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星降る夜、50代の心を整える「不完全な私」の時間

📦 連載『こころのたからばこ』より

ひとりの夜は、50代から静かに意味を変える

50代の「ひとりの時間」は、忙しさや役割から静かに離れ、心を整えるための大切な余白へと意味を変えていきます。それは、貴重な夜の時間でもあります。

誰かの期待に応え、評価を気にする顔をそっと外し、今日一日の出来事を、言葉にしなくてもよい夜。
そんな時間に、私は映画を流しています。

あなたは、映画をご覧になりますか。


映画を「観る」のではなく、夜に流すという習慣

私はふだん、ほとんどテレビを見ません。もう20年以上、家にテレビを置いていないのです。

部屋に流れているのは、音楽か、あるいは映画。画面に集中するというより、夜の空気にそっと混ぜるように流しています。

昨年末からAmazon Primeで『ノッティングヒルの恋人』が配信されていることに気づき、無料期間のあいだ、何度も再生してしまいました。


現実ではありえない物語なのに、また再生してしまう理由

現実には起こりえない物語です。
いわば、男性版のシンデレラストーリー。量産されているテーマで、決して珍しくはありません。

自分を重ねることはできないと分かっているのに、それでも、また再生してしまう。

けれど、オープニングに流れるエルビス・コステロの「She」の甘い旋律が流れ出し、そこに美しいジュリア・ロバーツの笑顔が、ぱっと光り輝く瞬間、私の部屋は特別な空間になります。


「She」が流れると、部屋の輪郭がやわらぐ

もしコステロが、愛妻のダイアナ・クラールを怒らせてしまったとしたら、耳元でこの曲を歌えば、上質なブランデーを一口含んだときのように、理屈を越えて、魔法にかかったように、やさしくなれる気がするのです。

いつのまにか、私の部屋の輪郭がやわらかくなります。

数年前、東京公演で60代のコステロが歌う「She」を実際に聴きました。
このロマンティックな名曲が、実はこの映画のために書かれたものでも、コステロ自身の曲でもなかったと知ったのは、ずいぶん後になってからです。


アズナヴールと、記憶に残らなかった一曲

もともとは、シャルル・アズナヴールの歌。フランスで生まれたこの愛の歌を、イギリス人の作詞家ハーバート・クレッツマーが英語の詩に仕立て、アズナヴール自身が歌っています。

私が30年以上前、日仏学院の bibliothèque で、彼のCDを端から端まで借りて聴いていた頃、不思議なことに、この曲だけは私の記憶の網をすり抜けていました。

She may be the face I can't forget,
A trace of pleasure or regret

彼女は、忘れられない顔かもしれない。
喜び、あるいは後悔の面影……

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20代という若かったあの頃の私には、この歌詞の持つ「光と影」が、まだ少し早すぎたのかもしれません。


不完全な人たちが支え合う、やさしい世界

物語に登場するのは、どこにでもいそうな、誠実でまじめな男性ウィリアム。小さな書店を営んでいますが、経営は決して順調とは言えません。

彼の仲間たちも、それぞれが悩みを抱えながら、自分に正直に生きています。個性的すぎて欠けている部分も、互いに補い合いながら暮らしている姿が、美しく映ります。

事故で車いす生活になった妻を、一人ぼっちにさせない優しい夫。
ウィリアムが失恋してひどく落ち込んだ時には、新しい出会いを何度も作ろうとしてくれる仲間たち。

マイペースすぎる同居人を、ウィリアムは叱ることもなく、その至らなさを個性として受け止め、補い寄り添っています。

誰かを責めたり、ジャッジしたり、変えようとしたりしない。
完璧でなくても、頑張れなくても、美しくなくてもぴしゃりと締め出す人たちではありません。

なんて素敵な関係なのだろうと私は思います。会社員の私は常に完璧をアウトプットするのが当然のことであり、それができないと仲間や会社に迷惑をかけてしまう環境に身を置く会社員。ぴしゃりと締め出されもしますから、このぬるくて優しい時間が魅力的に映ります。

仲間の成功を羨むでもなく、失敗を笑い飛ばしてくれる。家族のようにそっと寄り添い、自分のことのように喜んでくれる。

そんな姿に、心が温まり、私もこういう人でありたいと思うのです。


映画を流しながら、50代の記憶がよみがえる

映画を流しながら、いつの間にか内省している自分がいます。

一目見た瞬間に憧れ、恋焦がれた人がいた頃。それが相思相愛の交際へとつながり、楽しんだデート。

まるでマイクロフィルムを光で投影するように、ひとつひとつの場面が浮かんでは消えていきます。

この記憶のストックの多さも、
50代という、長く生きてきた時間がくれたものなのでしょう。


「Just a girl」という言葉が、今、胸に響く理由

何度も観るたびに、共存と利他が、無理なく溶け合う関係の温かさに、思わず心が惹かれます。

華やかな世界に生きる人でありながら、告白の場面で語られる「Just a girl」という言葉は、肩書きや立場を、一瞬で脱ぎ捨ててしまいます。

年齢を重ねるほど、役割や名前は増えていくからこそ、この台詞が、静かに、深く響くのかもしれません。


星降る夜、50代の心を整える一人時間

主人公ウィリアムのまわりにいる人たちは、それぞれが、大なり小なりの悩みを抱えながらも、自分に正直に生きているように見えます。

完璧な人はいなくて、少しずつ不完全。でも欠点を隠そうともせずに自分を大切に正直に生きている。

彼らは、不完全さを個性としてお互いをリスペクトし、お互いに補い合う優しさと愛が、そこにはあります。

単なる恋愛映画で終わらない奥深さ。誰かが誰かを支えることが、特別な出来事ではない世界。

90年代は、人と人との距離が、今より少し近かったのだろうか。

私も、彼らのようになれたらいい。
50代になった今でも、そう思いながら、映画を流しています。

星降る夜のお一人様時間。
心が潤うのは、物語そのものというより、そこに流れている「温度」なのかもしれません。

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大企業での実務経験を活かし、書き手の想いや意図を汲み取りながら、文章の行間や表現を丁寧に整えます。読者に寄り添う文章や、50代ならではの知見を活かしたコンテンツ制作も可能です。

著者プロフィール:ミレーヌ

東京在住。一人暮らし歴30年大企業正社員として働きながら、日常の小さな気づきや、手の届く幸せを感性で掬い取る喜びを綴る。
結婚や同居に縛られないパートナーシップを選び、現在は恋愛の只中にある。暮らし・働き方・関係性をひとつの生活として整えてきた。
ライターや相談業務も行う。

――価値観やノウハウを押し付けるのではなく、
感じ、考える時間をそっと手渡す文章を大切にしています。

☕️ 心豊かに暮らす共感いただける方々と、
自分らしい暮らしや小さな美を楽しむ
ゆるやかなコミュニティを作るのも夢です。


最後は必ず一人で迎える老後、
どこにいても仲間で心を支えあえる
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