【雑記】「遠回りに見える練習が、いちばんの近道」― 指・リズム感・音感はどう育つのか ―
レッスンやSNSで、指の弱さや音感、リズム感に関するネガティブな声をよく見かけたり聞いたりしますが、誰もが最初は指も弱いし(特に4と5)リズム感も曖昧だし、音感に関しても、コツコツと積み重ねていくことで少しずつ克服出来ることなんだ、ということを知ってもらえたらと思い、このテーマで記事を書きたいと思います。
まず、4と5の指が弱いのは、人間として普通のことです。
日常生活で、4の指を使って何かをすることはありますか?5の指を使ってボタンを押したり、ドアを開けたりしますか?しませんよね?私はしないです。あ、たまに取っ手のあるドアを引くときに、小指を引っ掛けて開けたりすることはあるなぁ…。まあでも、滅多にしませんね。
日頃から単独で使うことがない薬指や小指が弱いのは誰でも同じです。人間の手の構造として、もともと動かしにくい指、力が入りにくい指です。
ところがですよ?
ピアノをしばらく続けていると、やたらと4と5を鍛える練習が増えていきます。それはなぜでしょう?
それはですね、ピアノ曲はだんだんと、1人オーケストラ状態になっていくからです。
1人でメロディーも内声もベースも、時に対旋律までも全部1人で弾きます。そうなると自ずと外側にメロディーがくることが多くなります。外側を担当する指は?
そうですね、一番動かしづらい4と5の指です。
この外側の2本も含めて綺麗にメロディーを奏でることが、だんだんと必要になってくる。それまでに少しずつ指を鍛えておく必要があるので、ある程度ピアノのレッスンを続けると「指の独立」を目的とした練習や練習曲に取り組みます。元々動かしづらく作られている4と5の指を少しずつ「ピアノを弾く指」に育てていく必要があるからです。
こういった日々の練習や訓練なしに、ある日突然指が強くなったり、日常生活を送っているだけで急に指が独立したりすることはありません。
ということは、こういった練習を積み重ねれば、今は動きづらさを感じている指も、いつか動くようになるということです。外側にあるメロディーを4と5の指も含めてしっかり奏でられるようになる日が必ず来ます。
ここで気をつけなくてはいけないのが、少しずつが基本です。
すぐに出来るようにしたくて、4と5の指を鍛える練習を何時間も一気にやってしまったら、徐々に身体(指)に無理がきて、それが故障の原因になってしまいます。ピアノの怖いところはここなんです。真面目な人ほど出来ない状態が続くことに耐えられなくて身体(手)を壊すほど練習してしまう。普段しない指の動きをして、使わない筋肉を急に使っているということが、最初は大丈夫でも徐々に負担が蓄積され、ジワジワと痛みを感じてしまうことになり兼ねない。これがピアノの怖いところなんです。(2回言いました…)
無理をせず時間をかけて積み上げていけば、外声のメロディーを綺麗に奏でられる指が作られていきますので、くれぐれも焦らず、ストイックになりすぎずに4と5の指を強化する。
それは誰もがコツコツと続けることで出来るようになること、のひとつです。
慣れるまでは違和感(痛み)を感じたらすぐに弾くのを止める癖がつけられると良いと思います。
リズム感や音感についても同じです。
生まれつき得意な人はいますが、得意な人でも学習中(生徒でいる期間中のことです)に継続した訓練を欠かすことはないですし、多くの人は育てていくことで身につけられるものです。私も学習中は週1回のソルフェージュのレッスンで、時に笑ってしまうくらい難しい課題に取り組んでいました。元々運動神経も反射神経もなかったので、今の自分のリズム感はほぼ純粋なソルフェージュ教育の賜物だと思っています。(悲惨なほど運動&反射神経がナイ…危なすぎて周りが止めるレベルです…)
リズム感や音感が良くなるために必要なことは、拍を感じ、音程を聴き分け、ズレに気づくこと。これはなかなか自分だけで改善していけることではなく、ソルフェージュのレッスンを受けること、また楽器のレッスン中に先生からソルフェージュ的な視点からの指導をして頂くことで、またそれを長い期間繰り返し経験していくことで身についていきます。
「元々持っていないから無理」ではなく、
「まだ育てていないだけ」ということがほとんどです。
これは、一見厳しく聞こえることかも知れませんが、私の例を見ても分かるようにとても現実的で希望のある話だと思います。ながーくやっていればそれなりに出来るようになりますよ。諦めずに出来るようになるまでながーく、です。
音楽には最初から出来ないことでも、慣れていくことで、また積み重ねていくことで出来るようになることが実は沢山あります。それを知らずに自分を否定してしまうのはとても残念なことだなぁと思ってしまいます。
何より、今現在、ソルフェージュのレッスンを継続している生徒さんたちが、「出来なかったことが出来るようになってきた」をリアルに目の前で見せてくれることが増えてきて、やはり音楽は年齢は関係なく、積み重ね、継続は力なりなんだなぁ、と思っているところです。
それにしても、なぜ音楽は「近道」を探したくなるのでしょう?
恐らく練習してもすぐには結果が出ないし、上達しているかどうかの実感が持ちにくいし、何が正解なのか分かりにくい、という特徴があるからかなぁと思います。
そのため、「簡単に出来るようになる方法」や「これをやれば上手くなります」といった、近道のようなものを探したくなるのかも知れません。特に大人から音楽を始めた人は、もっと音楽はラクに楽しく出来るはずなのに、こんなに大変だということはやっぱり自分には才能がないし、年齢的に時間もないから早く弾ける方法を見つけなくちゃ…!と更に真面目すぎる人は焦って練習メニューにないものを勝手に自主練とかしてしまったり…。これは絶対にダメですよ。学習中は自己流が一番怖いことなんです。一度ついた癖を直すには倍の時間がかかりますから、先生の負担とレッスンの進むペースを考えたら、それは絶対やっちゃダメなことです。「近道に見える遠回り」の代表的なことですからね。
音楽をやっていて、結果がすぐに出ることって本当に少ないですし、理解するまでに下手したら何年もかかったり(いやこれは私だけかも知れない…)、時に本番は練習を裏切ることもあるし、楽しいと感じられることの方が少ないような状況に陥ってしまうこともあります。
それにピアノという楽器は、数年続ければプロのように弾けるようになる、という楽器ではありません。よく一般的に言われるのが「10年でスタートライン」、これは本当にそうで、よほどの天才的な才能がある人でなければ、それなりの演奏が出来るようになるまでに10年はかかるのが普通です。
私自身、7歳からピアノの個人レッスンを始めて10年後の17歳、発表会ではショパンのバラード3番を弾きました。この曲が自分にとっての初めてのショパンだったので、ピアノと初めましてをしてから、ショパンと初めましてをするまでに、ちょうど10年かかっています。
自分でも本当にそこがピアノのスタートラインだと思っていて、17歳から大学の上を卒業した26歳まで。そこもやはり約10年かかっていますが(正確には9年)、そこでの学びは自分にとって一番「ピアノを弾く」ということについて考え、ピアノを通して音楽を深く学んだ、内容の濃い期間でした。最初の10年で基礎をしっかり身につけていなかったら、ついていくことは不可能なレッスン内容でした。
それと、色々な意見があるのは承知ですが、私は自分の実体験からも「ピアノを弾く体は、ピアノを弾くことでしか作れない」と思っています。
指の独立
音量のコントロール
タイミングの正確さ
これらはすべて、鍵盤の上で音を出しながら身につけていくもの。このご時世情報が溢れ、いろいろな練習方法を見かけることもありますが、結局のところ、ピアノを弾くことでしか、ピアノを弾く身体と指は作られません。
これは理屈だけではなく、自分の実体験としても揺らぐことのない想いです。(なんでやねん、と思った方は私のバレエピアノの仕事エッセイをお読み下さい)
楽器演奏においては遠回りに見えることが、実はいちばんの近道なんです。
ゆっくり弾くこと、同じところを何度も練習すること、自分が出している音をよく聴くこと、基本を大切にすること。こうした練習は、やっている最中は「進んでいない」ように感じ、時間だけを溶かしているような、そんな気持ちになることもあるかも知れません。
しかし、あとから振り返ると本当に力になっているのは、大抵このような地道な練習だったと感じます。ソルフェージュでもそうです。何のためにやるのかよく分からない、毎回同じ事の繰り返しのようなレッスン課題。実はそれが基礎(下地)を作るのに欠かせない積み重ねだったのだと、今だからこそ分かります。
音楽は不思議で、遠回りしているように見えることが結果的に近道になり、近道しようとしたことが遠回りになってしまうことがよくあります。
大人からピアノを始めた方々が、「こうすればすぐに出来るようになります!」というような言葉に惹かれてしまわないように、と切に願っています。
結局のところ少しでも上達する近道は、当たり前のことを、当たり前にやるしかない。私は音楽をやっていて魔法のようにすぐ出来るようになった経験がないので、そういった非現実的な教えは出来ませんが、最初は出来なかったことが続けることで出来るようになったということは沢山経験があるので、そういう地道な教えをしていきたい、あとで後悔しない教えを伝えていきたいと思っています。
リズム感も音感も指の動きも、鍛えなければ身につきません。
それは厳しい現実ですが、同時にとても公平な現実でもあると思いませんか?
特別な才能がなくても、特別な裏ワザがなくても、毎日少しでも指を鍛える練習をして、自分の音をよく聴き、聴ける耳を育てるためにソルフェージュを知って、好きな曲ばかり取り組むのではなく、好きな曲が弾けるようになるための地味な練習も続ける。
音楽は、ちゃんとやろうとすると、決して楽に手に入ったり、すんなりと楽しめるような世界ではありません。
しかし、やったことは必ず自分の力になり、後の自分を助けてくれます。
やった分だけきちんと返ってくることを実感出来るのはとても先の未来になりますが、遠回りに見える道が、実は一番確かな近道だった。
学び続けた先の未来にそう思いたくありませんか?
この記事の中には厳しい言葉があったかも知れませんが、私は音楽をラクに出来る簡単なものだとは思っていません。だからこそ、その素晴らしさを伝えたい。
そういう思いでレッスンをしています。(て、ここに着地してしまってすみません~)
時間をかけずにすぐに出来るようになりたい方や、すぐに答えを教えてもらいたい方には少し難しいレッスンかも知れませんが、自ら疑問を持ち、自ら考え、聴く力を身につけ始めている生徒さんたちを見ていると、弱い指もリズム感も音感も、正しく鍛えることが大切で、それが唯一であり1番の近道なのだと改めて感じています。
作編曲家&ピアニスト
music chocolate
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