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たった2公演のブロードウェイ——サブリナ・カーペンターとミュージカルの、まだ終わらない話

2024年4月、コーチェラの砂漠に立ったサブリナ・カーペンターは、ステージを締める「Nonsense」のアウトロでこう宣言した。「コーチェラ、また来るよ——ヘッドライナーとして」。

当時、その言葉を本気にした人がどれだけいたかはわからない。しかし2026年4月10日、たった2年後に彼女は本当に戻ってきた。「Sabrinawood(サブリナウッド)」と銘打たれたヴィンテージ・ハリウッドを砂漠にまるごと持ち込む形で。

この記事では、ひとりのミュージカル・ファンの視点から彼女のキャリアを追ってみたい。ポップ系メディアでは意外と語られない軸——ミュージカル・シアターとの縁——を手がかりに。


ミュージカルの申し子として育った幼少期

1999年5月11日、ペンシルベニア州クエイカータウン生まれ。母はダンサー、父はミュージシャンというアーティスト一家で育ち、6歳からボイストレーニングを開始した。

10歳になる頃にはYouTubeにクリスティーナ・アギレラやアデルのカバーを投稿し、父親が自宅にレコーディング・スタジオを建設するほど家族は本気で向き合った。

2009年にはマイリー・サイラス主催のオーディション番組「The Next Miley Cyrus Project」に参加して3位入賞。これがディズニーとの縁を結ぶ契機となる。ただ興味深いのは、それよりも前の2011年、まだ12歳のサブリナがカリフォルニアの舞台「The Music Man」に立っていたことだ。

2014年、ドラマ「Girl Meets World」でマヤ・ハートを演じてブレイク。同年Hollywood Recordsと契約し音楽活動も本格化した。2015年にはパサデナ・プレイハウスで「Peter Pan & Tinker Bell: A Pirate's Christmas」にも出演している。テレビ・音楽・舞台——三つのフィールドを同時に走り続けていた10代だった。

ピアノ、ギター、ベース、ウクレレ、ドラムを演奏でき、「Espresso」や「Please Please Please」など自身の楽曲の作詞・作曲にも携わっている。テレビ・音楽・舞台の三フィールドを掛け持ちした10代が、そのマルチな土台を作っている。


たった2公演のブロードウェイ・デビュー

2020年3月、サブリナのキャリアに大きな転機が訪れる。ブロードウェイのヒット作「Mean Girls(ミーン・ガールズ)」で主人公ケイディ・ヘロンを演じるオファーだ。

ティナ・フェイ脚本、ケイシー・ニコロウ演出。レネー・ラップが初代レジーナ・ジョージを演じ、複数のトニー賞ノミネートを獲得していた話題作への抜擢で、当初の契約は14週間だった。

ニューヨークで約3ヶ月にわたる稽古を積み、3月7日に初日を迎えた。しかしその翌日、COVID-19のパンデミックによりブロードウェイ全体が閉鎖される。「Mean Girls」はその後再開されることなく2021年1月に閉幕が正式決定。彼女がブロードウェイのステージに立ったのは、たった2公演だった。

本人は2024年のCBSサンデー・モーニングのインタビューでこう振り返っている。

「3ヶ月間稽古して、最初の2夜が終わったらコロナが来た。謙虚にさせられた。週に8公演こなせると思っていたのに、気づいたら静寂だけが残っていた」

しかし彼女はこの挫折を糧に変えた。コロナ禍の自宅待機期間中に制作へ没頭し、2022年のアルバム「Emails I Can't Send」へと結実させる。ブロードウェイの「静寂」が、ポップ界の覚醒を準備した。

サブリナのポップスターとしての立ち振る舞いを見ると、興味深いことに気づく。毎公演ごとに「Nonsense」のアウトロ歌詞を変えてその都市のネタを入れる仕掛け、手の込んだ衣装転換と精緻なステージ演出、観客を巻き込むコメディのタイミング——幼少期から舞台に立ってきた人間の感覚が、ここに滲んでいるように見える。


「Espresso」と2024年コーチェラ——伝説の前夜

2021年にIsland Recordsへ移籍後、2022年リリースの「Emails I Can't Send」でシングル「Nonsense」がTikTokで火がつき、「知る人ぞ知る」から「次世代の顔」へ評価が急転換した。

2023年にはテイラー・スウィフトのエラズ・ツアーのオープニング・アクトとして世界規模の観客の前に立ち、新たなファン層を獲得。そして2024年4月のコーチェラ、サンセット枠で出演した彼女はその前夜にひっそりと「Espresso」をリリースしていた。

当日の会場でその曲を知っている人はほとんどいなかった。それでも彼女は自信たっぷりに披露し、「Nonsense」のアウトロで宣言した。「コーチェラ、また来るよ——ヘッドライナーとして」。

その後の展開はご存知の通りだ。「Espresso」はSpotifyで22億回以上再生され、6thアルバム「Short n' Sweet」は全米Billboard 200で首位を獲得。2025年グラミー賞では最優秀ポップ・ボーカル・アルバム賞と最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンス賞を受賞した。7thアルバム「Man's Best Friend」(2025年8月)も全米1位。2年で「時代のポップ・アイコン」になっていた。


「Sabrinawood」——2026年コーチェラ・ヘッドライナー公演

2026年4月10日午後9時5分、メインステージに「Sabrinawood」の幕が上がった。約90分・全20曲のセット。事前のインタビューで「これまでで最も野心的なショー」と語った通りの夜だった。

オープニングはモノクロの短編映像から始まる。サム・エリオット演じる謎めいた警官に車を止められ、サブリナが「Sabrinawood」へと向かう物語が幕を開ける。ハリウッドのウォーク・オブ・フェームを模したキャットウォークを歩き、「House Tour」でステージへ。

ハリウッドヒルズを模したバックドロップに始まり、レコーディング・スタジオ、ダイブ・バー、ダンス・スタジオへとシーンが変わる構成は、ミュージカル映画を含むクラシック・ハリウッドへのオマージュで貫かれていた。

豪華な俳優陣のカメオも話題を集めた。スーザン・サランドンが「年老いたサブリナ」としてスターダムの代償を語る約7分のモノローグ、「Girl Meets World」共演者コーリー・フォーゲルマニスの登場、ウィル・フェレルが電気工として現れ照明トラブルの「修理」を試みるコメディ・シーン、サミュエル・L・ジャクソンのスピリチュアル・ガイドによるボイスオーバー——これだけの俳優陣を揃えた演出は、ポップ・コンサートというよりハリウッドの映画撮影現場を舞台ごと持ち込んだかのようだった。

ボーカルについてはVarietyが「90分を通じてほぼ完璧」と評価。ヒール・ブーツのままトレッドミルを前後に歩きながら「My Man on Willpower」を歌いきり、「Manchild」ではプードルとダルメシアンのコスチュームを着た男性ダンサーの群れをかき分けながら、絶妙なタイミングのコメディを演じた。

フィナーレも見事だった。ステージ上の車が噴水に変身し、サブリナが水しぶきを浴びながら退場。スクリーンには映画のエンドクレジットのようにダンサーや演奏者の名前が流れる。ステージのマーキーには「Icon in Motion(動き続けるアイコン)」の文字が点滅した。

なお、サランドンのモノローグについてはVarietyが「奇妙」と評した一方、ファンからは「伝説的」と絶賛する声もあり、賛否を生んだ。また「Feather」のパフォーマンス中に客席からの歓声をヨーデルと思い込んでからかう場面があり、それがアラビアの祝賀の声(ザグルータ)だったとして後に謝罪するという一幕もあった。

Billboardは「短期間でこれだけのヒット・カタログを築いたことに驚かされる。最新2枚のアルバムだけで、ヘッドライナーとして十分なセットリストが組める」と書いた。


これから——「Alice in Wonderland」とブロードウェイ

コーチェラ2026の大成功を経て、あらためて彼女のこれからを考えたい。

まず注目されるのが、ユニバーサル・ピクチャーズとの映画ミュージカル「Alice in Wonderland」だ。2025年11月の発表時、主演と製作総指揮を兼任することが明かされた。プロデューサーには「Wicked」シリーズのマーク・プラット、脚本・監督には「Hustlers」のロレーン・スカファリアが就く。

実はこの企画は2020年に遡る。当時彼女はNetflixとの間で、音楽フェスを舞台にした現代版アリス映画の構想を進めていた。パンデミックで立ち消えになったが、5年越しにより大きなスケールで復活したのが今回のユニバーサル版だ。「アリスは子どものころから大好きな映画。アリスは夢の役」と以前から公言し続けていた彼女にとって、念願のプロジェクトといえる。

ブロードウェイについても、彼女の言葉は変わっていない。2024年に「また機会があれば戻りたい」と答えており、2025年1月にはトニー賞受賞者ローレン・パテンらが出演するショーケース「STRIPPED: SABRINA CARPENTER」がブロードウェイ周辺で上演され、彼女の楽曲がミュージカル・ナンバーとして成立することが改めて示された。

ポップスターがブロードウェイにゲスト出演する例は少なくない。多くは「スター・キャスティング」という話題性の論理で語られる。サブリナの場合は少し文脈が違う。12歳での「The Music Man」から始まる舞台経験、3ヶ月に渡る「Mean Girls」の稽古、自ら企画・主演するミュージカル映画——これは話題作りのための「立ち寄り」ではなく、ずっと続いてきたひとつの流れだ。

彼女はポップスターになってからミュージカルに目を向けたのではなく、ミュージカルを愛したままポップスターになった。この順序が、今後の動向を注目させる理由だ。


おわりに

2009年、10歳のサブリナ・カーペンターはオーディション番組で3位に終わった。2011年、12歳でミュージカルの舞台に立った。2020年、ブロードウェイ・デビューはたった2公演で幕を閉じた。2024年、誰も知らない曲を披露しながら「ヘッドライナーとして戻る」と宣言した。

そして2026年、砂漠に「Sabrinawood」を建設した。

次は「Alice in Wonderland」の映画ミュージカルが待っている。そしていつかブロードウェイに彼女の名前が再び掲げられる日が来るとしたら——あの2020年3月の2公演は、長い物語のプロローグに過ぎなかったことになる。


参考リンク

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