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手のひらで感じる幸せ

文具の類に特別ときめきを覚える。ガラスペン、万年筆、書き心地のよいボールペンのような筆記用具に始まり、ノート、メモ、手帳、便せん、封筒のような紙モノ、その他マスキングテープ、はさみ、カッター、スタンプ、色鉛筆、色ペン……などなど。

ちなみに我が家にはどれも売るほどある。

好きすぎてどうしても買い集めてしまう。書き心地のよいボールペンは、いざという時にインクがなくなるのが怖いので、替芯もいっぱい買ってある。家用と持ち歩き用でそれぞれ用意しているものもある。お気に入りは外でも使いたいのだ。

これらは私にとってただの道具ではなく、手のひらで感じる幸せそのものなのだ。繊細なガラスペンの先をそっとインクにひたす時、お気に入りの万年筆を洗う時、時間がいつもよりゆっくり、静かに流れている気がする。好きな色のインクで文字を書くと、自分の字に愛着が湧く。伸ばした線からインクがたまるところにかけてのグラデーションも実に美しい。時間をかけて準備をして綴る文字は、前向きな言葉が多いように思う。日常にあるちょっとした嬉しい発見や、楽しかったできごとはもちろん、反省文であったとしても、明日へとつながる言葉が綴ってある。

実は以前は、薄手の手帳に、主に仕事に関する愚痴や自分の不甲斐なさを、荒れた文字で夜な夜な綴っていた。自由に文字を書ける部分はそれほど多くはなかったのだが、きっちりと毎日欠かさず書いていた。手帳だけが気持ちを吐き出す場所だった。数年後に押し入れを片付けた際古びたダンボールの底から古い手帳が出てきて、ふと読み返してみたが、自分で書いておいてこんなことを言うのもなんなのだが、あまりに辛そうで苦しくて、押し入れの前でへたりこみ涙が溢れた。これはいけないと、思い切ってある時数年分まとめて手放した。後悔はしていない。スピリチュアルなことはあまり信じないタイプだが、その日記を手放した頃から、人生がちょっと良い方に回り始めたような気はする。

今は朝方に万年筆を手にしていることが多い。もう9年目になる『5年日記』の2冊目の4段目に、お天気マークのスタンプを押し、昨日の出来事を書くところから私の朝は始まる。一晩おくことで嫌なことよりも、たとえ1日寝てばかりだった日でも、前向きに「ゆっくり休めた」などと書いている。万年筆のインクがなくなる頃には透明のグラスに水を張って、インクの色を替えるために、ペン先を浸してコンバーターをくるくる回し、古いインクを洗い流す。朝日を浴びてことさらに透き通った水に、煙のようにインクが溶けだす。何回か水を替え、グラスの水がほとんど透明のままになるまでこの作業を繰り返す。この静かな儀式のような時間が、私はとても好きだ。気持ちも洗われるような気がする。一通り儀式を終え、柔らかい布の上で数日乾かす。そうしたら、次はどの万年筆に何色のインクを入れようかと悩む、これまた幸せな時間がやってくる。万年筆は一本ずつそれぞれに書き味が違い、同じインクでも色の出具合が違う。お気に入りの組み合わせを選んだり、ちょっと冒険してみたりと様々な楽しみがある。この日は淡いピンク色の軸に一目惚れして買ったLAMY×伊東屋コラボの限定万年筆に、神戸インク×フェリシモコラボの、これまた限定色のストロベリーチョコレートというくすんだピンク色のインクを入れた。とても春らしい組み合わせだ。万年筆を使い始めて結構な年数になるが、未だにインクを入れるのは少し苦手で、大抵手を汚してしまう。手を拭いたティッシュに滲んだインクは、書き文字よりもよっぽど濃く色を主張していて、力強ささえ感じる。

黒一色のボールペンで、呪詛のように今日の出来事を誰もいない夜中の薄暗い部屋で綴っていた頃とは違い、確実に自分の心には穏やかなさざ波が寄せてきている。

ちなみに、よく行く文具屋は、万年筆、ガラスペンをはじめ、様々な可愛い雑貨的な文具も売っている。近くを通ると吸い寄せられるようにふらふらとお店へ入ってしまい、想像以上に散財していることも多い。「今日は見るだけ」の敗北率は9割を超えている気がする。こじんまりとしたお店だが、紙やインクの香りが心地よく、静かな店内では何時間でも過ごせてしまう。こういう時間が自分を大切にしているようでたいへん心地よい。様々な商品を見ていると、次はどれをお迎えしようか……という気持ちになる。ひそかに増え続ける文具類に、パートナーはやや怪訝な顔をするので、私は今日もこそこそと禁断の文具屋巡りをしている。

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滝川隼 │ 【す-25】文学フリマ大阪14(9/13) 頂いたチップを貯めてカフェで執筆します!