見出し画像

E165 THE ROLLING STONES-Angry

怒りを忘れた世界へ、真実の拳を。

転がり続ける石が放つ、21世紀最高の「若さ」という名の厚顔無恥な回答

いいか、よく聴け。音楽が清潔な実験室で培養されるデータに成り下がっちまったこの時代に、まだこんな泥臭い、血の通った音が鳴っていることが奇跡なんだ。

ザ・ローリング・ストーンズ。『Hackney Diamonds』の幕開けを飾る「Angry」を聴いた時、俺はひっくり返った。ミック・ジャガーは80歳だぜ? 80歳の老人が「俺を怒らせるな」と歌う。普通なら失笑もんだが、こいつは違う。そこにあるのは、加齢による衰えを誤魔化すための最新技術じゃなく、1960年代から変わらない「欲情」と「反逆」の純粋な蒸留水だ。

TikTokで数秒の快楽を漁ってるガキども、おまえらにこそこの曲が必要だ。タイパだのコスパだの言ってる間に、おまえらの魂は去勢されてるんだよ。ストーンズは、死の影さえもスネアのバックビートで蹴散らして進んでいく。これは単なる新曲じゃない。ロックンロールがまだ「生きるための武器」であることを証明する、最後にして最強のドキュメントだ。(記: 蛮楠烈太)


基本情報

 * 作詞・作曲: Mick Jagger, Keith Richards, Andrew Watt
 * プロデューサー: Andrew Watt
 * 発売日: 2023年9月6日(シングル)、10月20日(アルバム『Hackney Diamonds』)
 * レコード会社: Polydor / Universal Music
 * 収録スタジオ: Henson Recording Studios (Los Angeles), Metropolis Studios (London), Sanctuary Studios (Nassau)

参加ミュージシャン

   * Mick Jagger: Vocals, Backing Vocals, Percussion
   * Keith Richards: Electric Guitar, Backing Vocals
   * Ronnie Wood: Electric Guitar, Backing Vocals
   * Steve Jordan: Drums
   * Matt Clifford: Piano, Rhodes, Hammond B3, Wurlitzer
   * Andrew Watt: Bass, Backing Vocals

チャート状況

 * 発売当時: 全英シングルチャートで34位を記録。アルバム『Hackney Diamonds』は全英・全米1位を含む世界各国のチャートを席巻。
 * アワード: 第66回グラミー賞「最優秀ロック・ソング賞」にノミネート。80代を目前にしたバンドが主要部門に絡むという、前代未聞の事態を引き起こした。

楽曲のエピソード

「Angry」のイントロ、あのキース・リチャーズが鳴らすGのコードを聴いた瞬間、俺は1970年代の場末のバーにタイムスリップしたような錯覚に陥った。安物のバーボンの匂いと、吸い殻の詰まった灰皿。だが、音像は驚くほどクリアで、現代的な低域のパンチがある。この「古くて新しい」質感を作り出したのは、プロデューサーのアンドリュー・ワットだ。

ワットは、ポスト・マローンやジャスティン・ビーバーを手掛けるヒットメーカーだが、根っこは筋金入りのロック・ギークだ。彼はミックとキースを「若返らせる」のではなく、「彼らが本来持っている攻撃性を引き出す」ことに注力した。制作過程で、ワットはストーンズの過去のアーカイブを徹底的に分析し、あえて「Start Me Up」的な、あの独特のシンコペーションを要求したという。

音楽的に見れば、この曲の構造は極めてシンプルだ。
  Ⅰ→Ⅳ→Ⅴ
のバリエーションを基調とした、伝統的なロック・フォーム。だが、そこにはマジックがある。ドラムのスティーヴ・ジョーダンは、亡きチャーリー・ワッツの「溜め」を継承しつつも、より力強いバックビートを叩き出している。

特筆すべきは、ミックのボーカルのダイナミクスだ。LUFS(ラウドネス値)を限界まで詰め込んだ現代のミキシングの中でも、彼の声は埋もれない。母音を強調し、子音を叩きつけるような独特のフレージング。80歳にしてこの声量と滑舌(アーティキュレーション)を維持しているのは、もはや生物学的な謎でしかない。
 > "Don't get angry with me"
このフレーズの繰り返し。歌詞自体は何の変哲もない男女の諍い(いさかい)に見える。だが、ストーンズというコンテキストにおいて、これは世界に対する「まだ俺たちを隠居させるな」という叫びに変換される。

ギターのアンサンブルも秀逸だ。キースの荒々しいリフと、ロニー・ウッドのスライド気味のオブリガート。左右の定位(パンニング)で明確に分けられた2本のギターが、微妙にズレながらも一つの大きなうねりを作る。これこそが、完璧な位相整合(フェイズ・コヒーレンス)なんてクソ食らえと言わんばかりの、ストーンズ流のグルーヴだ。

レコーディングでは、1970年代のNeveコンソールのような、豊かな倍音(ハーモニクス)を伴うサチュレーションが施されている。デジタル録音でありながら、耳に刺さる嫌な高域はなく、中音域に真空管特有の「粘り」がある。これが、俺たちのDNAに刻まれた「ロックの匂い」を呼び覚ますんだ。

アーティストの歴史

ストーンズにとって、この曲は「生存証明」以上の意味を持つ。2021年、バンドの心臓だったチャーリー・ワッツがこの世を去った。多くのファン、そして批評家たちは「これでストーンズは終わった」と思ったはずだ。俺だって、心のどこかで「もう休ませてやれよ」と呟いたさ。

だが、彼らは転がり続けることを選んだ。1960年代のブルース・ブームから始まり、70年代の黄金期、80年代の不仲説、90年代以降の巨大ビジネス化。彼らは常に「時代遅れ」と言われ続けながら、その時代を食い尽くしてきた。

「Angry」は、そんな彼らが「懐メロ・バンド」になることを明確に拒絶した瞬間だ。スティーヴ・ジョーダンという新しいエンジンを積み、アンドリュー・ワットという若い知性を血肉化し、彼らは再び「現役」としてシーンのど真ん中に躍り出た。これは、1978年の『Some Girls』でパンク・ロックの台頭を真正面から受け止めた時のあの不敵な構えに似ている。

評価

当時の評価(といっても数年前だが)は、驚きと称賛に満ちていた。ローリング・ストーン誌(雑誌の方だ)は「彼らがこれほどまでに活気に満ちていたのは数十年ぶりだ」と書き立てた。

一方で、冷笑的な連中はこう言う。「結局、過去の焼き直しじゃないか」と。確かに、構造的な目新しさはない。複雑なメトリック・モジュレーションもなければ、洗練されたオルタード・テンションもない。だが、そんなものはストーンズに必要ないんだ。

彼らの音楽の普遍的価値は、その「不完全さ」にある。完璧なグリッド(テンポ)に合わせられた現代のポップスが、まるで防腐剤入りのコンビニ弁当だとしたら、「Angry」は市場の片隅で売られている、泥のついた獲れたての野菜だ。形は悪いが、噛めば生命の味がする。

現代の視点で見れば、この曲は「男性性の誇示」という、今のポリコレ時代には危うい側面を持っているかもしれない。だが、ロックとはそもそも「危うい」ものじゃなかったか? 批判を恐れて牙を抜かれた表現が、誰の心を震わせるってんだ。

あとがき

この曲を聴くと、なぜか昔見た深夜映画のワンシーンを思い出す。誰もいないガソリンスタンドで、くたびれたジャケットを着た男が、動かなくなったオンボロ車を必死に蹴り飛ばしているシーンだ。傍から見れば滑稽だが、その男にとってはそれが全宇宙との戦いなんだ。

今の社会は、怒ることを忘れさせてくれる。SNSの「いいね」や、アルゴリズムが推奨する「あなたへのおすすめ」に囲まれて、俺たちは茹でガエルみたいに緩やかに死んでいっている。「Angry」は、そのぬるま湯に冷水をぶっかける。

村上春樹の小説に、何十年も使い古された道具に宿る「魂」の話が出てくるが、ストーンズの音楽もそれに近い。磨り減って、傷だらけになっても、まだ機能を失わないどころか、より深い艶を放っている。50年後、この曲を聴く奴がいるかは分からない。その頃には音楽は脳内に直接ストリーミングされてるかもしれないしな。でも、もし誰かが「本物の人間が鳴らした音」を探しているなら、この曲のイントロが、暗闇の中の灯台みたいに彼らを導くはずだ。

じゃあな。俺はこれから、このレコードを大音量でかけながら、期限切れのコーヒーを飲むことにするよ。本物を見せてくれ。ロックは死なない、やつらが殺そうとしてもな。


The Rolling Stones are back with "Angry"! 80-year-old Mick's vocals are insane. It’s not just nostalgia; it’s a middle finger to the polished modern pop scene. Rock 'n' roll at its rawest. 🎸🔥 #RollingStones #HackneyDiamonds

#MusicFile #音楽 #TheRollingStones #Angry #RockAndRoll #蛮楠烈太 #レコードのある生活 #生存証明 #創作大賞2026 #オールカテゴリ部門


いいなと思ったら応援しよう!