【エッセイ:第28回】🌿 匂いが運ぶ記憶
職場のコピー機から漂う、インクとペーパー用紙が混ざり合った独特の匂い。
あるいは、知人の家を訪れたときにふと感じる、自宅とは異なる生活の香り。
私たちは日々、こうした「匂い」を通して、無意識のうちに空間の違いを感じ取っているのではないでしょうか。
匂いは、その場の空気や雰囲気を形づくり、ときに記憶と深く結びついているように思います。✨
👨🏫 私は高校教師として21年間、同じ職場に勤めてきました。
数年前、縁あって系列の大学へ異動しましたが、現在も週に2日ほどは高校で授業を担当しています。
高校の校舎に足を踏み入れた瞬間――
あの頃と変わらない空気と匂いに包まれると、日々の出来事や生徒たちとのやり取りが、一気に胸の奥によみがえってきます。
それは、懐かしい場所に久しぶりに帰ってきた感覚に似ています。
しかしそれ以上に、自分の中に確かに存在していた「高校教師としての時間」が、今ここで再び動き出すような、不思議な感覚なのです。⏳
📚 授業を終え、同じ敷地内にある大学の研究室へ戻ると、そこにはまた別の匂いと空気が広がっています。
高校の教室には、生徒たちの声やざわめき、制服に残る柔軟剤の香り、部活動帰りの汗の匂いなどが入り混じり、エネルギーに満ちた空気が流れています。🔥
一方、大学の研究室には、本の紙の匂い、パソコンやプリンターの機械的な香りがほんのりと漂い、静けさと集中の空気が支配しています。🖥️
同じ敷地であっても、匂いが運ぶ空気はまったく違う。
だからこそ私は、匂いによって自分の役割や立ち位置を感じ取り、それぞれの場にふさわしい自分へと自然に切り替わっていけるのかもしれません。
🌸 匂いは、視覚や聴覚のように明確に説明しやすいものではありません。
けれど、私たちの感情や記憶と密接に関わり、ときに過去の一場面を鮮やかに呼び起こす力をもっています。
そんな体験をするたびに、私は思うのです。
「人の人生は、匂いに包まれている」と。
過去のある一点に戻ることはできない。
けれど、匂いを通して、その空間の記憶に触れることはできる。
そしてそれは、今ここに立つ自分の歩みを、そっと肯定してくれているように感じられるのです。🌿
教育の現場もまた、目に見えない空気や文化、そしてそこに漂う「匂い」によって形づくられています。
そうした教育の本質や、これからの英語教育のあり方について考察したものが、拙著
📘 『日本の英語教育のゆくえ』 です。
もしご関心をお持ちいただけましたら、ぜひお手に取っていただければ幸いです。
きっと、あなたの記憶の中の「教室の匂い」とも、どこかで重なるはずです。✨
📖 次週の予告
(毎週水曜日更新です。ご期待ください!)
第5章 記憶の中の風景
― 過去と現在が交差する瞬間
【第29回】四季に学ぶ、生き方のかたち
エッセイ全体の目次はこちらです。
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