上振れ余地と下振れ余地を天秤にかけろ
私は、若くて投資資金がまだ少ない時期ほど、ある程度リスクを取ってもよいと考えています。
もちろん、無謀な投資を勧めたいわけではありません。
私が見ているのは、単純な「リスクの高さ」ではありません。
失敗したときにどこまで失うのか。
成功したときにどこまで上振れるのか。
この二つを天秤にかけます。
そして、もう一つ重要なのが、
失ったお金を、自分の収入で取り戻せるか。
という視点です。
当時の20万円は、手取り1か月半分を超える金額だった
投資を始めた頃、私はある銘柄に約20万円を投資しました。
当時の手取りは、月13万円ほどでした。
つまり20万円は、手取り1か月半分を超える金額です。
今振り返っても、決して「なくなっても気にならない金額」ではありません。
もし半分になれば、10万円の損失です。
当然、痛い。
当時の私にとって10万円は、決して小さな金額ではありませんでした。
しかし、働いていれば取り戻せない金額でもありません。
給料やボーナスから、また貯め直せばいい。
時間はかかっても、労働収入によって再び投資資金を作ることができました。
最悪の場合を考えても、生活そのものが壊れるような損失ではありませんでした。
一方で、その20万円には大きな上振れ余地がありました。
結果として、その銘柄は約15倍になりました。
20万円は、約300万円になりました。
もちろん、15倍になることなど予想できていたわけはありません。
しかし、この投資によって得た資金は、その後の投資の原資になりました。
ここで重要なのは、
「15倍株を当てた」
という話ではありません。
私が言いたいのは、
下振れした場合に失うものと、上振れした場合に得られるものは、本当に対称なのか。
ということです。
10万円の損失と、280万円の上振れは同じではない
仮に20万円を投資して、半分になったとします。
失うのは10万円です。
しかし5倍になれば100万円。
10倍になれば200万円。
15倍なら300万円になります。
もちろん、上昇する確率を無視して、
「下がっても10万円、上がれば280万円儲かる。だから買えばいい」
という話ではありません。
そんな単純な比較なら、宝くじでも同じことが言えてしまいます。
必要なのは、投資対象そのものを分析したうえで、
外した場合に自分はどれほど傷つくのか。
当たった場合に自分の状況はどれほど変わるのか。
を見ることです。
私は「損する可能性があるからやめる」だけでは、不十分だと思っています。
損失の大きさを見る。
その損失が、自分にとって回復可能なのかを見る。
そのうえで、成功した場合にどこまで状況が変わる可能性があるのかを見る。
そこまで考えて、初めて上振れ余地と下振れ余地を比較できます。
資産が少ない時期には「入金力」という武器がある
ここで重要になるのが、「入金力」です。
資産形成の初期は、金融資産そのものはまだ小さくても、これから働いて得る収入があります。
投資で損失を出しても、給与やボーナスから新しいお金を入れることで、時間をかけて立て直すことができます。
これは、資産形成の初期に持っている大きな強みです。
一方で、投資が大きく上振れすれば、その利益はその後の投資元本として残ります。
下振れは自分の収入で補える。
上振れは、その後の資産形成を加速させる。
私は、この非対称性があるからこそ、資産がまだ少ない時期には、一定の範囲でリスクを取る意味があると考えています。
資産が大きくなると、入金では取り戻せなくなる
ところが、資産が増えてくると状況は変わります。
仮に資産が7,500万円あれば、10%の下落でも750万円です。
20%なら1,500万円です。
この規模になると、
「損したら、また働いて入金すればいい」
とは簡単には言えません。
750万円を給与から貯め直すのは、10万円を貯め直すのとはまったく違います。
資産が大きくなるほど、労働収入による入金では損失を到底カバーできなくなっていきます。
つまり、資産形成の初期には大きな力を持っていた「入金力」が、資産全体に対して相対的に小さくなっていくのです。
ここで、リスクの取り方を変える必要があります。
資産が小さい頃と同じ感覚で大きなリスクを取り続ければ、一度の判断ミスによって、それまで何年もかけて積み上げた資産を大きく失う可能性があります。
資産が増えるほど、
上振れを取りにいくこと以上に、大きな下振れを避けることの価値が高くなる。
私はそう考えています。
リスク許容度は「年齢」だけでは決まらない
「若いうちはリスクを取れる」
とはよく言われます。
私はこの考え方に概ね賛成ですが、正確には少し違うと思っています。
重要なのは、年齢そのものではありません。
現在の金融資産に対して、これからどれくらいのお金を新たに稼ぎ、入金できるのか。
こちらの方が重要です。
同じ30歳でも、金融資産100万円の人と3,000万円の人では、労働収入が持つ意味はまったく違います。
資産が小さければ、毎月の給与は資産形成に大きな影響を与えます。
一方で、金融資産が何千万円にもなれば、年間の入金額より、相場による資産変動の方が大きくなります。
そこでゲームのルールは変わります。
資産形成の前半では、
いかに元本を増やすか。
後半では、
増えた元本をいかに致命的な損失から守るか。
この二つを、同じ投資戦略で乗り切る必要はありません。
「損するかもしれない」だけで判断しない
投資では、どうしても下振れに目が向きます。
10万円失うかもしれない。
株価が半分になるかもしれない。
失敗するかもしれない。
だからやめておこう。
もちろん、それが正しい場面もあります。
しかし私は、そこで思考を止めないようにしています。
最悪の場合、いくら失うのか。
その損失は、自分の収入や残りの資産で回復できるのか。
そして成功した場合、何が手に入るのか。
上振れ余地と下振れ余地を、両方見る。
下振れが人生を壊すほど大きいのであれば、どれだけ魅力的な上振れがあっても避けるべきでしょう。
逆に、下振れが自分で吸収できる範囲に収まっていて、上振れした場合には自分の資産形成を大きく前に進められる。
私は、そういう場面ではリスクを取る価値があると考えています。
20万円を投じた頃の私は、失敗しても働いて取り戻すことができました。
今の私が同じ比率でリスクを取れば、その損失を給与で取り戻すことはできません。
資産が変われば、取るべきリスクも変わります。
資産形成とは、ただリスクを減らし続けることでも、リスクを取り続けることでもありません。
自分の資産と入金力が変わるたびに、上振れ余地と下振れ余地をもう一度天秤にかける。
その繰り返しなのだと思います。
