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《新規事業のすすめ》日本交通のタクシー配車アプリ開発に見るエフェクチュエーション実践+「もし当時、生成AIがあったら」

 日本交通は、手元の資源から出発し、小さく始めて学びながら成長する「エフェクチュエーション」の実践により、タクシー業界に革新をもたらしました。

エフェクチュエーションとは

 エフェクチュエーションとは、成功した起業家に共通する思考と行動を体系化した意思決定の方法論です。従来のコーゼーション(目標を設定してから手段を逆算する方法)とは対照的に、手元にある資源から出発し「何ができるか」を考えます。5つの原則は、「手中の鳥の原則」(今持っているものを最大限活用する)、「許容可能な損失の原則」(失っても大丈夫な範囲を先に決める)、「クレイジーキルトの原則」(多様なステークホルダーとパートナーシップを構築する)、「レモネードの原則」(予期しないできごとをチャンスと捉える)、「パイロットの原則」(予測ではなく行動を通じて未来を創造する)で構成されます。不確実性の高い状況では、完璧な計画を立てるより、手元の資源から行動し学びながら進めることが有効です。詳しくはこちらのNOTE記事を参照してください。

事例の概要

 日本交通株式会社は、1928年創業の東京最大手のタクシー・ハイヤー会社です。2011年1月18日、3代目社長の川鍋一朗氏のリーダーシップのもと、日本初のスマートフォン向けタクシー配車アプリ「日本交通タクシー配車」をリリースしました。当時、タクシー業界ではIT活用がほとんど進んでいなかった状況でしたが、川鍋氏は「拾うのではなく、選ばれるタクシー」を目指し、顧客接点の革新に着手しました。アプリは10万ダウンロードを突破し、配車台数3万台を達成する成功を収めました。その後、2011年12月13日には日本マイクロソフトと協業し、クラウド基盤を活用して全国13グループ(約8,595台)のタクシー事業者と提携、「全国タクシー配車」として全国展開を実現しました。2020年にはDeNAの「MOV」と事業統合し、配車可能車両数約10万台の国内最大規模のモビリティサービスへと成長しました。[1][2][3]

原則との関係

 手中の鳥の原則では、日本交通は保有する約3,200台のタクシー車両、7,000名の乗務員、既存の無線配車システムの運用ノウハウ、川鍋氏自身のマッキンゼー時代の経営知識という手元のリソースから出発しました。2005年から導入していたデジタル無線配車システムとGPS機能付カーナビの実績も活かされました。完璧な新システムを一から開発するのではなく、既存インフラの延長線上でアプリ開発に着手しました。[4]
 許容可能な損失の原則は、川鍋氏の「大きな意思決定はしない」「小さい段階で、とりあえずやってみる」という経営姿勢に表れています。まず自社の日本交通向けアプリで実験し、好評であれば全国版に移植するという開発ポリシーを採用しました。2011年1月のiPhone版リリース時点では、東京23区・三鷹市・武蔵野市の限定エリアからスタートし、段階的に機能追加とエリア拡大を進めました。失敗しても致命傷にならない規模で始め、実績を積みながら投資を拡大していきました。[5]
 クレイジーキルトの原則では、日本マイクロソフトとの技術協力により、クラウド基盤を短期間・低コストで開発できました。全国13グループのタクシー事業者との提携により、札幌から福岡まで10地域で利用可能な全国ネットワークを実現しました。2020年にはDeNAと対等の立場で事業統合し、配車可能車両を約10万台に拡大しました。フリークアウトとの合弁会社設立によるIoT型デジタルサイネージ事業など、異業種との連携を積極的に推進しています。[6]
 レモネードの原則は、予期しない状況への対応に見られます。配車アプリ提供後、顧客から「全国のタクシーでも同様のサービスを利用したい」という想定外の要望を受け、これを全国展開の機会と捉えました。当初は自社グループ内のサービス向上を目指していましたが、顧客ニーズに応じてプラットフォーム化し、業界全体の活性化へと目的を拡張しました。
 パイロットの原則では、川鍋氏は「施策の意思決定をする時は、初めからその意味が分かっていることは少ない。実際に施策を進めていく課程でその意味が分かってくる。戦略は後付けの場合が多い」と述べています。完璧な事業計画を待つのではなく、まずアプリをリリースし、ユーザーの反応を見ながら機能追加を繰り返しました。市場の変化に応じて柔軟に方向転換し、自らタクシー業界の未来を創造していきました。[5]

《空想》もし当時、生成AIがあったら?

 手中の鳥の原則における活用では、川鍋氏や開発チームが「保有する3,200台の車両、7,000名の乗務員、GPS搭載カーナビ、デジタル無線システムから、どのような新しいサービスが考えられるか」と生成AIに問いかけることで、自分たちでは気づかなかった資源の組み合わせやアイデアを迅速に得られた可能性があります。
 クレイジーキルトの原則における活用では、全国のタクシー事業者への提携提案書、マイクロソフトへの技術協力依頼資料など、説得力のある文書を生成AIで迅速に作成できました。提携交渉における想定質問と回答案の準備も効率化され、パートナーシップ構築のスピードが向上した可能性があります。
 レモネードの原則における活用では、「全国展開を求める顧客の声」という想定外のフィードバックを受けた際、その背景にある潜在ニーズを生成AIに分析させることで、全国展開という新たな戦略の妥当性を迅速に検証できました。ユーザーレビューから、次に開発すべき機能の優先順位付けも精度が向上したでしょう。
 顧客対応とマーケティングでは、問い合わせ対応、FAQ作成、多言語展開、乗務員マニュアル作成などに生成AIが活用できました。広告コピー、プレスリリース、SNS投稿なども大量生成し、A/Bテストで最適化できました。
 市場調査と競合分析では、Uber事例の調査、交通業界トレンド分析などを生成AIに支援させることで、情報収集時間を大幅に削減できました。

人間が果たすべき役割

 ビジョンと戦略の策定では、川鍋氏が掲げた「拾うのではなく、選ばれるタクシー」という理念のように、企業の方向性を定める役割は人間にしかできません。どのビジョンが自社の価値観に合致するかを判断するのは経営者です。
 パートナーとの信頼関係構築では、実際の交渉、相手の真意の理解は人間の対面コミュニケーションが不可欠です。DeNA南場智子氏との個人的繋がりは、生成AIでは構築できません。[7]
 現場との対話と組織変革では、7,000名の乗務員の主体性を喚起するため、経営者が現場に足を運び感情を理解する必要があります。川鍋氏は「現場の感情を重視する」と述べています。
 倫理的判断と社会的責任では、高齢者配慮や労働環境改善など、社会的価値の実現は人間の倫理観に基づきます。
 不確実性の中での意思決定では、予測不可能な状況での判断は経験と直感に依存します。最終決断は人間の責任です。
 創造性と独自性の源泉は、川鍋氏の異業種視点から生まれます。真に革新的なアイデアは人間の情熱からです。

まとめ

 日本交通のタクシー配車アプリ開発は、エフェクチュエーションの5つの原則を実践した好例です。手元のリソースから出発し、小さく始め、多様なパートナーと協力し、予期しない状況をチャンスに変え、行動で未来を創造しました。生成AIがあれば、リソース発見や提案作成で活用可能ですが、人間のビジョン策定、信頼構築、組織変革、倫理判断、不確実性対応は不可欠です。生成AIはツールですが、事業成功は人間の意志と対話で決まります。

参考文献

1.       https://news.microsoft.com/ja-jp/2011/12/13/111213-taxi-cloud/
2.       https://www.nihon-kotsu.co.jp/news/20120117-1315/
3.       https://ligare.news/story/japantaxi_dena_20200204/
4.      https://www.nihon-kotsu.co.jp/news/20131203-1419/
5.       https://globis.jp/article/1170/
6.      https://www.nihon-kotsu-taxi.jp/news/241217/
7.       https://www.businessinsider.jp/article/243883/

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