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中小建設業が、大手と戦うための「一人DX」

― 人を増やせない会社が、AIで持つことになる、もう一つの選択肢

はじめに

地方の中小建設業の現場で、こんな話をよく聞きます。

「大手はDXの専門部署がある」「うちみたいな会社は、DXなんて無理だ」「IT担当者を雇う余裕もない」。

その気持ちは、よく分かります。建設業18年、地方の中小規模の元請で施工管理をやってきて、同じ感覚を何度も味わってきました。大手と同じことをやろうとすると、人もお金も足りない。だから諦める。それが「常識」でした。

ところが、AIが変えたのは、その常識のほうでした。

AI時代のDXは、専門部署も大規模投資も要りません。必要なのは、業務を体で知っている社員が一人いることだけです。

これを僕は「一人DX」と呼んでいます。今、現実的に動いている話として、書きます。

なぜ大手のDXは、しばしば失敗するのか

意外に思われるかもしれませんが、大手建設業のDXは、見えるところで成果が出ているものほど少数派です。

ある統計では、大企業のDXプロジェクトの7割が、当初の目標を達成していないと言われています。建設業に限らず、業界横断の傾向です。

なぜか。理由はいくつかありますが、一番大きいのは構造の問題です。

大手は、現場と意思決定の距離が遠い。

DX推進部があり、IT部門があり、現場部門があり、それぞれの上層部がある。一つのツール導入を決めるのに、複数の部署を通す。現場の細かい運用ルールが、企画段階で抜け落ちる。導入が終わる頃には、現場の実情と乖離している。

これは、組織が大きいほど不可避な構造です。人数が多いほど、暗黙知の共有が難しくなり、意思決定が遅くなる。大手の最大の弱点は、ここにあります。

そして、AIの時代になって、この弱点が前より目立つようになりました。

中小には、大手にない3つの強みがある

逆に、中小建設業には、大手にない強みがあります。

強み1:業務を一人で全部把握している社員がいる

中小では、一人の社員が複数の業務を担っていることが普通です。安全書類も、施工管理も、見積もりも、職人さんの手配も、一人の頭の中に全部入っている。

これは、業務効率の観点では「属人化」と呼ばれて、改善対象とされてきました。でも、AI時代には、これが最強の資産になります。

なぜなら、AIに業務を教えるためには、その業務を全部知っている人間が、一人いれば足りるからです。複数人の頭に分散している知識を集める作業は、ものすごく大変です。一人の頭の中に全部あるなら、その人がAIに教えればいい。

強み2:意思決定が速い

社長と現場の距離が近い。やると決めれば、明日から始められる。

大手では「予算を取って」「企画書を回して」「役員会で承認を得て」となるところを、中小は「やってみよう」の一言で動ける。AIの世界は技術の変化が早い。決定が速い組織のほうが、確実に有利です。

強み3:現場の声が、そのままシステムに反映できる

大手のDXでは、現場の要望がシステムに反映されるまで、何段階もフィルターを通ります。中小は、現場の人間が直接ツールを触れる。「このボタンは要らない」「ここはもっとこうしたい」が、その日のうちに反映できる。

これは、AI時代には決定的な強みです。AIは、使う人間の業務に合わせて細かく調整するほど、性能が上がります。現場と開発の距離が近いほど、AIは強くなる

「一人DX」とは何か

ここで言う「一人DX」とは、具体的にはこういうことです。

会社の中で、現場と業務の両方を知っている社員を一人選ぶ。その人が、自分の担当業務の一部を、AIを使って自動化する。技術的な専門家ではなく、業務の専門家がやる。

これだけです。

会社全体のシステムを刷新するのでも、専門部署を作るのでも、外部コンサルに発注するのでもありません。たった一つの業務を、一人で、AIに任せられる形に書き直す

このやり方には、3つの利点があります。

一つ目。小さく始められる。1業務、1人。失敗してもダメージが小さい。

二つ目。現場との乖離が起きない。やっているのが現場の人間だから、現場の実情とずれない。

三つ目。横展開しやすい。1業務がうまくいけば、その隣の業務に同じ手法を適用できる。社内に「成功事例」が一つあると、他の社員も追随しやすくなる。

これが、大手の専門部署型DXとは正反対の進め方です。そして、中小の規模感に、ものすごく合っています。

大手と戦う、と言ったが、何を競うのか

ここで一つ、はっきりさせておきたいことがあります。

「中小が大手と戦う」と書きましたが、何を戦うのか。

価格でしょうか。それは違います。価格で戦ったら、規模の経済を持つ大手に勝てません。

ブランドでしょうか。それも違います。ブランド力では大手に及ばない。

戦うべきは、業務の機動力だと思っています。

具体的に言えば、「お客様の細かい要望に、どこまで早く、どこまで丁寧に応えられるか」。「現場で起きた予想外の事態に、どこまで柔軟に対応できるか」。「書類仕事の精度を、どこまで上げられるか」。

これらは、人手と時間さえあれば、本来は中小のほうが得意な領域です。お客様との距離が近く、現場での意思決定が速く、社員一人ひとりが業務を深く理解しているから。

ところが、現実には、中小はこの領域で消耗しています。なぜか。書類仕事と事務作業に、人手と時間が吸い取られているから。本来の強みを発揮する余地が、削られている。

ここを、AIで取り戻す。

書類仕事と事務作業をAIに任せて、その分の時間を、お客様対応と現場対応に回す。これができれば、中小は本来の強みで、大手と戦える局面を持てます。

具体的に何から始めるか

「一人DX」を始める具体的なステップは、3つだと思っています。

ステップ1:社内で「一人」を見つける

業務と現場の両方を知っている社員を、一人。プログラミング経験は要りません。文章をきちんと書ける人。新人に業務を教えるのが上手い人。そういう社員が一人いれば、それで足ります。

社長が誰かを指名してもいいし、本人が手を挙げてもいい。大事なのは、その一人に「やってもいい」と公式に伝えることです。

ステップ2:一つの業務を選ぶ

会社の業務全体を変えようとしない。一つだけ選ぶ。

選ぶ基準は3つです。

  • その業務に、その「一人」が深く関わっている

  • その業務に、毎日(または毎週)の繰り返しがある

  • 失敗しても、会社が傾かない

僕の場合は、安全書類のチェックを選びました。毎週やる作業で、自分が一番詳しく、もし失敗しても、人間が最終確認を入れれば致命傷にはならない。

ステップ3:時間を確保する

これが一番大事で、一番難しい。

AIに業務を任せられる状態にするには、業務時間として20〜40時間程度はかかります。これを、通常業務の上に乗せると、ほぼ確実に失敗します。

「時間を作る」ではなく「時間を空ける」。経営者が、その社員の通常業務の一部を、一時的に他の人に振り分ける覚悟が要ります。

ここでケチると、DXはまた失敗します。AI導入で一番多い失敗パターンは、「ツールは入った、でも社員に時間がなくて使いこなせない」です。

それでも踏み出せない理由

ここまで読んで、「やってみたいけれど、踏み出せない」と思った方もいると思います。

その気持ちも、よく分かります。新しいことを始めるのは、時間も気力も使います。失敗するかもしれない不安もあります。

でも、考えてみてください。

5年後、10年後、AIをまったく使わない会社は、たぶん、ほとんど残っていません。今、業界の動きを見ていて、それははっきり感じます。

つまり、いずれは取り組まなければいけないことです。問題は、いつ始めるか、です。

早く始めた会社のほうが、有利になります。失敗の経験を積めるからです。早く失敗するほど、早く学べる。AI時代は、早く動いて、早く間違える会社が、結局のところ強い

そして、これを書いておきたいのですが、中小だからこそ、早く動けます。社長が決めれば、明日から動ける。これは大手には絶対にできない動き方です。

結び:規模の常識が、ひっくり返る時代

長く、こう言われてきました。「規模がすべてだ」「大きい会社のほうが強い」。

その常識は、AI時代に少しずつ崩れていきます。AIという「人を増やさずに能力を増やせる道具」が、規模の有利を相対的に小さくしていく。

中小には、もともと、大手にない強みがあります。意思決定の速さ、現場との近さ、社員一人ひとりの業務理解の深さ。これらは、人数では測れない強みです。

そこに、AIが加わる。

「一人DX」は、人手不足に悩む中小建設業にとって、戦い方の選択肢を一つ増やす話だと思っています。専門部署も、大規模投資も、外部コンサルも要らない。社内に一人、業務を知っている人がいればいい。

その一人を見つけて、時間を空けてあげる。それが、5年後の会社を作る投資です。

うちのような中小だから無理だ、ではなく、うちのような中小だからこそできる、と捉え直してもらえたら嬉しいです。

書類に追われる現場を、AIで静かに変える記録。3児の父の現役施工管理者が書いています。

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