虐待サバイバーの自分革命──たとえ猛毒だろうと、進化してやる。
本作は、筆者自身の記憶と体験をもとに綴ったノンフィクションです。
第一章「歴史を終わらせろ」

太古の昔、地球上生物にとって酸素は〝猛毒〟だった。約27億年前ごろからシアノバクテリアが光合成で酸素を大量放出しつづけた結果、当時の生物たちは酸化反応による細胞破壊で絶滅の危機に直面した。
しかし猛毒である酸素に適応できた生物、もしくは深海などに上手く逃げられた生物は滅びることなく、進化することができたのだ。今日においてもDNA鑑定などで用いられる母系遺伝のミトコンドリアは、そんな太古の猛毒がもたらした進化の産物でもある。
母、祖母、曾祖母、高祖母……
すべての女性をたどっていけば、一体どこに終着するのだろう。

歴史は、繰り返されてきた。
宗教に答えを求めるか、現代科学に答えを求めるか、はたまた自分自身で納得できる答えを探し続けるのか。何にせよ、答えはいつもその人自身の中にある。
だからこそ主張したい。
どんな人間にも歴史はあるのだと。
そしてその歴史には、
光もあれば闇もあるのだと。
アンガーマネジメントができず、殴る蹴るで怒りを発散していた義父。どうやら彼もかつて実の父である義祖父から、同じようにして暴力を以て怒られていたのだとか。
それなら義祖父も誰かから暴力を⋯?
はたしてどこから受け継がれてきた歴史なのか。それはもう知る由もない。
なぜならこうした真実を知ったのは、すべてが終わってからのことだった。後に母から聞いたのだ。ちなみに私自身については長年のDVによる解離症状ゆえか、義父と過ごした約10年間をあまり覚えていない。
ネガティブな記憶がすっぽりと抜け落ちてしまっているのだ。正直、悪いことは何も覚えていない。だから一見いいことのようにも思えるが⋯⋯
これは異常な環境が生み出してしまった、
私の〝適応能力〟だった。
地球にとっての酸素。過酷な環境でも生き延びるための適応能力。これらは環境が異なれば、薬にも毒にもなり得るものだ。
過酷な環境を抜け出せれば、しあわせになれると思っていた。でもそんな簡単な話ではなかった。むしろここからが本当の闘いで。
かつて私を支えてくれた適応能力は、平和な日常の中で、猛毒へと姿を変えていた。そして私は生きるために、この〝猛毒〟からエネルギーを生み出さねばならなかった。
人生がつらくて「死にたくないけど生きたくもない」「まるで生き地獄だ」と泣いたこともある。もしかしたら何か脳にトラブルが起こっているのかもしれない、発達障害があるのかもしれないと思い診察に行っても、突き付けられるのは〝正常〟という事実ばかり。
じゃあこの生きづらさは一体何なんだ?
頭の中はいつも禅問答。
だけど答えは全く見つからない───
シェアハウスにはじめて引っ越したのは、そんな迷いの時期だった。
変革にはエネルギーが要る
とあるネットのリアリティ番組で偶然耳にした、 「お前で歴史を終わらせろ」 という激励。出演者に自分を重ねてしまっていたからこそ、この言葉は画面越しに私の心に深く響いた。
しかしながら、歴史というものはそんな簡単にすぐ終わるものではない。教科書にたった1行でしか表されない歴史の出来事にだって、さまざまな要因が複雑に絡み合っているのだ。さてこの歴史に終止符を打つためには、どうすればいいのだろうか。
そんな道なき未知を歩むうちに、とあるシェアハウスでの交流をきっかけにして興味深い国と出会うことになった。イスラム教の聖地を持つ誇り高き国、サウジアラビアである。
〝鳥は卵の中から抜け出ようと戦う〟
── ヘルマン・ヘッセ『デミアン』
さらにこう続く、
「卵は世界だ。生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない」と。
当たり前だと信じている世界を壊すのには、とてつもないエネルギーが要る。苦痛を伴う。しかしそうしなければ、雛は生まれず死んでしまう。だから世界を破壊する必要があるのだ。

闘え。闘え。
生まれ出る〝そのとき〟が来るまで
決して、諦めるな。
