【塾×エピソード】🕯️まったく肝が冷えない 肝試しの話👻
「先生、怖い話があるんですよ。」
自習に飽きたのか、
中学3年の男子ヤマムラが
妙に楽しげな顔でこちらに近づいてきた。
夏休みは授業時間外でも
受験勉強のため
塾の自習室を利用する生徒も多い。
問題が解けないから教えてほしいと
私のもとに質問にくる生徒もいるが、
中には集中が続かず
話し相手を探す生徒もいる。
「おい。受験生なんだからもう少し頑張れよ。」
「いやいや。
オレ、もう2時間も勉強しましたよ!
これ以上、集中もたないですよ。
休憩だって大事ですよ。」
もっともらしいことを口にする。
たしかに、
集中力が続かない中で勉強しても効率が悪い。
でも、2時間も勉強してた?
呆れながらも仕事の手を止め、
彼の言う「怖い話」に耳を傾けることにした。
教室の外は灼熱の景色が広がり、
陽炎が立ち上っている。
連日うだるような暑さだ。
そんな中、少しでも涼を求め
その「怖い話」に引き寄せられていった。
「で、何だって?怖い話?」
ヤマムラは満足そうに笑みを浮かべた。
👻公園の肝試し
「あれはちょうど、一年前の夏休み。
肝試しに行ったんですよ…。
中学校の隣に公園があるじゃないですか。
知ってます?」
ああ、知ってるよ。
北側に駐車場がある公園だよね。
「そうそう。
その駐車場にみんなで集まったんですね。」
なるほど。肝試しっていうからには
時間は夜だよね。何時ごろ?
「夜8時くらいですかね。
辺りは真っ暗なんですよ。
あの辺はあんまり家もないんで。」
たしかにね。
思わず身を乗り出して話を聞いた。
「そこって、
野球場を囲むように
ぐるーっと歩道があるんですよ。
そこに沿って、
時計回りに進むと…
公園を一周する道と
海に出る道に分かれるんですね。
でも、知ってました?
今、海に出る道って
侵入禁止になっているんですよ…。」
えっ、なんで?
その理由を想像して身震いする。
たしかに夜の海は
引きずり込まれそうな恐ろしさを感じる。
「いや。
海、行けないですよ。
工事中なんで。
そっちじゃなくて公園を一周する方の道です。」
あっ、そうなの?
てっきり、海の方に行ったかと思った。
怪談って、だいたいそういう
禁忌を破るところから始まるじゃない?
いや、破れって言ってるわけじゃないよ。
というか…
この海への道の話。要る?
ヤマムラは構わず、話を続けた。
「公園を一周する道を進むと
そして目の前に、現れたんですよ。
壁が汚くて、黒く変色した古びたトイレが。」
おぉ…不気味だ。
思わず息を飲んだ。
「そのとき、友達の一人が気づいたんですよ。
トイレの前にあった花とか果物とかのお供え物がなくなってるって!」
ん…どうした?
ヤマムラ。
急に大声出して。
えっと…
ここが怖がるところなのか。
どういう状況?
頭が追いつかない。
ヤマムラがじれったそうに
早口で説明を始める。
「だって。怖くないですか!?
お供え物がなくなってるんですよ。
それは誰かがここに来て、
それを持っていったってことじゃないですか!」
…いや。ちょっと待て。
冷静に考えて。
トイレの前にお供え物が「ある」ことの方が怖くないか?
普通はそんなところにお供えしないぞ。
「えっ?」
だから…
誰かが持っていったかよりも、
誰かがお供えをしていったことの方が
ずっと怖いでしょ。
「…まぁ、それは置いておいて…」
置いておくの?
「いや。ここからが怖いんですよ。
そこからトイレの中に入ったんですね。
薄暗い中にはじめっとした
空気といやな匂いが立ち込めているんですよ。
懐中電灯で中を照らすと、
薄汚れたトイレが
ぼんやりと浮かびあがってきたんです。」
まるで古いトイレに漂う悪臭が
辺りを包むように感じられた。
「そこで、個室の方も覗いてみたんですよ。
もちろん誰もいるはずないんですよ。
でも、なぜか上から何かの視線を感じたんです。
そこで友達がうわぁって叫んで、
ふと懐中電灯で上を照らすと…」
いつのまにかヤマムラから笑顔が消え、
真剣な眼差してこちらを見ている。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「そこには…
見たことがないくらい
デカイ蜘蛛がいたんです!」
おぉ…。
お?
「怖くないですか?
手の平ぐらいデカイんですよ。
こんなですよ。こんな。
うわぁ!ってみんなでトイレから飛び出して。」
ヤマムラはそのときの蜘蛛の大きさを
その身ぶりで必死に伝えようとしている。
いや…怖いよ。
そんなの夜に見たらびっくりするけど。
でも、
欲しいのはそっちじゃない。
「それで、せっかくなんで
女子トイレの方にも入ったんですよ。」
おい!
何サラッと言ってるんだ。
「近くまで寄ったから」の感覚で
女子トイレに入っちゃダメだろ!
今、めちゃくちゃ怖いことしてるぞ。
「いや。誰もいないですよ。」
そういう問題じゃない!
いても、いなくても関係ないだろ。
「それで結局何もなくて…
公園をぐるっと一周して、
また駐車場に戻ってきたんですね。
でも、そのときに気づいたんです。
あれっ、人数足りなくない?って。」
何それ…急に怖い。
というか、そもそも何人で行ったの?
「20人くらい」
えっウソでしょ?
この周辺って夜の8時頃でも
中学生20人がフラフラしてるの?
どうなってんの?ここの治安。怖っ!
「いや。みんな、友達の家とかに泊まってたみたいで、抜け出してきたって言ってましたよ。」
呼び掛けたら20人も集まるなんて。
もう、
学校の課外活動じゃん。
「で、女の子が2人いないってなって。
これちょっとヤバイかもってなって、
みんなもザワザワしだして。
そこで男子3人が女の子達を探しに戻ることに
なったんですよ。」
うん。それ、ヤバイぞ。
それでどうなったの?
「それで、自分達は駐車場で、
戻ってくるのを待ってたんですね。
そうしたら、女の子達の方が先に
逆方向から駐車場に戻って来たんです。
どうやら、あのトイレまで行かずに
怖くて引き返してきたみたいで。」
そうなんだ。
でも、そうすると…。
探しに行った3人はどうなったの?
「あっ、普通に戻って来ましたよ。」
そう。
何もなかったんだ。
「で、最後に集合写真撮ったんですよ。
やっぱり、定番じゃないですか。」
定番って何だよ。
でも集合写真って…
一気に緊張が走る。思わず息をのんだ。
それで
何か変なものが写っていたの?
「いや。何にも写ってなかったですよ。」
写ってないの!?
じゃあ、なんで話したんだ。
というか…
この集合写真の話。要る?
なんなら
さっきの女の子の話も要らんよね?
そもそもだけど。
なんで、肝試しなんてしようと思ったの?
「いや。そのときちょっとお酒入ってて
気持ちが大きくなってたんで。」
怖っ!
未成年だからって
何でも許されると思うなよ。
「いや違うんですよ。
友達が『美味しいから飲んでみろ』って
騙してきたんですよ。」
なに?
その友達も怖っ!
降り注ぐ太陽の光は相変わらず
肌に刺さるような熱を放ち続けている。
ひとつも涼しくなんかならない。
「でね、先生。
実はもっと怖い話があるんですよ。」
いや、もうお腹いっぱい。
