風の強い冬の夜、焼きカレーとリストの旋律、そして北風小僧がやって来た

📦 連載『50代からの 今日を整える暮らし ー 日常の愉しみ』より
期末の仕事に追われる夜、音楽と食卓がふたりを救った話。
豆に例えるなら「大豆」と「そら豆」のふたり
冷たい風の強い夜でした。 外に出れば、髪もコートの裾も、意志を持った生き物のように暴れます。 こんな日は、在宅勤務後のお買い物に出るのはお休み。 家にあるもので、心と体を温めることに決めました。
最近の彼は、息をつく暇もないほどハードワークの中にいます。経営トップや組織のフェーズが変われば、ガバナンスも揺らぎ、部下や顧客を思うマネージメントの苦労も絶えません。かつて同じ苦労を経験した私には、その背中の重さが痛いほど伝わってきます。
今の私たちの仕事を「お豆の大きさ」に例えるなら、私の環境はのびやかな「そら豆」で、彼もかつては同じ場所にいて、そのままずっと居られるのに、今は子供たちの未来のために、ぎゅっと詰まった過酷な「大豆」の地に移り踏ん張っています。背負っている責任を例えるなら、私は小さな「大豆」で、彼は大きな「そら豆」。
子供たちは皆、親元を離れて遠くの街で学びを深めています。 父親として、最後の一人が巣立つまで、彼はその大きな背中で家族という船を漕ぎ続けている。 せめて私がそばにいる時くらいは、五感に響く栄養を届けてあげたいと思うのです。
ビタクラフトに、香ばしい幸福感を詰めて
今夜は、チキンカレー。 一口コンロのキッチンで、一つひとつ、順序だてて進めていきます。
まずは手羽元を生姜と一緒に圧力鍋へ。 シュシュッとピンを立てて、わずか5分。この短時間でホロリと柔らかく仕上げるのが、私なりの「エコ・クッキング」です。 地球にも家計にも優しい。これは、彼との暮らしの中で育んできた、大切な生活の知恵。
ビタクラフトを熱して玉ねぎをあめ色に炒める頃、小さなキッチンは香ばしい幸福感に包まれます。 カレールーを使わない作り方は、彼が教えてくれたもの。 私も彼に倣って、S&Bの赤缶でヘルシーに仕立てます。小麦粉はほんの少量に抑えて、とろみは柔らかいスープ寄りのカレーに仕立てます。
人参、ほうれん草、かぼちゃ、舞茸……。 ストック品からありったけの栄養を詰め込み、カルシウム補給に高野豆腐もいれました。ル・クルーゼで軽く火を通し、火を止めて寝かせておくだけで深みが増します。
食卓に出す直前、チーズをたっぷりのせてオーブンへ。 小鉢には、信号機のように鮮やかな彩りのサラダを添えて。 色を整えることは、私達の心と身体を、しなやかに整えてくれます。

雪男が「寒太郎」に変わる瞬間
彼が夜遅くに帰宅すると、玄関が開いた瞬間、氷のような風が家を通り抜けました。 「なんて寒いの。まるで、雪男が部屋に入ってきたみたい」 私の冗談に、彼は凍えた顔をふっと緩めて笑いました。
ご飯が炊き上がるまでの数分間、彼にピアノを弾いてもらいます。 流れてきたのは、ロマン派リストの繊細な旋律。 鍵盤に集中する時間が、彼のストレスで張り詰めた心を少しずつほどいていくようです。
ところが、しばらくして。キッチンで仕上げをする私の隣へやってきた彼は、急におどけた調子で歌い始めました。
「北風こぞうの〜、かんたろう〜♪」
さっきまでリストをピアノで奏でていた人が、無邪気に🏌️して歌いながら笑っている。 そのあまりのギャップに、私は大きな声を立てて笑ってしまいました。 雪男が、一瞬で「寒太郎」に変わった瞬間、期末を迎える私の仕事の疲れも軽やかに吹き飛んだのです。
今日が一番、若くて美しいから
子供達の教育にすべてを注ぐ彼は、決して贅沢な暮らしではありません。 私も年金が少ないので、二人の将来への不安が、完全に消えるわけでもないけれど、小さな暮らしでも、この人と過ごす愉しい人生の終盤が、こんなにも愛おしい。
私がクリスマスに贈ったラルフローレンのシャツを、彼がさらりと着こなしている。とても似合う姿が目に入るだけで幸せなのです。実はその日のために、毎月、私の給与からやり繰りしてコツコツと積み立てて準備をしました。そんな「彼を想う時間」もまた、私には欠かせない暮らしの彩り。
50代を過ぎると、人生の残りの時間は誰にもわかりません。 「今日が一番若くて美しい日であり、同時に最後の日かもしれない」 そう思うようになってから、私はこの細やかな日常を、飛び切り丁寧に味わい尽くすようになりました。
幸せは自分の心が感じるもの。
沢山のお金と特別のロケーションもいらない。今この瞬間に味わうものだから。
不意に、訪れた熱い焼きカレーの湯気と、おどけた歌声。
この光り輝くひとときを、掌の中で大切に温めていたいのです。
貴方にとっての、日々の小さなしあわせは何ですか?
C’est la vie, et c’est si beau.
これが人生、そしてそれはなんて美しいのでしょう
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大企業での実務経験を活かし、書き手の想いや意図を汲み取りながら、文章の行間や表現を丁寧に整えます。読者に寄り添う文章や、50代ならではの知見を活かしたコンテンツ制作も可能です。
著者プロフィール:ミレーヌ
東京在住。一人暮らし歴30年。大企業正社員として働きながら、日常の小さな気づきや、手の届く幸せを感性で掬い取る喜びを綴る。
結婚や同居に縛られないパートナーシップを選び、現在は恋愛の只中にある。暮らし・働き方・関係性をひとつの生活として整えてきた。
ライターや相談業務も行う。
――価値観やノウハウを押し付けるのではなく、感じ、考える時間をそっと手渡す文章を大切にしています。
媚びない、流されない。でも、誰かの心に静かに寄り添いたい。
🎻心の機微を綴るエッセイスト・コラムニスト
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自分らしい暮らしや小さな美を楽しむ
ゆるやかなコミュニティを作るのが、私の夢。
最後は必ず一人で迎える老後、
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昭和女子の会「あんじゅ*Angel*安樹」を🌿
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