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灰色の道、白いガードレール、そして「AIっぽさ」の正体


コロナ前、私は会社の活動として、7才から高学年までの子供たちにScratchでプログラミングを教えていた。定番はネコを動かすことだが、一番人気だったのは別のお題だった。


道を外れずに走る自動車を作る。

背景は舗装された道路のマンガ風イラスト。中央分離帯もある、ちょっと本格的な絵だ。ガードレールは白、道路は灰色。子供たちは自動車をスプライトとして作り、「白に触れたら曲がる」「灰色の上にいる間は進む」というブロックを組んでいく。うまくできた子には、信号機を追加させたり、色違いの車を増やして走らせたりして、その様子を観察させて遊んだ。
当時はLLMなど存在しなかった。けれど今振り返ると、あれは立派な「エージェント」の実験だったと思う。


何が「エージェント」だったのか

あの自動車がやっていたことを分解すると、こうなる。
●   知覚:スプライトの下にある色を判定する(灰色か、白か)
●   ルール:「白に触れたら曲がる」という if-then
●   行動:曲がる、進む、止まる

環境を知覚し、あらかじめ決めたルールに従って行動する。これは今のAIエージェントの説明としても、そのまま通用する構造だ。信号機を追加した子は、状態(赤・青)に応じて行動を変えるという、もう一段階複雑なルールに触れていたことになる。

ただし、ここには一つ大事な注意点がある。この車の中に「AI」は一切いない。 すべてが決定論的なルールで説明できる。なぜ曲がったのか、なぜ止まったのかを100%言葉にできる。

これはAIではなく、ルールベースの自動化だ。そして自動車は永久的に信号を守り、車間を保ち走り続ける。自律的に自走しているかのようだった。
 

走るクルマ (Scratch)


発想のスタート地点は人それぞれ

最近、ローコード・ノーコードのノードエディタを前にした学生を見ていて気づいたことがある。同じツールを渡しても、反応は真っ二つに分かれる。

●   すぐに何かを組み立て始める子
●   何も作れずに固まってしまう子

これを見て思い出したのが、AIが出る前の会社の同僚のことだ。その同僚はPythonでコードを書けるレベルの人だった。でも、私とは発想のスタート地点が違っていた。

私は、アルゴリズムを考えるとき、まず過去に同じような解決方法がないかを調べる。似たものが見つからないときは、Scratchを「思考ツール」として使い、実験して考えた。これが実に私を助けてくれた。

ブロックを組んで、実際に動かして、視覚的に振る舞いを確かめる。すると、とても閃きやすくなる。頭の中がまだ整理できてなくとも、Scratchは試せる。

どうやら私は粘土で何かの形を作り、それが何にみえるのか?そんな設計図がなければ何も浮かばない性格らしい。


同僚は違った。彼にとって「考える」ことと「書く」ことの間に、試作の段階がなかったように見えた。おそらく彼にとっての思考のスタート地点は、すでにPythonの文法や構造そのものだったのだろう。まだ形になっていないアイデアを気軽に試す、という発想そのものが不要なんだと思う。
 



AIエージェント・思考・実装・人間

AIかどうか以前の話として、「思考」と「実装」を同じ工程として扱うか、間に試作という緩衝地帯を挟むかという違いがある。そしてこの違いは、今のAIエージェントの捉え方にもそのまま重なるし、教えれば7才の人間でもハーネスを理解できていた。


ハーネスに包まれたLLM呼び出しも、単なる条件分岐の自動化も、外から見た挙動だけでは区別がつかないことがある。中身が「学習された振る舞い」なのか「決定論的なルール」なのかを、いったん試作して確かめてみる——という発想があるかどうかが、案外大きな分かれ目なのかもしれない。

これが、AWS Kiro や Claude Code 達がやっているSpec-Drivenなのかは、今でも判らないが、仕様が未決定なら何も始まらない。
 

灰色と白の車で、区別を教える

もしもう一度この教材を使うなら、私はこんな順番で教えたい。

  1. ルールだけで車を走らせる(白=ガードレールに触れたら曲がる、灰色=道路の上は進む)。これは100%ルールベースであることを明言する。

  2. 「もしこの車がAIだったら、何が違って見えるか?」を問いかける。挙動は同じでも、判断の根拠を人間が完全に説明できるかどうかが違う、という点に気づかせる。

  3. 最後に、今のAIエージェント(例えばLLMをハーネスで包んだ仕組み)も、実は内側に「ルール(ハーネス)」と「AI(LLM)」が同居していることを、この車の比喩で説明する。


見た目の挙動が同じでも、中身が「ルール」なのか「AI」なのかを問う。この視点さえ持てれば、ノーコードの前で固まってしまう大人も、少しは「わからないものに向き合う」取っ掛かりを掴めるのではないか。

私のような発想力のヨワヨワな人ほど、Scratchを試す価値はあると思う。ただ、時間は少し必要。だが、分ってからが速い。



灰色の道と白いガードレールは、今にして思えば、AIとルールベースの境界線を子供に教えるための、ちょうどいい教材だったのかもしれない。5年生だったお子さんに連絡したら、今年大学受験だった。まじ光陰矢の如しだ。
 

Scratchは、ダウンロード版がおすすめ(ローカルで早く動く)



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