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酒の悪魔

自分はちいさなころから女性に対して自信がない。
圧倒的にモテないという事に負い目がある。
姉二人の下の末っ子の長男として産まれて育ってきて
姉に押さえつけられてきて育ってきたという記憶があり
年長の姉に大きい声で言いくるめられると
何も言えなくなってしまっていたという事が数多くあった。
今でも強く覚えてるのは父か母に与えられた
お菓子を姉に一口ちょうだいと言われ差し出したら
半分ほど平らげられ4つ年齢の違う姉にしたら
一口のつもりだったのだろうが
自分にしたら今まさに口にしようと思っていた食べ物を
半分奪われたという気持ちになるが
当然その場では抗議できずにいてそれからは
お菓子をちょうだいと言われても渡そうとしなかった為
「ケチんぼケチんぼ!」
とことあるごとに言われるようになった。
自分の中では自分も人の物をねだらない
という事が大前提があったのだが
姉は当然自分の分け前を弟に渡すような気はなくて
年少の弟の物は当然自分の物
ぐらいの気持ちは持っていたのかもしれない。
それからというもの私は女性との距離がつかめない。
はっきり言えば女性と話せない人間に
なってしまった様に思う。
もちろん女性と日常のやりとりはするが
女性との「対話」ができない人間に
なってしまったというように思う。
女性と話をしていても相手がどう思っているのか気になる。
自分がどう思っているのかが気になってしまう。
なので女性と距離を詰めようとすると
酒の力を借りるという事になり
自分が女性とうまく行ったのも
飲酒の場をステップにしてという事ばかりだった。
とにかくモテないという気持ちが強いので
酒の力でどうにかしてやろうという
邪な気持ちを持っていたのは
今となっては恥ずべき事と思っている。
そのように酒を飲む生活をしてると
家に帰って一人でも酒を呷るようになった。
最初はビールやカクテルなどコンビニに並んでいる酒を
端から試していたが段々とゴミ捨てるのが億劫なのと
アルコールの缶だけしか入っていないゴミ袋を捨てる時に
同じマンションの主婦の警戒の眼差しを浴びてからは 
酒瓶が鞄に収まって
自動販売機の脇にあるゴミ箱に投げ込めるサイズの物に限られるようになりそれで強い酒になるとコンビニで買えるジンやウイスキーになる。
一人で飲む酒は自分にとっては酒を飲んだ状態で人と話す練習と言えた。
酩酊状態でも人と楽しく話ができるように
以前飲んでその日のうちにホテルに行けた女性との会話と再現し
どれだけ呑んでいても流暢に噛まずに話せる様に練習をするようになった。
最初は強い酒を一人でぐいぐいと呷っていると途中で寝てしまう為
それではまた女性とホテルに行くまでの予行演習にならないと思い
ホテルにたどり着くまでの会話を終えるまで酔いつぶれない量を覚え
そうなると手元が遊んでいるなと思いペンとノートを用意して
自分と女性との会話と文字で起こして
台本をつくりそれを読むようになった。
それも覚えて飽きてきたら
女性の側で読んだりして女性の気持ちを想像する訓練をするようにした。
そうしていくうちに
相手の女性の側の台詞が頭の中で聞こえてくるようになった。
アルコールの酩酊状態の作用だと思い
目の前に女性がいるような気がして
最初は落ち着かなかったがすぐに慣れてしまった。
そうなると頭の中に聞こえる女性の声は段々と台本にない台詞を
アドリブで話し出すようになってきた。
そうなるといよいよアルコール中毒の始まりで
やばいこれは病院に行かなくてはと思う様になっていったが
病院に行けば十中八九酒を控えるように
と言われるのが関の山でどうしたもんかなと思いながら
変わらず酒を呑む日が続いていると
自分でも女性でもない声が聞こえてくるようになった。
うめくような声が家の押入から聞こえてくるなと思っていたが
気にせず毎日台本読みを続けていたがある日もう寝ようと目をつぶるが
うめくような声が最初の頃より大きくなっていて
寝苦しいまでの騒音に感じられて押入を開けると悪魔がいた。
西洋風の山羊の頭に角が生えてて
長い爪の生えた筋骨隆々の上半身で
腰から下が床に埋まっている様だった。
息も絶え絶えの悪魔は呻いていたのではなく
何かの言葉を呟いていた。
今から想い出せば聞いた事のない言語なので
もちろん話すことは
できないがその時は何を言っているか理解できた。
今思えばアル中の妄想でしかないがとにかく
悪魔の言わんとすることはこうだった。

自分はこの世界を破滅させるために遣わされた。
自分は心に穴がある者の元に遣わされる。
だがもう終わりつつあるこの世界を破滅させるのにも骨が折れる。
だから自分が完全にこの世界に送り出される前に殺してほしい。

見ると悪魔は苦しそうな息遣いでこちらを見る目にも力はなく
武器にすれば強力そうな角と牙と爪だが筋骨隆々に見える胸板や腕も
よく見れば腐りかけのトマトの様に皺が寄っており
その姿はベッドで死を待つ老人の様だった。
あまりにも苦しそうで気の毒だったのもあるが
押入からうめき声がするままでは眠れないし
加齢臭に近い臭いも不快だったので台所から持ってきた
首筋に包丁と首筋にそっと入れると
力ない射精のように首から泥水に近い血が静かに流れ
悪魔の体はその血だまりに沈んでいくように溶けていった。
拭き掃除をして消臭剤をかけたら
あまり臭いは気にならなくなったので
その日は寝たのですがそれからというもの
2~3日経つと押入から仄かにどぶの臭いが臭ってきて
ごほごほと咳払いのような音がしてくる押入を開けると
ドロドロとしたゲル状の液体が床から沸き上がり
小さな泡を立てていたり溶けかかった
上半身を床に突っ伏していたりしているのだが
とにかく苦しげで毎回包丁を首の当たりに突き立てると
この世を破滅させる為にこの世界に降り立つ事ができない事に
安堵を感じられた。
本当かわからないが悪魔に安堵を与えられ
世界の破滅を自分の力で止められるならそうすべきだと思っていた。
酒を呑むこともやめられないが
その様に悪魔も週に一度はで殺さなくてはいけない。
そのころの仕事はリモートで基本在宅でできたため
出勤1分前まで寝ていられるアル中に優しい環境だった。
終業時刻の五時になると毎日すぐに退勤ボタンを押して酒を飲む。
飲みに行く人がいれば飲みに行くしいなければ
近所のバーやガールズバー
に行って呑む。
疲れて外行く元気が出ない時には家で一人で呑む。
雨や台風の時は客が少なそうな気がして
そういう時に顔を出した方がありがたがられそうだなと
思い飲みに出かける。
帰ったらべろべろになって押入を開け慣れた物で中も見ずに
包丁を突き刺し溜まった悪魔の血と体液を
ちりとりですくってバケツに入れてトイレに流して寝る。
最初は大判のバスタオルで水気がなくなるまで拭いていたが
朝にそのタオルを洗濯機に入れようとすると
生臭くて他の洗濯物に臭いが移ると思い
それからはタオルで拭くのをあきらめたが
適度に水分が掬っておけば窓を開けて乾燥させれば
翌朝には乾いていて部屋にも残ってないことに気が付いた。
外から悪魔をみられたり
ま自分が包丁を悪魔に突き立ててるのをみられたり
という事を危惧していたがだれもそんなことには
気が付かない冷たい街が東京という事をすぐ想い出した。
自分がこんな風な酒飲みになったのも多分に父親の影響も強いと思う。
自分が小さい頃は一緒に遊んだり自転車で買い物に出かけたりしていたが
そんな事も信じられないほど自分が記憶にある小学生にあがる頃には
アルコール漬けで弱り切っていた。
自分が起きて学校に行く時間になっても
ベッドに横になったままで
ああ行ってらっしゃいと声をかけるときもあれば
反応が無く寝てる時もあって
今思えば少し甘いような匂いがしたのも
父がベッドで横になったまま呑んだビールの残り香か
ビール漬けになった父の体臭だったのだと思う。
そのように朝学校に行ってから帰ると
父はどうみても仕事に行っておらず
まともな状態ではない事は分かっていたが
本当にに父がやばいと思ったのは
当時は近所の顔見知りの酒屋が
電話で注文すると届けてくれていたのだが
家にいてインターホンが鳴って
父が玄関に向かうそぶりがみえたので
そのまま遊んでいたが
玄関口で
大丈夫ですか?
というような問答が聞こえたので
見にいくと父が缶ビール1ケースの箱を抱えているのだが
毎日寝たままで体力が落ちているせいか
ビールの箱を前に抱えたまま
震えて足が動かず立ち尽くしている状態で
蚊の泣くような声で
ダイジョブ。。。ダイジョブ。。。
と言っていてこの人ほんとにやばいと思うのと
ともに酒屋さんも多分同じ思いで
こちらに向けた眼差しは忘れられない。
その後の記憶がないのだが
もちろん酒屋さんは帰ったと思うのだが
それから缶ビール1ケースを抱えていた父はどうしたのだろうか。
それはアルコールの恐怖をまざまざと
自分の心に深く刻みつける出来事であった。
父の死もあっけないと言えばあっけないものであった。
アルコール中毒の復調と悪化を繰り返し
ある時恐らく隠れて外に呑みに出かけて
家の前で転倒し頭を打って倒れているのがみつかった。
タクシーで家の前で降りてつまずいて
転倒し頭を打ち朝に近所の人に発見されそのまま救急車で運ばれた。
夜に頭を打って朝の発見までの数時間の間に出血が脳を圧迫し
父は死ななかったもののその後の人生はベッドの上で過ごす事になった。
たまに病院に行くと受付も廊下も父のいる四人部屋も
病院内は信じられないほど静かで
このまま世界が終わっていくと言われても納得できるほど
いつも静かだった。
「大丈夫?」
と声をかけたら父は目を開けてこっちをみたが
手に触れてももうその頃のいつも通り指に力は入っていなかった。
父はその後結局一年ぐらい生きて別の病院のベッドの上で死んだ。
晩年のベッドの上で横になっている父をみて
バカみたいに酒飲んでるとこんな風になってしまって
自分の力では何もできずに他人の力で生きながらさせえられる余生に
何の意味があるのだろうと思う気持ちと
ぶっこわれてもう動けなくなってしまえば
限界以上に呑んでしまう事から解放され
酒も抜けてベッドの上でずっと横になって
お世話をしてもらっていられるのなら
もしかしたらこの人は幸せなのではと思った。
法事の時にしか会わないだれだか分からない親戚のおばさんが
若いのに可哀想に
と言っていて
好きなだけ酒飲んでこうなったのだから幸せじゃん
と思ったが黙っていた。
それから母子家庭でずっと育ってきたが
中学の期末試験が終わってなんにもやることがないなと思って
コンビニで学生服のまま紙パックの鬼ころしを買って
歩きながら呑んでみたのが人生初の飲酒であったが
それからは大学の新歓で
飲み過ぎて救急車で運ばれたり
年に数回は飲み放題の居酒屋で
誰かが倒れるまで呑んだりと
人並みにアルコールを嗜む生活であったと思う。
だが酒に呑まれながらも
脳裏にはビールケースを抱えて
一歩も動けなくなっていた父の姿が思い出され
その頃の若い自分は一日くらい寝なくても
大丈夫とかちょっと寝れば復活するという風に思いながらも
父の様に向こう側に行くまでは呑むまいと思っているつもりだった。
その頃から今も思っているのが父の血を受け継いでいる
自分の様な人間の血を残さない方がいいだろうなという気持ちだった。
飲み過ぎで身体の不調もあるせいか段々と家から出るのもおっくうになり
もう家から出ずに押入の悪魔を相手に呑むようになった。
と言っても悪魔が何かをつぶやいてるのが分かるわけでもなく
上半身を横たえて苦しそうに何かをうめく悪魔に
大丈夫か?
と言葉をかけたり肉体を形づくる前の液体が
ぼこぼこと泡立つのを眺めて呑んだりするようになった。
段々と気持ちにも緩みがうまれ
掛かっている物が世界の破滅という重大な物だとしても
要領が分かってきたので
しばらく悪魔がどこまで育つのか毎日観察してみることにした。
最初は押入の床から染み出すように濃緑色の液体が染み出してくる。
それが段々とスライム状に固まりだしてきてゴボゴボと音を立てて泡が
立つようになってくる。
それが床の上に徐々に固まる様に盛り上がってくる。
段々と鼓動のリズムに合わせて脈打つように
収縮と膨張を繰り返していくうちに
悪魔の輪郭を形作ってきてうつ伏せに倒れた上半身の形となる。
悪魔は何かの言葉を呟いているが何を言っているのかは判別できない。
目は開いているが力はなく手や指は力が入っている様子はなく
掴んでみても握り返してきたり動かす様な反応はない。
最初は触れてみると手に緑の液体が付いてきてそれが乾くと
生臭いので不愉快だったがだんだんと表面は乾燥してきて
弾力のあった表面はは虫類の鱗の様に硬質化していった。
最初の頃はこの様に急激に成長する
この悪魔が不意に凶暴になり襲ってきたらと思うと
恐ろしくなり人間の大人位の大きさになると自分の力では
抑えきれないと思い処置をしてきたのだが
慣れというのは怖いもので悪魔が気の毒なほどに生気がない事に
気が緩んで怖いものみたさもあり悪魔が成長していくのをそのままに
していると押入から優に上半身が飛び出して
部屋に文字通り大きなは虫類を買っているようだった。
ヘビー級の格闘家のような腕や肩周りを持つまでになると
悪魔は言葉を発さず目をつぶって眠っているようだった。
呼吸に合わせて背中が上下動するが自分から動く様子はなかった。
大きすぎてつまずいたり腕のあたりを背もたれにして座ってみても
全く反応する事はなかった。
眠っているような悪魔の顔は世界を破滅させること骨を折ることを
もう観念して力を溜めているようにみえた。
このまま寝かせておいてやりたいと言う気持ちで悪魔の首筋に刃物を
突き立てると緑の液体を拭きだしたが悪魔は起きることはなく
緑色の乾燥して縮んだスライムの固まりに変わった。
やはり大きい分量が多くて処理が大変でやはりこれからは
こまめに処理しようと片付けながら思った。
ここで疑問になってくるのはなぜ自分が悪魔が押入から放たれてると世界が滅ぶと思っているのだろうかという事だ。
押入からこの筋骨隆々のデカめのトカゲが
飛び出したらなぜ世界が滅ぶのだろうか?
この家から飛び出した悪魔が
道路で立ち往生してみたらどうなるのだろうか。
警察か自衛隊が来て悪魔を鉄砲で撃って
それがニュースにでもなるのだろうか。
空を飛んだら危ないかもしれない。
飛行機での移動や物資の輸送ができなくなると
かなり世の中に影響が出るかもしれない。
だがそうしたらそうしたでそういう世界が
生まれるだけで結局世界は滅びたりはしないかもしれない。
酒を呑みながら身を横たえる悪魔をみて思う。
こいつがどうなったら世界が滅ぶのだろうか。
じゃあなぜ自分は悪魔を殺しているのだろう。
悪魔が押入から抜け出して歩き出したら
目に入る人間全てをその牙と爪で血達磨にして
口から放つ火の玉で辺りを焼け野原に変えると思っていたが
人智を超える強さなんていうのは
想像上の産物に過ぎないと
理性的な社会人として今思う。
じゃあ自分はなぜ悪魔を殺し続けていたのだろうか。
考えるのが面倒になり
どんどん自分は父親のようにアルコールにのめり込んでいくと
もう呑んでるだけで家では何もしなくなった。
人の出入りのない家の庭はあっというまに雑草で生い茂るように
掃除をしない家は自分の歩く導線以外には
うっすらとほこりがつもっていき
水回りも水垢と黴で輝きが失われていく。
酒を飲む以外の事をしなくなった自分の傍らには
変わらず悪魔が横たわっていて
感じられる生暖かい体温が心地よく
何もできなくなるまで酒を飲み続けた父も
こんな気持ちだったのだろうかと思った。

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今成柔術の村田卓実です 面白い人に話を聞いてみたいです。 リアクションあるとはげみになります。 メッセージ添えて頂けたらなお嬉しいです。