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【エッセイ】コスパ時代に偶然を重ねて│今日も釣ったり、釣れなかったり。



🍁2025 秋

今日の浜名湖の波は穏やかだ。

暖かな日差しが水面にキラキラと反射する。
濁りもなく透き通った水の世界を
小魚たちが悠々と泳いでいる姿も見える。

担いできた釣り道具一式を下ろすと
手早く竿を組み立て仕掛けをセットする。

すぐさま活きの良さそうな虫エサを選び、
針に引っかけそのまま遠くまで投げ飛ばす。
いわゆる『ちょい投げ』という釣り方だ。


その後はリールを巻き反応をたしかめる。
なければまたリールを巻き、魚を探っていく。


5回ほど繰り返したが、今は何の反応もない。
時間は午後1時30分。
魚にとって今はご飯の時間じゃないようだ。


🌊コスパ無視の無駄時間

そうなると、魚の食欲が湧くまで
湖岸でぼーっとしなければならない。

とりあえず竿だけ出して
魚の反応を伺うことにした。

昨今ではコストパフォーマンス(コスパ)や
タイムパフォーマンス(タイパ)などの風潮が
持てはやされている。
そんな令和の時代に釣りをするなんて、
信じられないほど贅沢で無駄な時間の使い方だ。


たしかにビジネスの世界では
Time is Money(時は金なり)」であることに間違いはない。
限りある人材・時間を有効に使うべく
常に考え行動しなければならない。

しかし、最近ではそんな考え方が
人生観にも染み込んでいるようで少し寂しい。

ふと考えてみる。
魚釣りで得たいものを
最短で手に入れるためには
どうすればいいだろう。

今日は『シロギス』狙いだ。
天ぷらにすると美味しい。

🐟究極のコスパ

もし魚を美味しく
食べたいのであれば食堂に行けばいい。

料理をするのであれば
スーパーへ行けばいい。

魚を見るのであれば
水族館に行けばいい。

どんな目的であっても
最短で手に入れるルートは用意されている

しかしその全てが
自分の求めているものとは微妙に違う。

なんと言えばいいかわからないが、
やはり釣りでなければ気持ちが収まらない。


考えてみれば、釣りなんてコスパ最悪だ。

魚を釣るために仕掛けやエサまで買わなければならない。
しかもそれだけではない。
40代美容系男性にとっては
日焼け止めクリームを塗ることも欠かせない。

それで釣れるのであればまだいい。
釣れない時だってざらにある。

そうなると

もはや釣りですらない


浜名湖に500円分のエサを
惜しげもなく撒くだけの日向ぼっこ
だ。

貴重な休みを使って何をやっているんだ。

🤔何を求めている

それでも釣りに行きたくなる理由…
やはり言葉で表現することは難しい。

登山家が山に登るように、
海が、魚が、私を呼んでるからだ!
…なんてカッコいいことを言うつもりはない。

だって釣竿が1ミリも動かないのだから。
多分、海も魚も私をお呼びではない。

そのとき、竿が動いた。
「えっ?」
慌ててリールを巻く。
この重さ、この感触。あぁ…あいつか。

/ コンニチハ \


クサフグがからだいっぱいに
空気を蓄え膨らんでいる。
グーグーと声を上げ、針に引っ掛かっていた。

「私を呼んでくれたのは君か。
ありがとう。
でも、私は君を呼んでいない!!

フグは皮が厚いので針を外すには力がいる。
その上、鋭い歯を持っているので
気をつけなければ噛まれてしまう。

慎重に針を外し、湖へと逃がす。
さっきまで膨らんでいたお腹が急にしぼむ。
そしてしなやかに尻尾を揺らせて
水の中をスイスイと進み、
やがて見えなくなる。

🕰️ひとりの時間

揺れることのない釣竿をよそに、
浜名湖をぼーっと眺める。

「釣れますか?」
後ろから声をかけられる。
仲の良さそうな高齢のご夫婦がそこにいた。

「いやー。フグしか釣れませんね。」
私も苦笑いを浮かべるしかない。

「あちらでキスが釣れてたみたいですよ。頑張ってくださいね。」
旦那さんからのエールに私も笑顔で返す。

思えば釣り場とは不思議な場所だ。
もし道端であのご夫婦に会っても
おそらく会話を交わすことはないだろう。

ここが湖だから
私が釣りをしているから
ここで対話が生まれる。

この広い湖を眺めながら。

🌆夕まずめ

風が冷たくなってきた。
太陽が傾き、日差しの和らぎを肌で感じ始める。

「そろそろかな。」
魚の動きが活性化し始める夕暮れのひととき、「夕まずめ」が近づいてきた。

エサを付け替え、もう一度竿を振る。
すぐにくっと竿が引っ張られる感覚が伝わる。
この感触っ!
急いでリールを巻く。

釣れた!
シロギスが2匹。

/ コンニチハ \


傾き始める夕陽を浴びてふと思う。
私は釣りとともに「偶然」を楽しんでいたのかもしれない。


フグとの出会いも
ご夫婦との出会いも
そして、お目当てのシロギスも


それはきっと最短の道では
出会えなかった偶然の重なり。

コスパを求めたら、きっと偶然を見失う。

今日も釣れたり、釣れなかったり。

でも、それでいい。


帰り支度を済ませ車へと向かう道を
明るい夕陽が照らしていた。

浜名湖の夕日 11/16 16:32 撮影


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