「破局」でも別にたいして困ってはいない【読書】
このnoteでは、書評を中心に読書に関する記事を発信しています。
今回2年ほど前の芥川賞(第163回)を受賞した遠野遥さんの「破局」を読みました。この本を読んだことで手に入れたことを整理しながらそれを記事にまとめていきます。
1.この本のみどころ
この本のみどころは、主人公が間違いのない正しい選択をしているのに、事態は徐々に行き詰まっていき破局へ向かっていく様子に感じられるリアリティ。
主人公の”陽介”は高偏差値大学の4年生(たぶん慶應)、将来は公務員、運動もできて毎日筋トレを欠かさず、”麻衣子”というステキ彼女もいる。
外見は勝ち組意識もなく心優しい完全無欠のハイスペック大学生、でもその中身は空虚でまるで"キカイのような人間"。
陽介の行動は「◯◯だから△△する」もしくは「◯◯だから△△しない」ですべて説明できてしまう。
・父親が女性には優しくしろって言ったから、女性には優しくする
・高校時代の恩師に肉をたくさん食わせてくれたから感謝する
・麻衣子と毎日セックスしたいが、麻衣子がしたくないなら無理にはできない
それは行動だけじゃなく感情の面でも同様で、
『悲しむ理由がないということは、つまり悲しくなどないということだ。』
『戻ってきた彼女は少し顔色がよくなったように見え、安心した。だから私は彼女の具合が良くなればいいと願っていたのだ。』
と自分の感情すらもすべて合理的で、簡潔で、間違いではない説明で納得していく。
そんな陽介が“あかり”という新入生と出会い、三角関係のような関係になって、破局に向かっていく。
2.破局に向かわせる正体
複雑なものをいくらシンプルに理解できても、現実は複雑なまま。
他者にある不確実な部分をいくら減らしても、わからないことばかりのまま。
陽介以外の人間、麻衣子やあかり、友人の膝はそうじゃない。
彼女ら、彼の話すことは総じて長く、その割に中身がない、行動も合理的じゃない。
いくら陽介が合理的で、簡潔で、間違いではない選択をしていても、そのアンバランスさはどんどん大きくなって、関係性を破局に向かわせる
3.でも困ってはいない
決められたルールを守ろうとするのがキカイで、そのルールを破ろうとするのが人間。
失敗することもなく、挫折することもなく、間違いのないルールを守ってきた結果として今がある。
そしてその今に困ったことは特にない。だから別に困ってはいない。
もし困ったことが起きても、何が起きているかを学習してルールを更新していけばいいだけ。高い学習能力があればそれは難しいことじゃない。
だったら、そのキカイのような人間の中に"人間のようなキカイ"をつくればいいじゃないだろうか?
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