません。

しかし、
会社が何を実現するために存在するのか。
どのような価値を社会に生み出そうとしているのか。
何を基準に判断するのか。

市場に応えるのは、経営です。
しかし、
市場に会社の存在理由まで決めさせるのは、経営ではありません。

顧客が離れるかもしれない。
社員が反発するかもしれない。
取引先が受け入れないかもしれない。

そうした可能性を考慮することは、当然です。

しかし、それを理由に、

「だから、この判断はできない」
「この範囲から出てはいけない」

と結論づければ、現在の顧客、社員、取引先に、会社のFutureの上限を決めさせることになります。

市場を読むことと、
市場に会社の存在理由やFutureまで決めさせることは違います。

Futureから現在の市場を見れば、
市場のニーズや顧客の反応は、実現方法を変えるための重要な情報になります。

現在の市場を起点にFutureを定めてしまえば、
それらは、会社がどこまでしか進めないかを決める境界線になります。

見ている市場は同じです。
違うのは、どちらを起点に判断しているかです。

外部の状況は、判断するための材料です。
会社のあり方を決める主体ではありません。

今日やるべきことと、明日も守るべきものは違う

経営者には、今日必ず処理しなければならないことがあります。

給与の支払いを先送りすることはできません。
運転資金が足りなければ、調達しなければなりません。
顧客との約束も、現場で起きている問題も、放置することはできません。

Future Drivenは、目の前の問題を無視して、未来だけを見ろという話ではありません。

今日の問題は、今日乗り越える。

しかし、今日必要だった判断を、そのまま明日以降も守るべき正解にしてはいけません。

今日の売上を守ることと、
その売上を生み出している商品や契約条件を今後も残すことは別です。

今日の現場を回すことと、
社長が毎日穴を埋めなければ回らない組織を残すことも別です。

繰り返しているうちに、「今日必要なこと」は「これからも必要なこと」へ変わります。
さらに時間が経てば、それは「会社とはこういうものだ」という前提になります。

しかし、今日必要だからといって、Futureにも必要だとは限りません。

目の前のことは、必ずクリアしなければならない。

その一方で、それを今後も守るかどうかは、Futureから改めて決めるものなのです。

今あるもので今日を越える。今あるものをFutureの上限にしない

経営では、今あるもので考えることが必要です。

存在しない資金を使うことはできません。
今そこにいない人に、仕事を任せることもできません。
目の前の問題には、現在の資金、人、能力を使って対処するしかない。

しかし、

今あるもので今日を乗り越えることと、
今あるものをFutureの上限にすること
は違います。

過去由来の判断では、現在の資金、人員、能力、実績を基準にして、
「いまの会社なら、できてもこのくらいだ」
と考えます。

そして、現在の会社で実現できそうな範囲に、未来を置きます。

Future Drivenでは、順番が逆です。

Futureから現在を見て、
「いまあるものでは届かない」
と判断する。

そこでFutureを小さくするのではなく、
「では、何を変えるのか」
へ進みます。

今できることから始めるのはいい。

しかし、今できることから、Futureの大きさを決めてはいけません。

現在の会社を基準にFutureを見積もれば、現在の前提を越える判断は生まれないからです。

Futureを守るために、今の事業を変える

守るべきものは、現在の事業や、現在のやり方とは限りません。

市場の変化に合わせて、商品やサービスは変えていい。
事業そのものを変えることもあるでしょう。
むしろ、Futureを実現するために必要なら、変えなければなりません。

商品やサービス、事業は、Futureを実現するための手段です。

手段は、市場に合わせて変えていい。
むしろ、Futureを実現するために必要なら、事業そのものも変わります。

しかし、会社が何を実現しようとしているのか。
どのような価値を社会に生み出そうとしているのか。
その判断を支えるフィロソフィーまで、市場や顧客、取引先に決めさせてはいけません。

やることが変わっても、会社の根底を流れるフィロソフィーまで、外部に明け渡してはいけないのです。

今の事業を守るためにFutureを縮めるのではなく、
Futureを守るために、今の事業を変える。

その順番を、逆にしてはいけません。

長く続けてきたから守る。
売上を生んでいるから守る。
社員が慣れているから守る。

それでは、過去と現在が、守るべきものを決めています。

Futureに必要だから守る。
Futureに必要ではないから変える。
Futureの実現を妨げるから終える。

今日を守ることと、
今日をFutureの上限にすることは違います。

目の前の問題には、全力で対処する。
しかし、
その問題に、会社のFutureまで決めさせない。

「現実は厳しい」で思考を終えず、その先で、
「では、どうする」
を問い続ける。

それが、経営者の仕事です。

会社を守るためにつくられた「べからず集」と「正解集」は、やがて社長の頭の中だけにとどまらなくなります。

一つひとつの正しい判断が繰り返されると、社員もまた、失敗しないことと、これまでの正解に合わせることを学んでいきます。

誰も、現状維持の会社をつくろうとはしていない。
それでも、良かれと思って積み重ねた判断によって、組織全体が現在を守る方向へ動き始める。

次の記事では、その構造を見ていきます。


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