【ショートショート】夢の危機一髪【#爪毛の挑戦状】
二十歳を過ぎてもヒゲが生えなかった。
それだけの理由で僕は夢を諦めざるを得なかった。
黒ヒゲ危機一髪の黒ヒゲという夢を。
そんな僕に転機が訪れる。
黒ヒゲの人材不足だ。
周囲から突き刺される剣を避け続け最後には天高く飛ばされる黒ヒゲは常に死と隣り合わせの危険な仕事だ。
黒ヒゲをやりたい、そう考える者は決して多くない。
そしてついにこんな声があがった。
もうつけヒゲ危機一髪でいいんじゃないか?
そして世界で初めてのつけヒゲ危機一髪となったのが僕だった。
「……さあ、行こうか」
僕は立ち上がると樽へと歩き出した。
後ろ指さす者がいた。
あざ笑う者もいた。
「宙を舞うつけヒゲに何の意味があるのか」と問う者もいた。
しかし、僕は今日危機一髪をやってのける。
必ずやり遂げて見せる。
50年後――
僕はおもちゃ売り場で「つけヒゲ危機一髪」を見かけて手に取った。
今ではたくさんのつけヒゲが危機一髪している。
その最初の一歩を知る者は少ないのかもしれないけれど。
(409文字)
✒あとがき
読んで下さってありがとうございます!
こちらの企画のお題で書かせて頂きました!
ここ最近では一番「書いていてハンドルを持っていかれた」系ショートショートになりました。
ちなみに僕はヒゲは生えません。
