「グレイスレス」を読んでみた【芥川賞候補作全部読む】
優れた新人若手の純文学に送られる芥川賞の候補作が5つ発表されました。1/19の選考会受賞作発表までにその候補作を全部読む、にチャレンジします。
そのチャレンジ2冊目は「グレイスレス」(文學界2022年11月号に掲載)。読み終えたばかりのバイブレーションをそのままサクッと記事にしていきます。
このnoteでは、書評を中心に読書に関する記事を発信しています。ぐちゃぐちゃになった頭の中を読書で整理してみると、それだけで人生がラクになります。人生をラクにする1冊を紹介するnoteです。
「グレイスレス」はこういうお話でした
主人公はアダルトビデオ業界で化粧師(メイク)として働く。
私が彼女たちに顔に塗る色は、時に一時間経たずに流れ落ち、崩れ、溶けていく。崩れることは前提であり、目的である。崩れれば崩れるほどカメラを回す者は喜び、ビデオは売れ、女優も売れていく。
彼女が祖母と二人で暮らすのは、都心から車で1時間半もかかる森の中にある建築家につくらせた西洋建築の家。
6歳になる前に父と離婚した母に連れてこられ、その母が再び恋人となった父と英国で暮らすために家を出ると、入れ替わりでこの家に住むようになった祖母と庭で菜園をしたバジルとトマトの上から塩胡椒とチーズをまぶして焼いたトーストと、蜂蜜をかけただけのヨーグルトとコーヒーの朝食を摂るような生活を10年続けている。
あなたもたまにはデートくらいしてくればいいのに、おばあさんとピザなんか食べていないでさ。せっかくそんな綺麗なお化粧しているのに、植木屋さんとおばあさんにしか見せないなんて。
2年目からベテランと呼ばれるポルノ業界で3年以上も仕事を続けている日焼け肌の女優、
つけ続けていればいつか本物になるかもしれないとも思わせるあからさまな作り物の乳を持つ女優、
まだ新しくつけられた名前への反応が薄い北国出身の新人女優。
そんな彼女たちに化粧を施す現場と、母はすでに出ていき、祖母と二人っきりの森の中の西洋建築の家を主人公は行ったり来たりする。
ここ2年間、彼女たちを養護する言葉も非難する言葉も救済する言葉も、そこかしこに溢れているのに、私にとって必要な言葉は10年間、一度も見つけられたことがない。ただひたすら、誰よりも早くその白濁した液体のついた髪に触れたいと思い続けている。
もう一度読む時はこう読んでみる
最初に読んで気になったポイントは次の3つ。
次に、2回目読む時はここを特に気にして読んでみます。
①「母、祖母との関係」と「ポルノ女優たちとの関係」
この小説の中心は"2つの関係性"。
「母、祖母と主人公」と「ポルノ女優たちと主人公」の関係性。
森の中にある西洋建築の自宅とアダルトビデオの撮影現場での2つの関係性の間で、そこで主人公が安定、安心を感じているような気がしました。
②男がいない、男の存在感がない
この小説のもう一つの特徴は男の存在感がまったくないこと。
父や監督、男優といったただの役割をもった登場人物としては出てくるが、特に主人公の興味、関心はほとんど男に向けられず、男からも特に影響受けていないように思えます。
男の欲望を満たすことで成立しているはずのこの世界でこのつくりは面白いと感じました。
③名前がない
この小説の登場人物には具体的な名前がついていないこと。
母、祖母、監督。
日焼け肌の女優、作り物の乳を持つ女優、北国出身の新人女優。
主人公は、役割や特徴といったその人の一部分をその人全体として捉える呼び方で呼び続けます。
比喩ではなく具体的な名前がつけられた時に関係性はどう動き、主人公にはどんな変化か起きるのか?
候補作を全部読んだ後、もう一度読むときにはこの3つに注意して楽しんでみます。
候補作は残り3作。次は安堂ホセさんの「ジャクソンひとり」か井戸川射子さんの「この世の喜びよ」を読んでみたいと思います。
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