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APIC2026閉幕—「中国の過剰」と「中東の断絶」

福岡でAPIC2026が閉幕しました。
毎年この会議の後には、何かしら業界の「空気感」が変わる気がしています。今年は特にそれを強く感じました。廊下での立ち話でも、セッションの質疑でも、みんな同じことを気にしていた。「この構造、いつまで続くんだ」という問いです。


APIC(アジア石油化学工業会議)とは

本題に入る前に、そもそも「APIC」とは何かを整理しておきます。APIC(Asia Petrochemical Industry Conference)は、アジア最大規模の石油化学業界の国際会議です。米国のAFPM、欧州のEPCAと並び称される世界的な業界会議の一つでもあります。

もともとは1979年に日本・韓国・台湾の3カ国で始まった「東アジア石油化学工業会議(EAPIC)」が母体で、その後の東南アジア・インドの石化産業の発展に伴い、2000年にマレーシア、タイ、シンガポールが、2004年にインドが加わって現在の名称になりました。現在はこの7カ国・地域の業界団体が持ち回りで主催しています。

例年、世界40カ国以上から1,500名を超える石油化学業界のトップ層や関係者が一堂に会し、業界の課題や展望を議論する重要な情報交換の場となっています。2026年は日本の石油化学工業協会(JPCA)がホストを務め、「United by Chemistry for a Sustainable Tomorrow(化学の力でつながり、持続可能な未来を共創する)」というテーマの下、福岡で開催されました。

二つの波が、同時に来ている

今のアジア石化業界を一言で表すなら、「板挟み」だと思っています。
片方には、中国の圧倒的な増設があります。浙江石化や鎮海煉化のような1,000万トン級の統合型プロジェクトが次々と立ち上がり、エチレンやポリエチレンの生産能力は市場の総需要を超えてしまっている。かつて中国向け輸出に依存してきたアジアのメーカーは、根本的な戦略の見直しを迫られています。
もう片方には、ホルムズ海峡の問題があります。2026年2月末から続く事実上の封鎖により、アジアのナフサ輸入の約60%——年間5,000万トン以上——を賄っていた中東からの供給が深刻な打撃を受けました。シンガポール、韓国、インドネシアのクラッカーが相次いでフォース・マジュールを宣言し、韓国ではナフサの輸出規制まで実施された。
供給過剰と供給不足が、同じ業界の中で同時に起きている。これが今のアジア石化市場の奇妙なリアルです。


スプレッドは圧縮され、コストは跳ね上がる

通常であれば、原料高は製品価格への転嫁で吸収できます。でも今はそれが難しい。なぜかというと、中国の増設による供給過剰が製品価格に重くのしかかっているからです。原料は上がる、でも製品は上がらない——この「板挟み」がメーカーの利益を極限まで圧縮しています。
さらに、喜望峰経由への迂回が常態化したことで、運賃と保険料も跳ね上がっています。バイオナフサの北東アジアCFR価格が3月中旬に2,260ドル/トンという3年ぶりの高値を記録したのも、こうした背景があります。
タイのPTTとSCGが石化事業の統合を視野に入れ、韓国の化学企業も化学事業の統合・売却を検討している。日本でも三井化学・三菱ケミカル・旭化成が西日本のエチレン製造設備統合に合意し、旭化成は水島でのスチレンモノマー生産終了を決めた。業界再編は、もう「将来の話」ではなくなっています。


商社として、正直どう動くべきか

一度だけ、上司にこう言われたことがあります。「お前が売っているのはモノか、それとも仕組みか」と。当時はピンとこなかったのですが、今の状況を見ると、その問いがずっと重く残っています。
調達ルートの多元化は急務です。中東一辺倒のナフサ調達に限界が来ていることは誰の目にも明らかで、米国(エタンベース)、アフリカ、ロシアなど、複数の供給軸を持つ体制を組み直す必要があります。商社がリスクを取って見越玉として一括輸入し、国内の中小加工メーカーに安定供給する——そういう機能が本当に求められている局面だと思っています。
同時に、汎用品の比重を下げることも避けられません。半導体関連のエンジニアリングプラスチックや高機能エラストマー、ライフサイエンス分野へのリソース集中は、方向性としてはシンプルですが、実際にそこへ舵を切るのは組織的にも相当な決断が必要です。
そして、認証・トレーサビリティの「仕組み提供者」になれるかどうか。加工メーカーへの提案だけでなく、最終仕様を決めるブランドオーナーに直接アプローチし、仕組みを提供できるかどうかが、次の商機を左右するでしょう。


「2028年まで我慢」では済まない

業界のダウンサイクルが底を打つのは2028〜2029年頃、本格的なマージン回復は2030年代前半という見方があります。
でも、「その頃まで耐える」という姿勢では、構造変化に乗り遅れます。
廃プラスチックのケミカルリサイクルが本格的な量産フェーズに入り、石化産業の競争軸が「規模の経済」から「循環の経済」へ移行していく流れは、中東情勢や中国の増設サイクルとは無関係に、着実に進んでいます。
エネルギー転換で石油の燃料需要はピークを迎えても、プラスチック需要のピークはまだ見えない。つまり、石化産業そのものが消えるわけではなく、「どんな石化産業が生き残るか」が問われている段階だと思っています。
APIC2026が突きつけたのは、業界の「現在地」ではなく、「このままでいいのか」という問いだったのかもしれません。

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