スーパーバンタム級世界戦 井上尚弥 vs アラン・ダビド・ピカソ
2025年12月27日、サウジアラビアのリアドでWBA、WBC、WBO、IBF世界スーパーバンタム級防衛戦が統一チャンピオン井上尚弥とWBC2位アラン・ダビド・ピカソの間で行われた。
結果は井上尚弥から見て120-108、119-109、117-111の大差で判定勝利。
試合の技術解説は元プロボクサーやディープなYouTuberの人に任せるとして印象を書いていく。
-2025年1月:
対戦相手のキム・イエジュンは負傷のSam Goodmanの代役。「誰?」感が否めない選手だったので危なげなく4回に右ストレートでKO勝ち。ここまではあまり違和感はなかった。
-2025年5月:
WBA2位のラモン・カルデナス戦はスッキリしなかった。2ラウンド目に喫したダウンが要因ではなくその後の内容に違和感があった。
一つ目はカルデナスのパンチで後退させられたこと。井上が自分で下がったのではなく、ちょっと飛ばされた感じで今まで見たことがない。
二つ目はカルデナスに打ち込まれて効かされていたこと。7回にカルデナスのフックやボディでロープまで下がらされて亀のようになっていた。

これまでも井上尚弥がガードを固めて打たれるor打たせる場面はあったが、明確に効いていたのはドネア1の9ラウンドの右くらいだと思う。
ただ、井上尚弥は同じラウンドに盛り返して右ストレートでダウンを取っていたので、ただ単に打たせていただけかも知れないけれど。。。
三つ目はパンチの効き具合。結果は8回レフリーストップによる井上のTKO勝ち。6、7ラウンドと井上が押し込みコーナーに詰めて終了したが、ゴングが鳴るとカルデナスは何事もなかったようにコーナーに戻った。被弾数の割には効いてない印象だった。8回は井上尚弥が連打でコーナーに詰められたカルデナスが防戦一方になりTKO。ノックアウトではなかった。
2025年9月:
アフマダリエフ戦は判定勝ち狙いのボクシングのためKOはない。12ラウンドを通じて非常に楽しそうに戦っていたのが印象的だった。ただ、6ラウンドのボディ3連発を始め何発かいいパンチを当てていたが、アフマダリエフはよろけたりはしなかった。他の選手なら倒れていたという論調もあるがどうだろう?
2025年12月27日:
ピカソとの試合は帰国後の記者会見で、試合前のバンテージの巻き方の件や控室での大騒ぎで集中力を欠いていたと言っていた。他にも色々とあったかも知れないが、ピカソ陣営には全く敬意が感じられず、試合前からモチベーションもだだ下がり。試合が始まり、ピカソのパンチ力の無さも実感し無意識に対応がおざなりになったかも知れない。大体において、全く楽しそうではなかった。
それでも井上は12ラウンドに倒しに行き被弾しながらもいいパンチを当てた。が、12ラウンドを通してどちらも効いたシーンは見られなかった。
ピカソはガードを高く上げて頭を低くして顔からボディをカバーしながらの戦いだった。ピカソの脳を揺らすパンチは出なかったが、倒れそうなボディは何発か当たっていた。
それでも、ピカソは倒れなかった。

井上尚弥もピカソのパンチを何発か被弾していた。「ボクシングアカデミー」のつね氏によると今回の試合でいつもより多くパンチを貰っていた。数としては10発くらいだそうだ。

他の色んなタイプの配信者達も危険なタイミングでの被弾を指摘している。これがパンチのある相手だったらやばかったと。
12ラウンド終了のゴングが鳴ったとき井上尚弥はピカソとファイトを讃えるハグはしなかった。ピカソは大きく両手を上げ井上は対象的に俯いて自分のコーナーに戻った。こんな12ラウンドの終え方は見たことがない。
因みにRing誌の試合後のインタビューでピカソは5つのことを言っている。
1. 今まで1番タフな試合だった
2.自分が負けたとは感じていない
3.ラストの数ラウンドは自分の方が良かった
4.井上のパンチはもっと爆発的だと思っていた
5.もっと強くなってチャンピオンを目指す
パンチが効かない要因を「階級の壁」という人が多いが、フルトン、タパレスやネリはノックアウトした。バンタム級だったら一発で倒せたところを何発か要するようになったというは分かるが、カルデナス、アフマダリエフ、ピカソが倒れなかったのは井上尚弥側の変化なのではないだろうか?
衰えなどではなく、タイミングとか角度とか当てる位置のずれとか拳のスィートスポットがずれているとか体重移動の仕方が変わっているとか技術的なヅレがおこってはいないだろうか?
被弾が増えたのも事実かも知れない。が、今回は意図せずに被弾回避意識がさがったのか全く反応していないパンチもあった。とは言え、今回も明らかに効かされているパンチはなかったようだ。ピカソのパンチ力の無さを見切ってのことかも知れない。
誰しも全くパンチを貰わない訳ではない。井上尚弥は元よりガードはあまり上手くない。どの試合でもガードを上げてわざとパンチを受けるようなシーンがあるが、ガードが効果的でなく少なからず無駄にダメージを受けているように見える。いずれにしても被弾の仕方も旧来とは変わってきている。
井上尚弥本人も言っているように、彼はパワーパンチャーではなく、スピードとタイミングで倒すボクサーだ。年齢を重ねるにつれ、体も20代の頃とは違ってきているとも言っている。アフマダリエフ戦でのパフォーマンスは判定勝ちを目指したために、深追いせず致命的な被弾を避ける闘いだった。ピカソ戦ではKOを狙っていたがKOに繋げる契機を見出せなかったのだろう。階級を上げたこと、年齢を重ねたこと、3ヶ月毎に試合をしたこと、10日前まで井上拓真のサポートをしていたこと、無意識下での油断、試合直前の騒動が相まって心身のバランスが崩れて、ベストパフォーマンスが出せなかった。
井上尚弥がピークアウトしているとかではなく、階級、技術、パワー、スピード、スタミナ、精度、集中力が試合毎に変わる中でそときのベストを如何に引き出せるかがポイントになってくると思う。
井上尚弥には引退まで無敗で行って欲しいし、爆発的なKO勝ちをして欲しいが、何よりも勝ち続けて欲しい。毎回その時のベストパフォーマンスで勝ちきって欲しい。
世界戦32勝の新記録まで後4勝。中谷潤人戦にしろ、フェザー級のタイトルマッチにしろ、これからも高い壁を越えようとする姿勢は本当にすごい。
