12.私の日記【モクレンは誰かを待っている】
花壇の花々が倒れる頃、少し遠くで、人知れずに立つ木があった。
あたりの草木が芽吹き、緑色に染まっていく中、その枝だけが花をつけている。
私はウインドブレーカーを羽織り、風に負けないように首元を手で締め込み、枯れた草木を踏みつけ歩み寄った。
その枝はしなやかで、垂れ落ちるように隣の木々をすり抜け、枝先は空に向かって弧を描いている。
そして花は、空を見上げていた。
側にいると、まるで花屋のような香りがする。
柔らかい花弁は、艶やかだ。
しかしどこか、自然の中で育ったものではないかのような違和感を感じさせた。
私の手のひらを広げてみても、その中に花弁は収まらない。
これほどの大きさでありながら、しなる枝は踊るように風を受け流していた。
何度ここで咲いたのだろう?
もうこの土地に、人が立ち寄る事なんてないのに。
人の手を離れて、なおもそこにあり続けた。
山が変わり、土地が変わり、人が変わる。
今はただ孤独に、何者にも支配されずに生き続けている。
愛でられる事もなく、しかし柔らかで、強かに。
風が穏やかになったら、娘を連れてこよう。
きっと君は、歓迎してくれるだろう?
