海外編 アントワープと聞いて、最初に思い浮かんだのは犬だった。
アントワープと聞いて、何を思い浮かべるだろう。
ダイヤモンド。
港。
あるいは画家ルーベンス。
ベルギー第二の都市アントワープは、ブリュッセルから電車で40分ほどの場所にある。
でも正直に言うと。
僕が最初に思い浮かべたのは犬だった。
パトラッシュである。

旅は駅から始まる
アントワープ中央駅は、世界で最も美しい駅のひとつとも言われている。
駅に着いて最初に思ったのは、
「これは本当に駅なのか」だった。
大きなアーチ。
重厚な装飾。
駅というより宮殿に近い。
旅の始まりには十分すぎる駅だった。

広場へ向かう
駅から歩く。
広場へ出ると、市庁舎が正面に現れた。
石畳の上を観光客が行き交う。
歴史ある建物が並んでいるのに、不思議と堅苦しさはない。
歩く速度が少し違う。
そんな街だった。

会いに来たのは犬だった
それでも。
一番足を止めたのは有名な建物ではなかった。
広場の片隅で眠る、一人の少年と一匹の犬。
ネロとパトラッシュ。
子どもの頃に見た『フランダースの犬』。
内容はほとんど覚えていない。
それでも名前だけは忘れていなかった。
だからアントワープに来ると決めたとき、
街並みより先に、この犬を思い出した。

またひとつ、思い出が増えた
少し意外だったのは、
この物語が日本ほどベルギーでは有名ではないという話だった。
日本では物語は知らなくとも、名前は結構知れ渡ってる。
でもベルギーではそうでもないらしい。
1970年代の世界名作劇場の文化があった。
母をたずねて三千里
赤毛のアン
あらいぐまラスカル
フランダースの犬
みたいな。
その中でもフランダースの犬は
「泣くアニメの代表格」
になった。
だからベルギーの物語というより、
日本のテレビ文化の一部になっただと思う。
不思議なものである。
ベルギーまで来た。
でも海外にいながら、日本で見た、再放送なのか、特番なのか記憶は曖昧ながら、フランダースの犬のワンシーン。
雨が降り始めた広場をあとにする。
帰りの電車の中で、
久しぶりに『フランダースの犬』が見たくなった。
旅先で見た景色より、
そこで思い出した記憶の方が強く残ることがある。
そんな旅も、悪くない。
アントワープは、
そう思わせてくれた街だった。
