金利高で変わる企業への問い、強制される経済の「新陳代謝」
皆さん、こんにちは。村田雅志です。
5月18日、日本の30年債利回りは一時4.2%台に乗り、過去最高水準を更新しました。10年国債利回りも一時2.80%まで上昇し、約29年半ぶりの高水準となりました。しかし、その後、超長期金利も長期金利も上昇一服で、30年債は22日には小幅ではありますが4%を割り込んで終わりました。
一方、日本の株式市場では、日経平均株価が5月20日に6万円の大台を下回り悲観色が強まりましたが、その後は一転して上昇が続き、22日終値は6万3339円と過去最高値を更新しました。
先週の日本は、債券市場、株式市場ともに不安定な状態が目立つ展開となりました。

二つの市場がともに不安定さを増している理由は、いくつも考えられます。そんな中、私は、「日本経済がレジームチェンジに突入している」と言ってもいいくらい大きな構造変化が生じているからだろう、と考えています。
とくに足元の金利高は、金利ゼロ時代に作られた日本経済の企業評価、資本配分、株式市場の選別ルールを見直すきっかけになるでしょう。
金利ゼロの時代には、資本にほとんど値段がありませんでした。
しかし、金利高の時代には、資本に値段が付きます。
資本に値段が付けば、企業は選別されます。
今回のコラムでは、私が最近繰り返し申し上げている「インフレ・円安・金利高」という枠組みを使って、これから日本株市場や日本経済の中でどのような分断が進むのかを考えてみたいと思います。
今回も、あまり耳障りのいい話とは言えませんが、ぜひ最後までお付き合いください。お願いいたします。
金利高は日本経済の選別ルールを変える
金利高というと、多くの方は株価への影響を考えると思います。
金利が上がると株価に逆風。
金利が上がるとグロース株に逆風。
金利が上がると不動産やREITに逆風。
金利が上がると銀行株には追い風。
もちろん、こうした見方は間違いではありません。
しかし私は、金利高を単なる株価材料として見るだけでは不十分だと思っています。
金利高は、もっと深いところで、日本経済の選別ルールを変えます。
金利がない時代には、資本を使うことのコストを非常に低くしました。
借金をしても利払い負担は小さい。
将来の利益を期待して投資しても、割引率は低い。
不動産を買っても、資金調達コストは軽い。
低収益の事業でも、何とか続けられる。
投資家も、多少リスクの高い資産を買いやすい。
これが金利ゼロ時代でした。
しかし金利が上がると、話は変わります。
資本に値段が付きます。
資本に値段が付くと、企業は市場からいろいろと問われます。
たとえば、
事業は金利を上回る利益を生めるか。
企業は上がったコストを価格に転嫁できるか。
借入は金利高に耐えられるか。
投資は資本コストを上回るか。
円安を利益に変えられるか
それとも円安でコストが増えるのか。
金利が変わる(金利が高くなる)とは、どの企業に資本が集まり、どの企業から資本が逃げるのかを決める新しい選別ルールを企業に押し付けます。
インフレ・円安・金利高が企業に突きつける三つの問い
私は、これからの日本経済を考えるうえで、「インフレ・円安・金利高」という三つの変化を重視しています。
これは単なるマクロ環境ではありません。
日本企業を選別する三つの圧力です。
インフレは、企業に対して、
「上がったコストを価格に転嫁できるのか」
と問います。
原材料費が上がる。
人件費が上がる。
物流費が上がる。
電力費が上がる。
金利負担も上がる。
こうした環境で、値上げできる企業は利益を守れます。
場合によっては、売上も利益も増やすことができます。
一方で、値上げできない企業は苦しくなります。
売上は名目上増えているように見えても、コスト上昇を吸収できず、
利益率が落ちていくからです。
インフレは、企業にとって単なる売上増加要因ではありません。価格転嫁力を問う試験です。
次に、円安は、企業に対して、
「外貨で稼ぐ側なのか、輸入コストを払う側なのか」
と問います。
海外で稼ぐ企業にとって、円安は円建ての利益を押し上げます。
海外売上比率が高く、外貨建て収益を持ち、グローバルに競争力を持つ企業にとって、円安は追い風になり得ます。
一方で、輸入原材料、エネルギー、食料、海外部材、海外サービスに依存する企業にとって円安はコスト増です。しかも、そのコストを価格に転嫁できなければ、利益は削られます。
円安は日本企業全体に一律でプラスではありません。
外で稼ぐ企業と、国内で輸入コストを払う企業を分ける力です。
そして最後に、金利高は、企業に対して、
「その事業は、上がった資本コストを上回る利益を生めるのか」
と問います。
借入に依存する企業は、利払い負担が増えます。
将来期待で評価されていた企業は、PER(株価収益率)が縮小しやすくなります。
不動産やREITのような金利に敏感な資産は、以前ほど高く評価されにくくなります。
低ROE、低ROICの企業は、投資家からより厳しく見られます。
金利ゼロ時代には許されていた低収益が、金利高の時代には許されにくくなります。
整理すると、
インフレは、価格転嫁力を問う。
円安は、収益構造を問う。
金利高は、資本効率を問う。
これが、これからの日本企業に対する新しい問いになります。

金利高は日本経済の新陳代謝を強制する
金利高は、株式市場にとって悪いニュースとして語られがちです。
たとえば、5月20日に日経平均株価が6万円割れとなった時も、世界的な金利上昇のなかで、AIや半導体関連株の割高感が意識されたことが一因とされています。
しかし一方で、金利高は日本経済の新陳代謝を促す力にもなり得ます。
原材料費が上がる。
人件費が上がる。
輸入コストが上がる。
そして借入金利が上がる。
そんな中、販売価格を上げられず、利益率も低く、借入負担も重い企業は、以前より生き残りにくくなります。
これは厳しいことです。
雇用にも影響します。
地域経済にも影響します。
取引先にも影響します。
だから、簡単に「淘汰されればいい」と言うべきではありません。
しかし、日本経済全体で見れば、金利高は、これまで先送りされてきた新陳代謝を強制することになるでしょう。
M&Aが増え、業界再編が進み、低収益企業の退出が増えるでしょう。
銀行の融資姿勢が変わり、投資家は資本効率をより強く求めます。
そして企業は、値上げ、賃上げ、投資、財務改善を同時に迫られます。
こうした変化は、痛みを伴いますが、しかし、金利ゼロ時代に積み上がった非効率を修正する動きでもあります。
金利高は、単なる悪材料と見るのではなく、日本経済の資本配分を変える圧力と見るべきと思います。
AI・半導体、銀行、内需企業
もう少し具体的な話を考えてみましょう。
まず、AI・半導体関連企業です。
AI・半導体関連は、日本国内の消費環境よりも、グローバルな設備投資、AI需要、データセンター投資、半導体サイクルに連動しやすい企業群です。
その意味では、日本国内の需要低迷から距離を取れる企業群です。
円安も、外貨建て収益や海外需要を持つ企業にとっては追い風になります。
しかし、AI・半導体も金利高からは逃げられません。
将来期待で買われる銘柄ほど、金利高によってPERが縮小しやすくなります。
AI・半導体は、日本の悪い内需環境からはある程度距離を取れるかもしれません。しかし、金利高によるバリュエーション調整からは逃げられません。
次に、銀行です。
銀行は、金利高によって貸出利ざやの改善が期待されます。
長く続いた低金利環境では、銀行の本業収益は圧迫されてきました。
その意味で、金利のある日本は、銀行にとって大きな環境変化です。
ただし、銀行も単純な勝ち組とは言い切れません。
金利上昇が、経済の正常化や収益機会の拡大として起きているなら、銀行にとって追い風です。
しかし、金利上昇が財政不安、国債需給の悪化、信用コストの増加を伴う場合、銀行にとってもリスクになります。
金利高は銀行にプラス。と言いたくなりますが、金利高の中身を見なければなりません。
最後に、内需企業です。
内需企業は、インフレと円安によるコスト上昇を受けやすい企業群です。
食料、原材料、エネルギー、人件費、物流費が上がる。
家計の節約志向も強まる。
そのため、価格転嫁できない内需企業は厳しくなります。
ただし、内需企業すべてが弱いわけではありません。
価格を上げても顧客が離れない企業。
ブランド力がある企業。
規模の経済がある企業。
物流や仕入れで優位性を持つ企業。
人件費上昇を生産性向上で吸収できる企業。
こうした企業は残ります。
内需企業だから弱い、とは言い切れません。
販売価格を上げられず、利益率が低く、資本効率も低く、金利ゼロに支えられてきた企業が弱いのです。
日本株を見る問いが変わる
これからの日本株市場では、
「日本株は強いのか、弱いのか」
という問いだけでは不十分だと思います。
なぜなら、インフレ・円安・金利高の日本では、指数だけを見ても、日本経済の実態が見えにくいからです。
本当に問うべきことは、インフレ・円安・金利高の日本で、
どの企業が資本を引き寄せるのか。
どの企業が資本から見放されるのか。
どの企業が価格転嫁できるのか。
どの企業が円安を利益に変えられるのか。
どの企業が金利高に耐えられるのか。
どの企業が資本コストを上回る利益を生めるのか。
ということです。
金利高の時代には、資本に値段が付きます。
資本に値段が付けば、企業は選別されます。
日本株市場の分断とは、単なる株価の分断ではありません。
日本経済の中で、資本配分のルールが変わるということです。
これは、投資家だけの話ではありません。
企業経営者にとっても重要です。
銀行にとっても重要です。
働く人にとっても重要です。
インフレ・円安・金利高は、単なる市場テーマではありません。
日本経済の中で、どの企業が残り、どの企業が苦しくなるのかを決める大きな圧力です。
その環境下で、株価指数だけを見ても、日本経済の実態は分かりません。
見るべきなのは、資本がどこへ向かい、どこから逃げているのかです。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
今回のコラムでは、金利高が、日本企業への資本配分をどう変えるのかを考えてみました。
今回のメッセージは、日本経済が「インフレ・円安・金利高」の環境に入るなかで、どの企業、どの産業、どの家計、どの金融資産に負担が移り、どこに資本が集まるのかを考えよう、ということです。
じつは、今月末くらいから、日本経済が「インフレ・円安・金利高」の環境に入っていくことを前提に、無料のニュースレターを配信していこうと考えています。
このニュースレターは、個別銘柄の推奨ではなく、金利、為替、物価、財政、政治、株式市場をどう読み解くかを、投資判断に使える地図として整理していくものです。
配信の用意が整いましたら、改めてnoteやXでご案内したいと思っています。もしご興味ございましたら、ぜひニュースレター受取りの手続きをしてください。
また、このnoteアカウントでも、私が日頃思っていることを、コラム形式でご紹介したいと思っております。
引き続きお付き合いいただければ幸いです。
村田雅志(むらた・まさし)
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